あぶり出し技法?

ssd様のキャスト・アウェイを読ませていただいていたら、ネタにされた南淵氏の記事の掲載形態がこんた様から紹介されていました。

元々3人のインタビュー記事です

妊婦が複数の病院から救急搬送の受け入れを断られた末に亡くなったり重体になったりする悲劇が後を絶たない。再発防止のために何をすべきなのか。臨床や研究の現場にる医師に聞いた。

そうですが、南淵氏意外のコメントはマスコミの意に沿わなかったため、急遽加えたのでは?
と思えるほど、同列に並ぶのがアンバランスっす

ttp://www.katsakuri.sakura.ne.jp/src/up37392.jpg.html

謹んで画像を引用させて頂くと、

ブログに掲載する関係でかなり縮小していますが、「崩れた砦」と題するインタビュー特集である事が確認できます。インタビューされているのは、南淵氏の他に川崎医科大産婦人科教授の下屋浩一郎氏、東大医科科学研究所准教授の上昌弘氏との並列掲載の形式である事がわかります。この「崩れた砦」の記事の趣旨としては、

 妊婦が複数の病院から救急搬送の受け入れを断られた末に亡くなったり重体になったりする悲劇が後を絶たない。再発防止のために何をすべきなのか。臨床や研究の現場にいる医師に聞いた。

下屋氏は産婦人科教授で「現場」の産科医の意見として取り上げられたと思いますし、上准教授はご存知のように周産期医療の崩壊を食い止める会を主宰され、おそらく「研究」の医師の意見として取り上げられたかと考えられます。しかし南淵氏がここに顔を出している理由が不明です。周産期救急の現場とは縁の無い人ですし、研究にももっと縁遠い人のように思えるからです。インタビューを頑張って手打ちしてみます。

まず下屋氏、

 お産の最前線にいる医師はどう考えているのか。年間約150件の分娩に立ち会う産婦人科医で川崎医科大(岡山県倉敷市)教授の下屋浩一郎さん(48)は病院のネットワーク化の必要性を訴えた。

−相次ぐ受け入れ拒否をどう思うか。

 「新生児集中治療室不足と産科、新生児科の医師や看護師が足りないのが一番の原因。ただ、どれだけ態勢を整えても受け入れられないという事態はあり得る。お産は机上の計算通りには行かない。(患者側から)『(病院の)廊下にでもいいから受け入れて』との声もあるが、安全性を考えていない話だ」

−産科の実態は

 「出生数は減少傾向にあるが、2004年の早産率は5.66%で1980年(4.12%)にくらべ上昇している。さらに、低出生体重児も急増している状況がある。高齢出産の増加などが背景にある。現場の負担は増す一方だ。」

−どんな対策が必要か。

 「各病院のネットワーク化を進めるべきだ。例えば『早産ならこの病院』という具合に、病院ごとの規模や機能に合わせ、役割分担を考える。患者も一つの病院に集中しないよう、理解を呼びかけながら少し遠くても症状に合致した病院にかかってもらうべきだ。地域ごとに事情が違うので一概には言えないが、大阪では行政の協力で患者搬送のためのコーディネーター職が設置され、改善した。あとは人を育てるしかない。すべての解決策はそこに関係する」

−若手医師には産科を敬遠する向きもあるが

 「うちの大学病院では過去六年間、産科の研修医はゼロ。過酷な勤務や訴訟リスクで敬遠されていた。一方で、甘い見方かもしれないが、最近は期待も感じている。今年来た若手医師は問題意識もあり、月の半分を病院に泊り込むような勤務もいとわずにやってくれており、やりがいも感じてくれている。あとは待遇を考えるべきだ。金銭のためだけに働くわけではないが、待遇面の向上も考えないと長く仕事は続けられない」

−患者側の望むことは

 「妊婦健診をきちんと受けてほしい。健診を受けていない妊婦について、産科医は『診たくない』と思うもの。どんな症状なのかよくわからず、リスクが高いからだ。医療は双方のコミュニケーションが大切。妊婦健診を受けず、かかりつけ医がいない『飛び込み』は、悲劇につながる恐れがある。病院や行政が努力するのはもちろんだが、患者側の意識も大切になってくる」

若干違和感のある部分も無いとは言いませんが、まずまず正統的な現場の意見かと受け取ります。非常に大雑把にまとめますが下屋氏の考えは、

    不足している戦力でなんとか現場を支えながら援軍を待つ
下屋氏の立場と肩書きで焼野原論を展開するわけにも行きませんし、もちろんそういう思想もないかもしれません。現在の産科医療を維持しながら復旧を目指すならこういう意見になって然るべしかと考えます。

次は上氏です。

 福島大野病院事件をきっかけに産科医らが立ち上げた「周産期医療の崩壊を食い止める会」事務局長で、東大医科学研究所准教授の上昌弘さん(40)は萎縮する医療現場の不安を解消すべきだと主張する。

−問題の背景に産科医不足があるとされるが

 「東京のケースは医師不足のみならず配置の問題だ。特に今回起きた東部と西部は、同じ人口当たりの医師数が港区などの都心部の約十分の一程度。全国的に見ても東京は偏在が著しい」

−行政の責任は

 「都は五輪を招致できるほどの財政力を持つのだから偏在を是正できたはず。財政難のほかの自治体とひとくくりにはできない。国の責任も大きい。世界的に社会保障費抑制の潮流があり、日本も1980年代、医療費を抑えるため医学部定員の削減を決めた。問題が顕在化し、ようやく増員にかじを切った。もうひとつは医療圏ごとの病床規制。人口が急増し、需要がある地域でも規制があるために大規模な医療機関が新規参入できない。東京の東部や西部はその典型だ」

−その後の行政の取り組みをどう評価するか

 「小手先の対応に終始し、現場をより疲弊させている。必要なのは徹底した情報開示と、現場の実情を反映した規制緩和だ。医療事故に絡む訴訟を恐れて萎縮する現場の不安解消が不可欠だが、それができていない」

−医療資源の集約化と言う案もあるが

 「不安の解消が為されない現状で、ハイリスク患者を受けるために医師や病床数の多い基幹病院を作れば、地域の病院が患者をどんどん送り込むという事態が懸念される。実際、前置胎盤の手術をめぐって産科医が逮捕された2006年の大野病院事件を境に、大病院が扱う前置胎盤症例が倍増している。医療資源のバランスを崩さないためには、国民が適正な場所で適正な治療を受けるよう医療者が自ら発信することと、訴訟に発展しないよう患者や家族との対話を充実させることが必要だ」

−医療者の責任は

 「医療界は医師不足などの問題についてメディアに発信したり、解決のための提言をしたりすることを長らく怠ってきた。これは日々医療に追われる現場の医師ではなく、何十とある大学医学部にいるわれわれにような者が担当すべき仕事。現場の意見を医療界自ら情報発信し、改革する必要がある」

上氏の考えは御存知の方も多いと思います。ネット医師世論とも親和性の高い意見で、医療訴訟の医師への影響の大きさを強調し、ともすれば精神論での解決を図ろうとする行政に対して「研究」の立場から釘を刺している主張と受け取れます。下屋氏が「現場」から、上氏が「研究」からの意見を主張したのに対し南淵氏は(ssd様のところより引用)、

 医療界に厳しい提言を続ける心臓外科医の大和成和病院院長の南淵明宏さん(50)は、医学部定員増では医師不足の解消につながらないと指摘する。

−一連の事案をどのように見ているか。

 「ハイリスクの妊婦に24時間対応する『総合周産期母子医療センター』に指定され、補助金を投入されている公的な施設が、収容を拒否すること自体おかしい。特に墨東病院のケースで言えば、最終的に妊婦の搬送を受け入れて診察もしており、ならば、なぜ当初の段階で受け入れの決断ができなかったのか疑問を抱いてしまう」

−患者の容体について医療機関同士の認識の食い違いも表面化したが。

 「大事なのは、東京の事例はいずれも、受け入れを依頼したのは患者ではなく、かかりつけの病院だということだ。経験豊かな医師が緊急性を訴えていたのに、結果的には公的な大病院が聞き流してしまった形になっている。自分にかかっている患者の治療を他の医師にお願いするという行為が風習として根付いていないことも、今回の問題の背景にあるのではないか。プロ同士なのだからコミュニケーションスキルが重要だが、日本の医師は、互いの力量について疑問を持ち合っている状況がある」

−疑問とは。

 「例えば、専門医などの『資格』が技量と経験を担保しているわけではないということを、何より医師自身が自覚してしまっている。医師の質をコントロールするような基準もないから、相互の信頼が生まれない。」

医師不足も大きな要因とされるが。

 「医学部の定員を増やせば産科医不足が解消されるといった議論は短絡的だ。定員を十倍にしたら、本当に産婦人科が十倍になるのか。医師の数ばかりが増えても、悪貨が良貨を駆逐するという事態が生じることだって予想される」

−具体的には。

 「『勤務医はきついから嫌だ。まして当直なんて勘弁してほしい』と考え、昼間のアルバイト勤務だけで高収入を維持する『フリーター医師』が増えているようだ。医学部が定員を増やしたとしても、 そのようなフリーター医師ばかりになってしまう状況も起こり得る。そうなれば医師社会はますます混沌とした状況に陥るだろう。やはり分娩や手術を数多く手掛けている医師が発言権を持って、適正配置などの方策を協議しないと現状は変わらない。現場を知らない立場の『上から目線』で議論しても、問題は解決されない。」

南淵氏の考え方も周知の通りで、ここで言葉の端々についての論評は極力避けたいと思います。時間と労力の無駄です。あえて一つ指摘しておけばプロ有識者業の基本を綺麗に踏んでおられます。

  1. 医師は不足していると必ずしも考えない
  2. 医師の精神がたるんでいる
もっとも医師への精神論は南淵氏の前からの持論であり、プロ有識者業として迎合したというより、現在のプロ有識者業に必要な事柄がマッチしているとは考えられます。


3つのインタビューの中で南淵氏の意見が異質であるのは読んでの通りです。なぜにこの3つが並列されたのかの原因を考えたいところです。ここでなんですが、私の記憶間違いの可能性もありますが、下屋氏のインタビューは神戸新聞でどうも読んだ事があるように思います。確認しようと思ったのですが、既に新聞はゴミ出しされていたので確証はありません。

私の記憶に頼る推測なので十分割り引いて欲しいのですが、もし下屋氏のインタビューが神戸新聞に掲載されていたなら、伊勢新聞のソースも独自のものではない可能性があります。共同なり、時事より購入した記事がソースである可能性です。神戸新聞は下屋氏のインタビューのみを利用し、伊勢新聞は3人のインタビューを利用して記事を組み立てた可能性です。

そうやって見ると伊勢新聞の3人の人選が説明がある程度できます。伊勢新聞は言うまでも無くローカル紙です。その伊勢新聞が産科医療の「現場」の意見を取材するのにわざわざ岡山の産婦人科教授を選ぶ必然性がありません。地元情報も絡めて三重大教授なりを人選するのが妥当かと考えます。これは伊勢新聞が購入した記事だから三重大産婦人科の意見ではなく下屋氏になったと考えられます。

それと細かい事ですが、この特集の趣旨には受け入れが出来なかったの表現に、

    救急搬送の受け入れを断られた
こうなっています。また救急搬送問題の解説も副えられており、

 今年10月、脳内出血を起した東京都内の妊婦が総合周産期母子医療センターに指定されている都立墨東病院など8病院に受け入れを断られ、出産後に死亡。その後、脳内出血の妊婦が9月に杏林大病院など複数の病院に断られた末、意識不明となったことも表面化した。

ここでも

    受け入れを断られた
こういう表現になっています。ところが下屋氏の新聞社側の質問としては、
    相次ぐ受け入れ拒否
意識せずに使った可能性も否定できませんが、見ようによっては「断られた」は伊勢新聞の書いた部分、「拒否」は通信社部分の可能性を考えます。そうなるとになりますが、元の通信社記事の構成がどうなっていたかに興味が出てきます。元もと3人だけの記事であったのか、他のインタビューも含まれていたかです。また伊勢新聞が掲載したように3人並列で配信されたものか、順次配信されたものをまとめたものかです。

神戸新聞に私の記憶どおりに本当にあったとしたら、順次配信であった可能性が高いと考えます。神戸新聞は下屋氏のみ掲載し、伊勢新聞は3人そろった時点でまとめて記事にした可能性です。そうなればです、おそらく配信順は「下屋氏 → 上氏 → 南淵氏」の順であったろうと考えられます。言い換えれば「現場の意見 → 研究者の意見 → 有識者のまとめ」の構成です。

つまり通信社は意見の〆として南淵氏の意見を強調した可能性があると考えられます。ここで伊勢新聞ですが、3人同時に並べたのに趣向があるように感じます。仮に配信が週1回のペースのものであり、そのペースで掲載されていたらトリの南淵氏の意見が強調されたかもしれませんが、3人同時に並べる事により、かえって浮いていると感じた人間も少なくないとも考えます。

南淵氏も局所的には有名人ですが全国的には無名の人物です。意見として少数派であり、さらに下屋氏の肩書きが産婦人科教授、上氏は東大准教授であるのに対し、南淵氏はただの院長で心臓外科医ですから、リアル社会での信用性が一枚以上落ちるのはありえます。そこまで考えて伊勢新聞が紙面を構成したかどうかはわかりませんが、興味深い記事かと感じます。