度胸はありそうだが・・・

ssd様のエリート開業医への道を読んでの補足です。補足と言うよりコメ欄情報の垂れ流しに過ぎないのですが、11/26付東京新聞より、

山里の診療所再開 山北町 閉所から1年8カ月

 医師が辞め、昨年4月に閉所されていた山北町西部の山里にある町立山北診療所に若い医師の赴任が決まり、25日に関係者が参列して開所式が行われた。12月1日から診療を再開する。全国的な医師不足のなか、高齢者が多い地区にとって本格的な冬を前に朗報となっている。 (長崎磐雄)

 町健康づくり課によると、同診療所は一九九六年に同町谷ケのJR御殿場線谷峨駅近くに開所。地域医療の拠点として毎月延べ三百−四百人が訪れていた。ところが五十代の医師が隣の松田町で開業するため、昨年三月末で閉所された。

 同診療所のエリアは三保、清水地区で県内最西部地域にあり、約五百七十世帯、千八百三十人が住んでいる。閉所に伴い、住民は前の医師のところまで通ったり、数キロ離れた町内の医療機関に行くなどしてきた。高齢者が多く、交通の便も悪いとあってタクシーを利用するケースもあり、町に診療所の再開要望が寄せられていた。

 町は医師探しに奔走。今年夏ごろになり、社団法人「地域医療振興協会」(本部・東京都千代田区、吉新通康理事長)と医師派遣について話し合われた結果、同協会が診療所の指定管理者になり、医師一人を派遣することでまとまった。

 派遣医は望月崇紘さん(28)。鎌倉市生まれで千葉大医学部を卒業後、二つの病院勤めを経ての赴任。専門は総合診療科で「地域密着医療を目指したい」と語る。自らは診療所二階に住み、看護師と事務員の三人体制で診療にあたる。診療科目は内科、小児科、外科。

 山登りが好きで丹沢などに入っていたことも赴任を決めた理由の一つ。「将来的には在宅医療も手掛けたい」と意欲的だ。

 瀬戸孝夫町長は「医師不足の中、ありがたい。若さと情熱に期待している」と話し、地元の清水地区連合自治会長の山崎友三さんは「不安だったが、これで住民も安心できる」と喜んでいる。

まずまず神奈川県山北町の人口ですが、山北町HPデーターベースによると、平成19年1月1日現在で総人口1万2750人となっています。そして新しく赴任される医師が行なう診療科は、

    診療科目は内科、小児科、外科
私は小児科医なので小児科が気になるのですが、対象患者数は、

年齢 人口
0〜4 336
4〜9 467
10〜14 605


小児科対象年齢(16歳未満)はおおよそ1500人、とくに多い4歳までは336人、9歳まで広げても803人。これぐらいの数なら片手間で小児科が出来る範囲かもしれません。それにしても5歳毎の年齢階級による小児人口の減少は凄く、10年間で半減ペースですから過疎の深刻さがよく分かります。ただ記事を読むと山北診療所のエリアは山北町全体ではなく、

同診療所のエリアは三保、清水地区

記事では「約五百七十世帯、千八百三十人」となっており、小児人口も均等分布していると仮定すると16歳未満の小児人口は約200人、10歳未満となると約100人ですから本当に片手間程度でできる事が分かります。どうでも良いことですが、小児科医なので少し気になったのでいちおう計算までです。

山北町全体の医療機関の数ですが

漏れているかも知れませんが、だいたいこの程度のようで他に歯科医院もあります。詳細は分かりませんが最低限の日常診療でのバックアップぐらいの体制はありそうです。

患者数ですが前任者の実績は、

毎月延べ三百−四百人

どういう診療体制かわかりませんが、標準的なものとして週4日は午前午後診、週2日は午前診のみの実質5日体制で考えると、1日当たり15〜20人程度になります。仮に1日あたり5時間の診療時間を設定していたら、1時間当たり3人から4人程度になります。その程度なら、

看護師と事務員の三人体制で診療にあたる

スタッフ的にはかなり充実しているとも考えられます。診療所の負担自体はどうも重く無さそうなのですが、問題は赴任する医師になります。

派遣医は望月崇紘さん(28)

28歳なら順当に行っていれば前期研修2年、後期研修2年の計4年を終えた頃になるのですが、医師等資格確認検索によれば医籍登録は

    平成18年
つまり前期研修2年を修了した3年目である事がわかります。前期研修については評価は全般に辛いものがありますが、やりようによっては成果は上げられるとはなっています。ただ一つ言える事は、旧来の研修医制度に較べると専門科の能力は劣るとされます。当然といえば当然で、旧来の研修システム、たとえば小児科ならば2年間ほぼ小児科のみを研修するわけですから、小児科の能力は絶対的に及ばないのは必然です。コースにより異なると思いますが、小児科研修は3ヶ月と聞いた事があります。2年と3ヶ月ではどうしても差が歴然と出ます。

私は言うまでもなく旧来の研修制度の医師ですが、それでも3年目にサポートなしで外来をやれと言われたら震え上がった気がします。やるとしても十分と言うか、すぐのサポートがある体制で行なうもので、指導医もまたそういう体制でなければ外来は到底任せきれない感覚が通常です。外来でなく病棟でも同様です。うちは暇なツブクリですが、3年目の医師にサポート無しの代診なんて金をもらってもお断りです。

そういう点から見れば非常に度胸のある医師と思います。医師には度胸も必要ですが、自らの技量の限界をわきまえる事も非常に重要と思っています。医師が一人前になるというのは、経験や技量はもちろんですが、自らの能力の限界をしっかり把握すると言うのが不可欠です。限界は度胸や情熱で乗り越えられるものではありませんし、限界を広げるのに促成栽培は通用しません。経験を積むのに早道はないのが医療です。

まあ、私のような凡人医師とは資質が根底から違うのかもしれませんが、ちょっと怖い気がしています。