日本脳炎予防接種の現段階の情報まとめ

10/18にやったお話のコメント欄情報のまとめです。地味なお話ですが、医療者としては重要と考えますからエントリーにさせて頂きます。日本脳炎予防接種を巡る経緯を簡単にまとめると。

  1. 2005.5.30にADEMによる健康被害を受け積極的勧奨を中止(事実上の中止勧告)
  2. 中止勧告を出した背景には改良型ワクチンの開発が進んでおり翌2006年から再開可能の腹積もりであった
  3. ところが最終治験段階で予想外のトラブルが多発
  4. 来年再開予定としても結果として4年間の空白が生まれた
少子化とは言え年間100万人以上の子供が生まれていますから、400万人以上の未接種者が量産された事になります。その接種再開の準備状況ですが、まず666aks様から、

 ワクチンについてはマウスの脳からサルの培養細胞に変更されて、ワクチンの申請は提出済みとのことですが、審査が慎重になった部分があって、来年4月の接種には通常のタイムスケジュールでは厳しいものがあるようです。(ぎりぎりクリアされるかもしれません。)ただワクチンの生産量は待機患者数をカバーできる程ではないようで、綱渡りになるおそれもありそうです。

続いてTOM様から、

 今日ある事でT辺製薬のちょっとえらい人と会ったので、日脳ワクチンについて訊いてみました。阪大微研筋の情報として、2009.3月末からの提供開始を目指しているが、間に合うかどうか微妙、安定供給は更にその先、と言ってました。

厚労省の机上では再開に向けての準備作業が確実にタイムテーブルに載せられているようですが、ワクチン製造を請け負うメーカーサイドは悪戦苦闘していると考えて良さそうです。実はって程では無いのですが、接種再開は今年の春にも予定はされていたようですが、最終審査段階で不合格品がかなり多く出現し、定期接種の需要を満たす量が確保できそうにないとなり断念された情報があります。

どうもなんですが厚労省としては何とか来年度に再開したいようですが、ネックの改良ワクチンの供給が来春に蓋を開けてみないとわからない状態であると判断しても良さそうです。ワクチン供給が綱渡りであっても間に合えば良いのですが、十分な量の確保ができなかったときの方針として、

  1. さらに延期
  2. 感染の危険性の高い西日本、とくに九州を中心に部分的に接種を勧める
4年間の空白はやはり大きく、そろそろまとまった数の日本脳炎患者の発生が懸念され始めており、厚労省としてもいつまでも待てる状態では無いとの認識が持たれているとの観測があります。どういう対策が取られるかはワクチン供給量で左右されると考えますが、十分で無い場合には微妙な舵取りが求められるかもしれません。


もう一つの問題である400万人の空白です。私がアングラ情報で聞いた、

    日本脳炎予防接種は積極的勧奨を見合わせたが中止とはしていない。リスクさえ承知なら自己責任で希望すれば接種可能である。接種可能であるのだから救済措置は不要である。
この話を聞いたのは2005年です。2005年時点では再開は翌年に可能の予定であり、その年は突然の中止であったためそれなりの数のワクチンが存在していた為にこの話が出たとされます。それでも酷いかなと思わないこともありませんが、前提は中止は1年です。ところが予想外の事態が積み重なって空白は4年にし及びます。前提が変れば話が変っても不思議は無く、これはSeisan様からですが、

当初の「受けることはできるのだから、受けれなかった子のフォローはしない」という方針はどうやら変わるような話になってきています。

小児科医として喜ばしい話と思っています。ただこの方針変更の話がどういうレベルで拡がっているかになります。Seisan様のソースはわからないのですが、文章からしてかなり有力筋からのものではないかと感じられます。残念ながら私の乏しい情報源からは裏付けを取れるような物はないのですが、

ただ、中止期間中のフォローができるほどの供給量は難しい(組織培養ワクチンであり、プラントのサイズによって生産量が限定されるので、生産量の増減が難しいうえに、いったん増やすと供給過剰になってしまうため)ということだそうです。だから、当面西日本中心に供給されるのではないか、という話でしたが。

かなり具体的な内容なので信頼性は高そうに感じます。もっとも懸念される情報もあり、これは「いししのしし」様からですが、

厚生労働省が今年の7/25に開催した「第17回 予防接種に関する検討会」では日本脳炎が中心で話し合われています。以下ご参考にしてください。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/txt/s0725-1.txt
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/s0725-3.html
内容は納得できるものなのですが、今回は現状把握くらいに留まっており、問題である「救済措置をどうするか」については触れられておりません。自分のところの市の担当者は新ワクチンが出たら救済措置を考えるといっておりますが、何か裏づけがあるとは思えません

微妙なお話です。厚労省の姿勢を好意的に受け止めると、接種再開予定とは言え、イチにもニにも来春のワクチン供給の見通しが非常に不安定である点が姿勢を明らかにできない原因になっていると考えます。現時点では最悪再開見送りの危険性も否定できないという事です。十分なワクチン供給が保証されない状態で救済措置を発表すると来年度にワクチン不足騒動が発生する可能性があります。救済措置は対象は4年分ですから、単純計算で通常の年の5倍のワクチンが必要になるからです。

ワクチン製造も手法の関係で生産量の調整が難しいとの事のようですから、救済措置を行なうにしても1年で一挙解消みたいな手段は難しく、何年かをかけて空白期の未接種者の解消に励むみたいな方針かと思われます。ただどういう算段をするにしてもワクチン供給の問題が解決しない限り表立っては動きにくく、現在の噂レベルの情報しか出てこないと考えています。

これらの情報を読んでの私の観測ですが、救済措置のための予算と言うのが必要です。今年の概算要求に救済措置予算がもし含まれていないとすれば、

  1. 来年度はワクチン供給によるが基本的に来年度時点の対象者に限ってワクチンを接種する
  2. 再来年度になればワクチンの供給はより安定するだろうから、その目途が確実になった時点で救済措置予算を確保する
それとこれも「いししのしし」様からの情報ですが、

ただ気になるのは、基礎免疫を旧ワクチンで追加を新ワクチンで施行した場合の抗体獲得検証をしてもらえるかというところです。

これに類似の話は、MRワクチンの時にもそれなりのドタバタ騒ぎがありました。この問題に対する治験が既に解決していればともかく、間に合っていないのなら来年度中に行なうの観測も可能かと思われます。この治験で効果ないしは安全性が証明されていない時の運用は厳格です。今でも希望者には日本脳炎接種を行っていますが、旧ワクチンで1期初回とかを既に接種されている場合、1期追加とか2期、3期はやはり旧ワクチンで行う方針になる可能性があります。

そうなると誰でも考えるのは危険性が高いとされる旧ワクチンの接種を躊躇うだろうです。実際の危険率はともかく、中止にされたワクチンを接種するのは嫌だとの感覚です。メーカーサイドにしても改良ワクチンに生産シフトを全面移行したくとも、旧ワクチンの生産量を確保していかなければなりません。接種する医療機関もこれまで接種されたワクチンが旧なのかどうかを確認しながら、2種類のワクチンを準備しなければなりません。

救済措置を行なうにも実際上の問題はいろいろ考えられます。最後に「どうせ」様からです。

1人でも重大な副作用が出れば、中止になるんじゃないかなぁ。

う〜ん、絶句。