あるお話

この話はかなり前に書いていまして、どのタイミングで出そうかと考えていたのですが、昨日の流れから今日が適当そうに思えますので出してみます。ややぼかしている部分があるのは情報を頂いた旧友に迷惑がかからないようにの配慮ですので御了解ください。

大学時代までさかのぼるつき合いで、今でも断続的に交遊のある旧友と本当に久しぶりに会食しました。この御時世ですから無事再会できた事をとりあえず喜び、近況の情報交換など四方山話の花が咲いたのですが、そのとき聞いたお話です。旧友は勤務医なのですが、ある日のバイト当直の経験だそうです。経験談そのものはこれもまた今なら珍しくもないレベルといえばそれまでなんですが、経験者に生で話を聞くというのは非常にインパクトの高い印象ですから御紹介しておきます。

話は救急隊からの搬送要請です。触れ込みは

    小児の頭部外傷
いろんな地雷を頭に描かれる方は少なくないと思いますが、旧友は搬送を受け診察しました。結果は
    タダのすり傷
詳しくは聞いていないのですが、おそらくやや広範囲の擦過傷でなかったかと考えられ、外来処置で帰られています。もちろん旧友とは無事再会できたわけですから、治療上のトラブルは皆無です。ここで「それぐらいで救急車を使うな!」の御意見もあるかとは思いますが、これもおそらくですがある程度以上の出血量があり親も動転したんじゃないかと考えています。医療者ならともかく普通は血を見るというのは怖いですからね。

これだけの話なら何が問題なのだと言われそうですが、旧友のバイト病院にたどり着くまでの問合せ件数に目を剥きました。私もお酒が入っていて記憶に自信が無いのですが、なんと、なんとで、

    15件!
16件だった気もするのですが、とにかくその程度の数です。実は旧友の話を聞きながら小児の頭部外傷をよく受けた(救急当番ではなかったはず)と感じていたのですが、様々な事情が問合せた病院にあったにしろ件数の多さにやはり驚きました。もちろん救急応需が出来ないやむを得ない理由がたまたま積み重なった不運な出来事の可能性も十分ありますが、ひょっとして私の感じた「よく受けた」の感覚がかなり拡がっているんじゃないかと考え込んでしまいました。

救急隊触れ込みの「小児の頭部外傷」から連想する事ですが、

  1. 救急隊の触れ込みには時に嘘が混じる
  2. だから頭部外傷は想像以上に重傷の可能性は否定できない
  3. 重傷であった場合、脳外科と小児麻酔が必要になる可能性が出てくる
  4. もともと病院に存在しない、または時間外ですから病院内にいない、もしくはすぐには呼び寄せられない可能性がある
搬送依頼を応需して処置しきれないような重傷であった場合、再搬送の必要が生じるのですが、場合によっては患者の状態がそれを許さない可能性があり、最悪、有効な治療を施せないまま立ち往生の可能性が出てきます。また成人よりも小児の方がこういう場合には搬送先の選択枝が狭くなりますから、そういう搬送先の確保に自信が無いと躊躇する気分が出てくるところです。旧友(脳外科医ではない)がどういう判断で受けたのかわかりませんが、今どきの医療情勢から微妙な判断が頭をかすめる事例です。

小児科医は小児の搬送先の選択枝の知識(つうても殆んど選択枝など無いのですが・・・)がありますが、小児科医以外の成人を主に診察する医師なら「この時間にどこに依頼すれば良いか」は切実な問題です。またこういう場合に常に問題になるCTの問題も小さくなく、意識が失われている場合はともかく、そうでなければ小児科医でも容易な作業でなくなります。意識があっても重傷では無いとは言えません。さらに言えば当直医も旧友のようにその病院の医師でない場合も多々あります。

まさか、まさかと言うほどではありませんが、防衛意識がそこまで浸透した結果として15件が出現したんじゃないだろうかと、話を聞きながらひたすら考え込んでしまった次第です。もちろんですが、これも今どきのことですからタマタマの事情が積み重なっての結果の可能性も十分ありますが、「小児の」のキーワードから、それだけでないファクターの可能性が今でも頭を巡っています。もちろん真相は不明です。

難しい時代に本当になっていると改めて痛感しました。