香川「だけ」の問題ではない

香川県と言っても、讃岐うどん以外にはもう一つ印象の薄い県ではありますが、県民性−風土記と言うHPに香川の県民性が紹介されています。

 「思いがけないお金が手に入ったらそれぞれどうするか」というたとえで,四国4県の県民性をみる。無頓着に「そのまま何かに使う」香川県民,質素倹約を旨とする徳島の人々は「がっちり貯金する」,「これを元手にして何倍かに増やそうとする」のが商売上手の愛媛県民。そして,「それにいくらか足して酒を飲む」高知県民となる。

 香川県民は,温暖な気候風土を反映してか,県民気質は温和で,争いごとを好まず,人付き合いはよい。反面,野心に欠け,すぐ妥協するなど,個性や積極性に乏しく,諦めも早い。時として,「へらこい」(ぬけめがない)とも評されるが,単にずるいというのではなく,自己防衛的で小成に安んじやすい,ともいう。

もちろんこれが定番と言うわけではなく、たとえば

    無頓着に「そのまま何かに使う」香川県
これに対し占いゲートでは、

貯蓄率は全国四位で、経済面でもしっかりしているのが香川県の県民性です。

なんのこっちゃらになりますが、県民性と言う評価自体が漠然としているので「そんなものだ」ぐらいに解釈するのが無難かと思います。ただ気候風土と言う点から言えば温暖であり、讃岐平野の恵みが豊かさを裏付けますから、南の高知ほどキャラの立つ県民性は基本的に出てこないように感じます。地理的にも海運が発達した江戸時代以降ならとくにですが、上方文化圏に確実に属すでしょうから、基本的に穏やかなところと考えるぐらいが妥当かと思われます。

そういう香川を舞台にした香川県県政世論調査なるものが行われ、その結果を記事にしたものが1/5付四国新聞に掲載されています。どうも地域医療の調査を基にしたようですが、

「別途負担求めよ」県民の6割超/コンビニ受診

 緊急性のない患者が診療時間外に救急病院で診療を求める「コンビニ受診」について、香川県民の6割以上が「別途負担を求めるべき」としていることが、2008年度の県政世論調査で明らかになった。また、医療従事者に理不尽な要求をする迷惑患者への対応でも、8割以上が「院内ルールを示し、従ってもらうべき」と回答。医療現場が疲弊する一因とされるこうした行為に対し、県民の多くは何らかの措置を講じることに理解を示している。

 県は、医療関係者と連携し、コンビニ受診の抑制や迷惑患者対策に乗り出しており、医務国保課は「県内でも医療崩壊の危機は迫っている。有効な対策を検討するとともに、県民にも協力してもらえるよう啓発したい」としている。

 コンビニ受診を減らす対策(複数回答)を聞いたところ、最も多かったのは「救急医療に関する広報、啓発」で75・7%。「緊急性のない患者から別途負担を求める」が62・0%で続いた。ただ、「必要なときに病院にかかるのは患者の権利」との意見も12・8%あった。

 一方、夜間に救急病院へかかる前に相談できる県の小児救急電話相談事業について、80・9%が「知らない」と回答。休日当番医などの医療情報を掲載したホームページ「医療ネット讃岐」も、69・1%が「知らない」と答えており、こうした施策を広く周知する重要性も浮かび上がった。

 医療機関で迷惑行為を行う「モンスターペイシェント」への対応では、「院内ルールを示し、従ってもらうべき」が82・5%を占めた一方、「患者の要求には応えるべき」も3・2%あった。

 このほか、県内の医療体制を充実させるために必要なこと(複数回答)では、「医療従事者の確保・育成」(61・5%)、「夜間、休日の救急医療体制の確保」(43・5%)、「在宅医療・歯科医療の充実」(31・8%)などの意見が多かった。

 調査は、無作為に抽出した20歳以上の県民3000人を対象に実施。1158人(38・6%)から回答を得た。

これについては中間管理職様が3.2%の恐怖 「「別途負担求めよ」県民の6割超/コンビニ受診」としてエントリーにされているので是非ご一読頂きたい所ですが、四国新聞の記事で取り上げられているのは地域医療調査のうち4項目です。

  1. コンビニ受診を減らす対策
  2. 小児救急電話相談事業
  3. モンスターペイシェント」への対応
  4. 県内の医療体制を充実
このうち「小児救急電話相談事業」と「県内の医療体制を充実」はとりあえず置いておいて、残りの2項目に注目してみたいと思います。まず「コンビニ受診」の調査結果ですが、

問19

 軽症の患者が緊急性がないにもかかわらず救急車を呼ぶため、救急車が出払ってしまい、本当に必要な場合に迅速な対応ができないことや、軽症の患者が休日や夜間などの時間外に救急外来に来て診療を受けるため、重症患者への対応が遅れたり、救急医の負担が増えるなどの問題が指摘されています。これらについてどう思いますか。次の中から2つまで選んでください。

〔回答者数=1,158〕

  1. 救急医療についての広報・啓発などの対策が必要だと思う 75.7%
  2. 夜間や休日における緊急性のない患者から別途負担を求めることが必要だと思う 62.0%
  3. 必要と思えばいつでも病院にかかるのは、患者の権利として当然だと思う 12.8%
  4. どういう対応がいいのか分からない 4.2%
コンビニ受診 ・・・ 軽症の患者が緊急性がないにもかかわらず診療時間外に受診を求めること。

どうしても目を引くのは

    必要と思えばいつでも病院にかかるのは、患者の権利として当然だと思う 12.8%
質問設定項目としてもかなりのものと思いますし、逆に考えればこういう質問項目がごく自然に設定されるのもちょっとした驚きです。もっと驚いたのは「12.8%」すなわち10人に1人以上がそうだと考えているのにもっと驚きました。この調査結果に対する分析もなかなかのもので、

一方、「必要と思えばいつでも病院にかかるのは、患者の権利として当然だと思う」は12.8%と2割未満である。

これはどう読んでも「少なかった」ないしは「問題にするような数でない」と受け取れる分析を香川県は行なっています。ここで香川県は人口100万程度の県ですが、それでも高松のような都市部とそれ以外ではどうかがあります。これについても分析がなされており、

年齢別にみても、職業別にみても、いずれも全体と同様である。
圏域別にも、居住年数別にも、いずれも全体と同様である。

香川県全般で「12.8%」はある事を示しています。医療関係者なら薄ら寒い思いをしている方が結構おられるような気がします。次に「モンスターペイシェント」の方ですが、

問21

 いわゆる「モンスターペイシェント」については、医療従事者が精神的に疲弊する結果、地域での医療の確保にも影響を与えうる問題も指摘されていますが、こうした問題への対応についてどう思いますか。

〔回答者数=1,158〕

  1. 暴言・暴力や他の患者への迷惑行為については、各病院での共通のルールを明確にしておき、診察を受ける患者にもこれに従ってもらうべき 82.5%
  2. 他の患者に迷惑をかけるものや理不尽な要求であっても、患者の要求には基本的には応えるべき 3.2%
  3. どちらともいえない 8.8%
(無回答) 5.5%

ここもどうしても気になるのが、

    他の患者に迷惑をかけるものや理不尽な要求であっても、患者の要求には基本的には応えるべき 3.2%
この質問項目は「あなたはモンスターペイシェントですか」に極めて近い質問項目と考えられますが、実に「3.2%」、数にして30人に1人程度も存在する事になります。医師の実感として100人に1人いても相当な負担と考えますが、現実はその3倍も存在する事がわかります。この点についての分析も実にユニークで、

一方、「他の患者に迷惑をかけるものや理不尽な要求であっても、患者の要求には基本的には応えるべき」は3.2%、「どちらともいえない」は8.8%で、いずれも1割未満となっている。

モンスターペイシェントは「1割未満」であるから問題にするほど事ではないとも受け取れる分析です。こういう数は何割なんて比率になれば破局的になるものであり、パーセント単位で出現するだけで問題になるかと思うのですが、感覚が少し違うようにも感じてしまいます。

ちょっとまとめると

  1. コンビニ受診は患者の権利として当然だと思う方が10人に1人以上(12.8%)
  2. モンスターペイシェントと自覚している方が30人に1人程度(3.2%)

こういう調査結果が香川で出ている事が確認できると考えられます。冒頭で説明したように香川県はとくに偏った県民性がある県とは思えません。それなりに特色があるにせよ、香川県であるからの特異性とか異常性はないと考えてよいと思います。そうなるとこれは全国的にそうであると考えても飛躍しすぎでないと思います。もちろん香川より酷い都道府県もあるかもしれませんし、マシな都道府県もあるとは思いますが、少なくとも香川だけの別格の事柄であると考えるのは無理があります。

そんなものであろうとの見方もありますが、新春早々、結構なお年玉を頂いた気分です。