産経の編集権

産経、朝日、タブロイド、神戸(のぢぎく県ローカル紙)の4紙が同じ医療事件を取り上げています。全部引用すると長いので病院側コメントの部分に注目して引用してみます。

1/8付産経新聞では、

  • 病院側は「血管を刺したことで出血が止まらず亡くなった」とミスを認め、遺族に謝罪した。
  • 病院側は「1度目に針を刺したときは出血は確認できなかった」としているが、この際に血管を傷つけた可能性が考えられるという。
  • 島田真院長は「主治医も立ち会っており、態勢に問題はなかったが、肝臓が悪いため出血しやすい状態だったなど危険性をしっかりと説明するべきだった。このようなことが2度とないよう取り組みたい」としている。

1/8付朝日新聞では、

  • 同病院は「結果的に力が及ばずに極めて残念」とコメントし、遺族にも謝罪したという。
  • 島田真院長は「腹水を抜く方法、態勢に問題はなかった。肝硬変の症状が悪化しており、出血後、患者の体に負担をかけないよう外科的処置は見合わせたが、対応が正しかったかどうか今後検証したい」と話している。

1/8付タブロイド紙では、

  • 同病院は「患者は重度のアルコール性肝硬変で状態が悪く、出血は偶発的なもの」としているが、「病状の悪化を招いたことは事実」とし、遺族に謝罪したという。

1/8付神戸新聞では、

  • 「家族への説明が不足していた」として女性の家族に謝罪したという。
  • 島田真院長は「この手術に出血はあり得るが、肝硬変で出血が止まりにくく、結果的に病状が悪化し、死期を早めてしまった。現時点で医療過誤とは判断していない」と説明。

一般的に括弧で引用したコメント部分は当事者の発言の直接の引用であり、そこについての文責は伝聞であるため掲載者の責任は「正確であれば」ないと考えられています。ただこうして較べるとニュアンスはかなり違う印象があります。事件自体はアルコール肝硬変の患者の腹水除去のため穿刺したところ、これが大量の出血を招き不幸にも死亡されたというものです。亡くなられた患者のご冥福をお祈りします。

この事件に対し院長はどうも記者会見を開いたようです。原因はどうであれ医療行為での患者死亡ですから、こういう時に日本の文化ではとりあえず謝罪します。この時の謝罪の意味は「罪を認めたからの謝罪」とは限らず、患者及びご遺族に「辛い思いをさせた」謝罪の意味も十分に含みます。記事情報だけですから真相はどうかは現段階ではわからないと言う前提で、病院側の発言を4紙で比べて見ます。もちろん同じ発言を聞いた上で掲載されているものと考えられます。

産経新聞 朝日新聞 タブロイド紙 神戸新聞
「血管を刺したことで出血が止まらず亡くなった」とミスを認め、遺族に謝罪した。 「結果的に力が及ばずに極めて残念」とコメントし、遺族にも謝罪したという。 「病状の悪化を招いたことは事実」とし、遺族に謝罪したという。 「家族への説明が不足していた」として女性の家族に謝罪したという。


病院側が謝罪したのは間違いありませんが、ミスを認めて謝罪しているとしているのは産経新聞だけです。それにしてもですが、病院側のオリジナルのコメントはどうだったのでしょうか、少なくとも4紙が報じた部分は含まれるわけですから、それなりに長いものであったと考えられます。

それとタブロイド紙を除く3紙は、「病院側」と「院長」のコメントを分けて掲載しています。普通に受け取ると院長以外の誰かがコメントした部分と、院長がコメントした部分があるとも考えられますが、これも普通に考えると発言したのは院長だけと考えるのが妥当です。そうなれば「病院側」は取材冒頭のコメントと言うか声明みたいなものであり、「院長」はその後の糾弾ではなかった質疑でのものかと思われます。ただ各紙のコメント引用内容にかなりのバラツキがあり、もっと大雑把に一連のものであるかもしれません。

この院長コメントはある程度謝罪コメントと関連してくる編集になると思われるのですが、

産経新聞 朝日新聞 タブロイド紙 神戸新聞
「主治医も立ち会っており、態勢に問題はなかったが、肝臓が悪いため出血しやすい状態だったなど危険性をしっかりと説明するべきだった。このようなことが2度とないよう取り組みたい」としている。 「腹水を抜く方法、態勢に問題はなかった。肝硬変の症状が悪化しており、出血後、患者の体に負担をかけないよう外科的処置は見合わせたが、対応が正しかったかどうか今後検証したい」と話している。 「患者は重度のアルコール性肝硬変で状態が悪く、出血は偶発的なもの」 「この手術に出血はあり得るが、肝硬変で出血が止まりにくく、結果的に病状が悪化し、死期を早めてしまった。現時点で医療過誤とは判断していない」と説明。


まず産経は病院側の姿勢を「ミスを認めた」としていますから、ミスの再発防止を強調する編集になっています。ところが他の3紙は病院側がミスを認めていないことを伝えています。


ここで話を戻すのですが、括弧付きのコメント部分は、編集権による切り貼りがあるにせよ、実際に発言した内容のはずです。無いものを作れば捏造になるかと考えます。とくに神戸新聞

こういう発言もあったと考えられます。これがあったから産経を除く3紙は、少なくとも病院側がミスを認めていないの内容になっているかと考えられます。ここで誤解無いようにして欲しいのですが、真相はどうであったかはここでは問題にしていません。真相も事実関係も報道時点の情報ソースは病院側の記者会見と産経が報じたように遺族側の発言しかありません。ですから記者も何が真相かの判断は不可能なわけです。問題にしているのは病院側が記者会見で「ミス」を認めているかどうかが今日のテーマです。

産経記者は「現時点で医療過誤とは判断していない」の院長発言があったにもかかわらず、病院側が「ミスを認めた」と報じている可能性を考えます。もちろん神戸新聞が捏造している可能性も完全否定できませんが、朝日新聞タブロイド紙も病院側が「ミスを認めていない」の内容ですから、多数決では論拠が薄いと思われるかもしれませんが、病院側は記者会見ではミスを認めていないと考える方が蓋然性が高いとするのが妥当です。

産経新聞が「ミスを認める」とした根拠をあえて考えてみると、

  1. 「現時点で医療過誤とは判断していない」を聞き逃した
  2. 独自ソースで「ミスを認めている」の情報を入手した
  3. 遺族側が「医療ミス」だと主張したからそうした
まずもって聞き逃していたのなら記者としての資質を疑われるかと思います。また独自ソースの取材であるにしても、こういう時の報道対応は一元的に管理される事が常識であり、さらに独自ソースと言っても院長が「ミスを認める」の発言をスクープしないと意味がありません。そういう記載はありませんし、そういう事が起こる可能性は非常に低いと考えられます。

遺族側の主張が「医療ミス」であっても、真相はともかくあくまでもそれは遺族側の現時点での主張です。遺族側の主張があれば、当然ですが病院側の主張もあるわけです。病院側の記者会見は病院側の姿勢を主張を行うところであり、遺族側が「医療ミス」であると主張しても、病院側が「ミスではない」と主張するのは妙でも変でもありません。

4紙を読み比べる限りですが、産経が主張する病院が「ミスを認めた」は根拠に乏しいものと考えられます。もう少し言えば、そういう事実がなかったにも関らず、産経が編集権の下で作成した可能性を疑います。ちなみに4紙の見出しは、

新聞社 見出し
産経新聞 尼崎医療生協病院、医療過誤で女性死亡
朝日新聞 研修医が血管傷つけ患者死亡 尼崎医療生協病院
タブロイド紙 兵庫・尼崎医療生協病院:研修医、血管に傷 35歳女性が死亡
神戸新聞 腹水抜く出術後、患者死亡 尼崎医療生協病院


こうなっています。それにしても神戸新聞はお茶目ですね、「出術」は今でも訂正されていません。