マンナンライフ訴えられる

3/4付時事通信(Yahoo!版)より、

マンナンライフ、名古屋でも提訴=87歳女性死亡で長女

 名古屋市の女性=当時(87)=がこんにゃくゼリーをのどに詰まらせ死亡したのは、商品の注意書きなどに問題があったためとして、長女(60)が製造元の「マンナンライフ」(群馬県富岡市)を相手に2900万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こしていたことが4日、分かった。

 訴状によると、女性は2005年8月、自宅で長女が食べさせたこんにゃくゼリーをのどに詰まらせ呼吸不全となり、5日後に低酸素脳症で死亡した。

 原告側は、ゼリーの弾力性や容器構造から窒息する危険性が高いことを同社は予見できたと主張。実際、同様の事故で死亡するケースも多発していたのに、袋の注意書きも小さいなど、十分な対策を取っていなかったとした。

 女性は03年に脳出血で半身まひになり、長女らが介護していたという。

 マンナンライフは昨年、こうした事故を受け表示を拡大するなどの対策を講じた。

 マンナンライフの話 現時点でのコメントは差し控えたい。

亡くなられた87歳女性の御冥福を謹んでお祈りします。

事件の概要は、2003年に脳出血により半身麻痺になっていた87歳の女性にコンニャクゼリーを食べさせたところ、窒息を起こし5日後に低酸素脳症で亡くなられたという痛ましい事故です。遺族の訴えは記事からはまず、

原告側は、ゼリーの弾力性や容器構造から窒息する危険性が高いことを同社は予見できたと主張

簡潔すぎてどれだけ遺族の趣旨を表現しているか分からないのですが、「ゼリーの弾力性」と「容器構造」から窒息の危険性を予見可能の主張のようです。それに付け加えて

同様の事故で死亡するケースも多発していたのに

死亡事故がどれだけ多発していたかですが、国民生活センターがまとめています

事故発生年月 被害者の性別 事故時の被害者年齢 都道府県名
1995年7月 男児 1歳6ヶ月 新潟県
1995年8月 男児 6歳 大阪府
1995年12月 女性 82歳 茨城県
1996年3月 男性 87歳 鳥取県
1996年3月 男性 68歳 静岡県
1996年3月 男児 1歳10ヶ月 長野県
1996年6月 男児 2歳1ヶ月 埼玉県
1996年6月 男児 6歳 茨城県
1999年4月 女性 41歳 東京都
1999年12月 男児 2歳 京都府
2002年7月 女性 80歳 秋田県
2005年8月 女性 87歳 愛知県
2006年5月 男児 4歳 三重県
2006年6月 男性 79歳 兵庫県
2006年10月 男児 3歳 東京都
2007年3月 男児 7歳 三重県
2007年3月 男児 7歳 不明
2007年4月 男児 7歳 長野県
2007年10月 男性 68歳 不明
2008年4月 女性 75歳 東京都
2008年5月 女性 87歳 東京都
2008年7月 男児 1歳9ヶ月 兵庫県
黄色の背景を入れているところは、報道等による事故情報であり、国民生活センターは事実確認を行っていない。


5件は「報道等による事故情報」となっていますが全部で22件です。グラフにしてみると、
発生件数だけで見ると1995年に3件と1996年に5件と発生した後、1997年からこの事件が発生する2005年までの9年間に4件となっています。一方で食品による窒息死数は、厚生労働科学研究補助金 総括研究報告 食品による窒息の現状把握と原因分析によると、

食物による気道閉塞が原因で死亡する事例は、近年4,000例を超え、年々増加傾向にある。

2005年でも年間4000件ぐらいはあったとしても良いかと思います。さすがに全例調査記録は無い様で、この報告書でも、

消防本部は12か所から回答された737例を分析した。救命救急センター(病院) は75か所から回答された621例について分析を行った。

サンプル調査になっていますが、窒息の原因食品(データは窒息死に特定していません)を再掲します。

消防庁調査 救命救急センター調査

食品名 件数
穀類

 もち

 米飯(おにぎりを含む)

 パン

 粥
211

77

61

47

11
菓子類

 あめ

 団子

 ゼリー

 カップ入りゼリー
62

22

8

2

8
魚介類 37
果実類 33
肉類 32
いも及びでん粉類

 しらたき

 こんにゃく
16

4

2

食品名 件数
穀類

 もち

 米飯(おにぎりを含む)

 パン

 粥
190

91

23

43

11
菓子類

 あめ

 団子

 カップ入りゼリー
44

6

15

3
魚介類 25
果実類 27
肉類 28
いも及びでん粉類

 こんにゃく
19

8


食品による窒息死問題で必ず話題に出る「もちはどうなんだ」論の根拠の一つです。もっとも母数の問題がありますし、訴訟に至っているので安易に判定出来るものではありません。もちは窒息死の原因となっても問題が無いとの論拠ももちろんあります。2008.10.11付産経新聞(魚拓)野田聖子消費者行政担当相のお言葉として、

「モチはのどに詰まるものだという常識を多くの人が共有している」と強調

それに対しコンニャクゼリーは常識を多くの人が共有していないから、危険な食品で排除すべしのロジックは可能とも思われます。ではもち以外はどうなんだの議論も出てくるでしょうが、それについては法廷で争われると予想します。ここでなんですが、この「常識を多くの人が共有している」論ですが、名古屋とは別件の姫路のマンナンライフ訴訟の原告側の弁護士の主張が気になります。

スーパーなどの菓子売り場に置かれているケースが多く、土居弁護士は「幼児が食べることを想定して販売されている」と指摘。「にもかかわらず、責任を消費者に転嫁する姿勢は許せない。安全な製品でない限り、販売はやめるべき」と語気を強めた。

スーパーの菓子売り場にコンニャクゼリーを置いたのがマンナンライフの責任かどうかがよく分からないのですが、それは置いといて、

    安全な製品でない限り、販売はやめるべき
主張がここまでになれば「常識を多くの人が共有している」論では通用しなくなります。安全か安全でないが争点になり、その視点でのall or nothing論になりそうな気がします。もちろん「安全な製品でない限り」論は姫路の原告側の主張であり、名古屋も同じかどうかは情報がありませんから分かりません。


もう一つ

袋の注意書きも小さいなど

正直に言いますが、私は蒟蒻畑を食べた事がありませんから、現物を知らないのですが、おそらく2005年当時のパッケージはこんな感じかと思われます。

原寸を知らないのですが、確かに小さめの印象はあります。ただ効果としてはグラフを見ればお分かりのようにあるかと思うのですが、一方で2005年当時で55〜56歳であると考えられる原告にとって小さすぎたかどうかは何とも言えません。ちなみに現在の蒟蒻畑の注意書きは、
こんな様子です。マスコミ報道で伝えられる情報は限定されているため、原告側の真意がどこにあるかは把握しきれませんが、なんと言っても訴訟は水物です。水物ですから原告が勝利(定義は長くなるので控えます)するのか、被告が勝利するのかは予断を許しません。当然の事ですが原告側が圧勝する可能性も十分あります。

原告側が圧勝した場合には、この訴訟を契機にして、すべての食品にこの程度の注意書きは必要になるかもしれません。だって、厚生労働科学研究補助金 総括研究報告 食品による窒息の現状把握と原因分析には、

どのような食物が窒息の原因になるか、またどのようなヒトとヒトの特徴が窒息を招きやすいか、など食物の要因とヒトの要因についての実態は明らかでない。

こうされていますから、ゼロリスクの食品自体が存在しない事になり、もし事故が起これば同様の訴訟が起こる可能性が否定できないからです。これはスーパーなどで販売される食品だけではなく、飲食店などで提供される食品にも影響が及ぶと考えられます。そういう意味でも注目される訴訟とも考えられます。