アクトヒブのお話

今日は医療批評ではなく純粋に医療のお話です。

アクトヒブとはHib菌に対する予防接種で、ヒブワクチンとも呼ばれており、アクトヒブとは第一三共の商品名になります。Hib菌とはヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Haemophilus influenzae Type b)の略称で日本語ではインフルエンザ桿菌b型とも呼ばれます。ここで名前の中に「インフルエンザ」が入っていますが、これから流行が懸念されるインフルエンザ・ウイルスとは全く別の種類(Hibは細菌、インフルエンザはウイルス)の病原菌ですから、お間違いの無いようにお願いします。

インフルエンザ桿菌自体は三大市中感染症に挙げられるほどポピュラーな病原菌です。ここでHibはb型菌としましたが、bがあるなら他もあるわけでa〜fまであるのですが、アクトヒブはこのうちb型菌の予防接種になります。なぜb型菌の予防接種がわざわざ作られたかと言うと、b型菌が髄膜炎を起こしやすい性質を持っているからです。つまりb型菌の髄膜炎を予防するために開発されたワクチンという事になります。

第一三共が作ったパンフレットからの引き写し情報なので、細かい補足情報に欠ける分はご容赦頂きたいのですが、アクトヒブ自体は既に欧米諸国を中心にポピュラーな予防接種になっていたのですが、ようやく12/19から販売接種可能となっています。接種対象者は2ヶ月から5歳未満までとなっています。

接種スケジュールは月齢で微妙に変わり、

  • 2ヶ月以上7ヶ月未満の接種開始


    1. 初回免疫:3回、いずれも4〜8週間の間隔で接種。医師の判断により3週間間隔でも摂取可。
    2. 追加免疫:1回、初回の3回目からおおむね1年


  • 7ヶ月以上1歳未満


    1. 初回免疫:2回、いずれも4〜8週間の間隔で接種。医師の判断により3週間間隔でも摂取可。
    2. 追加免疫:1回、初回の3回目からおおむね1年


  • 1歳以上


      1回のみ
正直言って勉強不足(近いうちに勉強会を行ないます)でよくわからないですが、月齢が進んで接種するほど接種回数が減る仕組みになっています。もちろんキッチリした根拠はあるのでしょうが、前線の医師としては悩ましい接種回数になっています。理由は単純で
    アクトヒブは自費である
予防接種が遅れるほど接種回数が減り安くなるのです。遅れれば髄膜炎の危険性が高まるデメリットと引き換えになるのですが、発生率は年間600人程度となっています。少なくない数なんですが、残念ながら一部の方を除いて切迫感をもって「早くしないと」までの認識に乏しいところがあります。それでも「子供のために」で接種しようと考えられても、月齢でこれだけ接種回数が変われば、「安くなる1歳以降に」なんて考えが出てきそうな予感がします。

質問として「1歳以降でも大丈夫でよね?」なんてのが出てきそうで対応に苦慮しそうな予感がします。親の意識としては1歳までの予防接種として、

  1. BCG
  2. DPT:3回
  3. ポリオ:2回
これがある上にHibとなると眩暈がされる方も出てくると思います。医師サイドとしてはDPT時に同時接種がスケジュール的に望ましいのですが、とくにお一人目の子供のDPT1回目の時にどれほど啓蒙するのかの「時間」の問題が出てきます。その上で月齢による接種回数の減少が絡むと費用の問題も出てくるので、話が簡単に行くかどうかに少々不安を覚えています。対策は職員とも打ち合わせて来年までには考える予定です。しっかし1歳以上になると1回となれば、安くないから親も悩むでしょうね。ちなみに調べた範囲では1回7000円ぐらいのところはあるのは確認しています。


もう一つ実務上の問題点ですが、「重要な基本的注意」に、

本剤は、マスターシードロッド製造時にフランス産ウシの肝臓および肺由来成分、ヨーロッパ産ウシの乳由来成分を使用している。また、培養工程で米国産ウシの血液及び心臓由来成分を用いて製造されている。これらの米国産ウシ由来成分は米国農務省より健康であることが確認されたウシに由来し、欧州医薬品審査庁のガイドラインを遵守して製造されている。理論的なリスク評価により、本剤は一定の安全性を確保する目安に達している事を確認している。諸外国において、本剤の接種によりTSEがヒトに伝播したという報告はない。

以上のことから、本剤によるTSE伝播のリスクは極めて低いものと考えられるが、そのリスクに関して被接種者またはその保護者へ説明することを配慮する事。

要点をまとめれば

    アメリカとヨーロッパのウシから作っているが、公式機関から健康と認定されたウシを使っており、さらに諸外国にでもTSE伝播の報告は無いから「安全」と考えるが、ゼロとは言い切れないリスクを保護者に説明することを配慮すべし。
言わんとする事はわかりますが、具体的にどうやるかは案外難問です。