入院時医学管理加算

開業医なので縁のないものですが、11/28付CBニュースより

救急病院が大幅減収、医療崩壊に拍車

 今年4月の診療報酬改定で、「入院時医学管理加算」の要件が厳しくなったため、地域の救急医療を担ってきた医療機関の多くが同加算を算定できなくなっている。同加算の算定を継続できない場合、中核病院(300床規模)では、減収額が年間3000万-3500万円に上るとみられている。今回の改定で厚生労働省は「病院勤務医の支援」を打ち出したが、全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)などは「減収によって勤務医の過重労働は軽減されず、地域の救急医療体制の崩壊にも拍車を掛けている。新たな算定要件は早急に見直すべき」と訴えている。

 「入院時医学管理加算」は、十分な人材と設備を備え、地域で救急医療など急性期医療を提供している病院を評価する診療報酬で、改定前までは一病床当たり一日600円を算定することができ、昨年度は206病院が届け出ていた。

 今年の診療報酬改定で厚労省は同加算を一日1200円に引き上げた。その一方で、算定の施設要件として、▽内科、精神科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科、産科または産婦人科と、これらの診療科の入院体制が整っている▽全身麻酔の患者が年間800件以上である-などを新たに盛り込んだ。

 厚労省は当初、新たな要件を盛り込んでも150-170の病院が届け出ると見込んでいたが、88病院(7月1日現在)にとどまっていることが、小池晃参院議員(共産)の国会質問で明らかになっている。
 全日本民医連の調査によると、北九州市では年間3000-5000件の救急搬送を受け入れている病院でも、新たな加算ができない状態に陥っているという。中核病院の減収額3000万-3500万円について、入院収益に当てはめると0.7-0.8%下がる計算で、これは今回の診療報酬改定での引き上げ幅0.38%を大きく上回っている。全日本民医連などは「厚労省は『勤務医対策のため病院に重点配分した』と強調したが、実際には、新たな加算を算定できない病院が相当数に上っており、増収どころか、以前の加算がなくなって窮地に立たされている」と批判している。

入院時医学管理加算とはなんであって、今春の改定でどう変ったかをまず見てみます。


改定前 改定後
60点 120点
医師の配置その他の事項について別に厚生労働省が定める施設基準適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た保険医療機関に入院している患者(第1節の(特別入院基本料を除く。)のうち、入院時医学管理加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)について、14日を限度として所定点数に加算する。 急性期医療を提供する体制、病院勤務医の負担の軽減に対する体制その他の事項につき別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た保険医療機関に入院している患者(第1節の(特別入院基本料を除く。)のうち、入院時医学管理加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)について、14日を限度として所定点数に加算する。


ごく簡単にはある程度の条件さえ満たして届出しておけば、入院から14日間はある一定の加算がつくと言うものです。点数上は
    60点(改定前)→120点(改定後)
2倍に増えています。14日フルに加算されれば840点が1680点になります。ちなみに1点は10円になります。点数だけを見れば病院の収入は増えそうなものですが、

地域の救急医療を担ってきた医療機関の多くが同加算を算定できなくなっている

算定できなくなった原因は改定後の

急性期医療を提供する体制、病院勤務医の負担の軽減に対する体制その他の事項につき別に厚生労働大臣が定める施設基準

これが厳しくなったのが原因とされます。従来に較べると

  1. 急性期医療を提供する体制
  2. 病院勤務医の負担の軽減に対する体制
  3. その他の事項
これらに対する「厚生労働大臣が定める施設基準」になりますが、例の如く例のとおり診療報酬の本には書いてありません。これは平成20年3月5日付保医発第0305002号にあります。63ページもある分厚い通達なのですが、27ページ以降の別添3「入院基本料等加算の施設基準等」に書かれています。ここに入院時医学管理加算に関する施設基準等があるのですが、全部で9つの条件があり、仕方が無いので一つづつ見ていきます。

(1) 一般病棟入院基本料を算定する病棟を有する保険医療機関であること。

これはまず問題ないでしょう。

(2) 内科、精神科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科及び産科又は産婦人科に係る入院医療を提供している保険医療機関であること。ただし、精神科については、24時間対応できる体制(自院又は他院の精神科医が、速やかに診療に対応できる体制も含む。)があれば、必ずしも入院医療を行う体制を必要としないこと。

うゎ〜お、いきなり条件が厳しくなります。内科、外科、整形外科、脳神経外科あたりまではまだ良いとして、小児科と産婦人科と精神科の

精神科はやや条件が緩和してありますが、小児科と産婦人科が消滅している地方基幹病院は少なくありません。条件緩和されている精神科も実際的にどう運用されるかは知らないですから、なかなか厳しいハードルのように感じます。

(3) 24時間の救急医療提供として、以下のいずれかを満たしていること。

  1. 「救急医療対策事業実施要綱」(昭和52年7月6日医発第692号)に定める第5「第2次救急医療体制」、第8「救命救急センター」、第9「高度救命救急センター」又は「周産期医療対策事業実施要綱」(平成8年5月10日児発第488号)に定める総合周産期母子医療センターを設置している保険医療機関
  2. a.と同様に24時間の救急患者を受け入れている保険医療機関

24時間救急体制でないと認められないようです。これは建前上そうなっているかと思いますから、とりあえずそんなものかとしておきます。

(4) 外来を縮小するに当たり、次の体制を確保していること。

  1. 病院の初診に係る選定療養の届出を行っており、実費を徴収していること。
  2. 地域の他の保険医療機関との連携のもとに、区分番号「B009」診療情報提供料(?)の「注7」の加算を算定する退院患者数及び転帰が治癒であり通院の必要のない患者数が直近1か月間の総退院患者数(ただし、外来化学療法又は外来放射線療法に係る専門外来並びにHIV等に係る専門外来の患者を除く。)のうち、4割以上であること。

ぎょぎょぎょのここは条件です。「初診に係る選定療養」とまずなっていますが、選定療養とはいわゆる公認の混合診療のことであり、初診時にこれを上乗せしている事が条件となっています。選定療養を行なうかどうかは病院の判断であり、たとえば地方基幹病院の多くは公立病院であることから、住民のために選定療養を行なわないなんてすれば施設基準を満たさない事になります。

区分番号「B009」診療情報提供料(?)とは患者を他の医療機関に紹介することです。実際の条件は事細かにうるさいのですが、ここでは単純にそう考えていただければと思います。この紹介率が4割以上であることを条件にしています。医療関係者以外には実感が持てないかもしれませんが、かなり厳しい条件です。ここの項目は「外来を縮小するに当たり」となっていますから、「病院勤務医の負担の軽減に対する体制」に該当する事なんでしょうか。

(5) 病院勤務医の負担の軽減に対し、次の体制を整備していること。

  1. 病院勤務医の負担の軽減に資する計画(例:医師・看護師等の業務分担、医師に対する医療事務作業補助体制、短時間正規雇用の医師の活用、地域の他の保険医療機関との連携体制、外来縮小の取組み等)を策定し、職員等に対して周知していること。
  2. 特別の関係にある保険医療機関での勤務時間も含めて、勤務医の勤務時間を把握するとともに、医療安全の向上に資するための勤務体系を策定し、職員等に対して周知していること。(例:連続当直は行わないシフトを組むこと、当直後の通常勤務について配慮すること等)

ここは有名無実でしょう。

(6) 全身麻酔(手術を実施した場合に限る。)の患者数が年800件以上であること。なお、併せて以下のアからカを満たすことが望ましい。

 ア人工心肺を用いた手術40件/年以上
 イ悪性腫瘍手術400件/年以上
 ウ腹腔鏡下手術100件/年以上
 エ放射線治療(体外照射法)4000件/年以上
 オ化学療法4000件/年以上
 カ分娩件数100件/年以上

年間800件の全身麻酔がどれほどの条件かは私にはわかりません。おおよそ年間の日勤数は200日程度のはずですから、1日平均4件の手術になるかと考えてはいます。年間800件のハードル問題も気になりますが、「望ましい」とされたアからカの条件が、どれぐらいのレベルで要求されるかも問題になるかと思われます。

(7) 地域の他の保険医療機関との連携体制の下、円滑に退院患者の受け入れが行われるための地域連携室を設置していること。

これは今どき問題無いかと思われます。

(8) 画像診断及び検査を24時間実施できる体制を確保していること。

こういう条件の認定も極めて甘いのが常ですから問題ないと思われます。

(9) 薬剤師が、夜間当直を行うことにより、調剤を24時間実施できる体制を確保していること。

これは案外厳しいかもしれません。地方基幹病院でも医薬分業が進んでいるかと思われますから、夜間の当直業務のために薬剤師を確保するのは思いのほかの負担になる様な気がします。一つ笑ったのは「夜間当直」で「調剤を24時間実施」です。この通達を出したのは厚生「労働省」ですから、薬剤師にも当直で夜勤をせよと明記している事になります。また勤務医と違い「連続当直への配慮」などは書かれていませんから、薬剤師会もウカウカしていると医師並の勤務を強制されるかもしれません。


改定前の施設条件が時間切れで見つからなかったのが心残りですが、ハードルが高くなったことだけは間違い無いようです。最後にこの入院時外来管理加算についての小池晃議員の質問主意書とその答弁書を示しておきます。