田村市立都路診療所の不思議な当直料

元ネタはネタさがしの神であるssd様です。大元は2chのようですが、一見何の変哲もない求人広告でe-docterと言うサイトに掲載されています。どんな感じの診療所かと見れば建物は、

写真で見る限り瀟洒な診療所ですが、病院のHPが無い様なので田村市立都路診療所条例を読んでみると、

(患者収容の定数)

第8条 診療所の患者の収容定数は、19人とし、給食を実施する。

どうやら有床診療所のようです。それとwam-netを見ると、

診療科目 内科、外科

そういう有床診療所の募集人数が、

一般内科2名

現在在籍している医師数の情報がないのですが、推測できる情報が求人広告にあります。夜間当直の項目があり、

有   月 15〜16 回

情報がこれだけしか無いのでよくわかりませんが、1ヶ月に「15〜16回」の当直とは、どう考えても募集した二人の内科医で365日の当直をカバーするとしか考えられません。そうなると現在はこの診療所に内科医が存在しないか、存在したとしても非常に高齢(それも半端じゃないぐらい)で当直が出来ないのかのどちらかです。それと外科医の募集が無いので、外科医はいると考えても良いかと思います。

外科医は居るようですが、内科医だけでも365日当直があるという事はやはり外科当直もあると考えた方が良いと思われます。外科が何人で当直を回しているかは情報はありません。しかし有床診療所ですから5人も10人も外科医がいるとは思えず、内科とどっこいどっこいの人数とか考えるのが妥当かと思われます。当直内容はともかく凄まじい拘束時間の勤務である事だけは分かります。

次に気になるのは、

オンコールによる交替勤務

当直がオンコールとはと思いますが、実は病院であってもこれは可能です。

医療法第16条

 医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。但し、病院に勤務する医師が、その病院に隣接した場所に居住する場合において、病院所在地の都道府県知事の許可を受けたときは、この限りでない。

宿舎の提供は全額有償でありとなっていますから、宿舎が隣接していれば可能となります。もっともその前に有床診療所ではそもそも当直を置かなければならない規定は無く、医療サービス拡充の一環として当直が設けられていると考えられ、「オンコール」であっても問題は生じません。それと有床診療所ですから入院患者はいるはずで、人数や負担はともかく擬似当直体制は敷かざるを得ないでしょう。

ここまででも当直回数などを問題視する意見は出てくるかと思いますが、その辺はssd様のところを参考にしてもらえればと思います。私は次の当直料を注目したいと思います。

夜間当直料 1回当たり20,000円
夜間当直料は年俸に含まない

金額としては当直料としては普通です。また医師の給与は

医師免許取得後  5年標準年俸 
1,000 万円 宿日直手当は含まない
医師免許取得後 10年標準年俸 
1,250 万円 宿日直手当は含まない


どうもボーナス無しの均等払いとしているようで、当直料は年棒以外としている事も分かります。ここまでも特別おかしいと言うほどの事はないのですが、この診療所の当直は田村市立都路診療所当直規程により定められています。ここで目を引くのは

診療所当直規程第3条

 宿日直の手当は、田村市職員の給与に関する条例(平成17年田村市条例第45号)第20条第1項により支給し、勤務時間は、次のとおりとする。

ここの田村市職員の給与に関する条例(平成17年田村市条例第45号)第20条第1項なんですがこうなっています。

田村市給与条例第20条

 正規の勤務時間外に勤務することを命ぜられた職員には、正規の勤務時間を超えて勤務した全時間に対して勤務1時間につき、第23条に規定する勤務1時間当たりの給与額に正規の勤務時間を超えてした次に掲げる勤務の区分に応じて、それぞれ100分の125から100分の150までの範囲内で市長が規則で定める割合(その勤務が午後10時から翌日の午前5時までの間である場合は、その割合に100分の25を加算した割合)を乗じて得た額を超過勤務手当として支給する。

  1. 正規の勤務時間が割り振られた日(次条の規定により正規の勤務時間中に勤務した職員に休日給が支給されることとなる日を除く。次項において同じ。)における勤務
  2. 前号に掲げる勤務以外の勤務

これはどう読んでも超過勤務手当の規定です。つまり当直料は超過勤務手当の支給基準に基づいて支払われている事になります。ここで勤務1時間あたりの給与額の計算があります。

田村市給与条例第23条

 勤務1時間当たりの給与額は、給料の月額に12を乗じ、その額を1週間当たりの勤務時間に52を乗じたものから8時間(再任用短時間勤務職員にあっては、8時間に勤務時間条例第2条第2項の規定により定められたその者の勤務時間を同条第1項に規定する勤務時間で除して得た数を乗じて得た時間)に18を乗じたものを減じたもので除して得た額とする。

この文章が素人には難解で目が回りそうなんですが、仕方がないので取り組んで見ます。モデルは募集要項の10年標準の1250万円にします。まず、

    給料の月額に12を乗じ
これは年棒制のようですから1250万円そのものと解釈します。
    1週間当たりの勤務時間
これは募集要項の勤務時間を見てみると

月曜日〜金曜日  8:30  〜  17:30   火曜日 午後休診
土曜日   8:30  〜  12:30   (医師交替勤務)


まず基本は8:30〜17:30の9時間です。勤務時間に休憩時間を含むかどうか分からないのですが、この時間のままでは1日の労働時間の上限である8時間を超えてしまうので、8時間とします。火曜は午後休診となっていますが、外来が休診であるだけで勤務と考えたいのですが、そうすれば週の上限時間である40時間を越えてしまうので、医師も休みであると考えます。土曜は「交代勤務」としているので隔週勤務で2時間とします。そうすると、
    8時間 × 4(月、水、木、金) + 4時間(火) + 2時間(土、隔週勤務) = 38時間
1週間の勤務は38時間であると考えられます。その次がもっとも難解なのですが、
    1週間当たりの勤務時間に52を乗じたものから8時間(略)に18を乗じたものを減じたもので
ここはどうやら
    38時間(週間勤務時間)× 52 − 8時間 × 18 = 1832時間
これが年間の正規勤務の算出法みたいです。そうなれば時間給は、
    1250万円 ÷ 1832時間 = 6823.1円
なお端数計算は

田村市給与条例第24条

 前条に規定する勤務1時間当たりの給与額を算定する場合において、当該額に、1円未満の端数を生じたときは、これを切り捨てるものとする。

  1. 第20条から第22条までの規定により勤務1時間につき支給する超過勤務手当、休日給又は夜勤手当の額を算定する場合において、当該額に、1円未満の端数を生じたときは、これを1円に切り上げるものとする。

つまり10年標準の医師であれば時間給は、

    6823円
同様に5年標準の年棒1000万であれば5458円となります。ただ厳密には給与の月額には通勤手当などの諸手当も含まれます。どれぐらいが年棒にコミコミになっているか分かりませんが、少なくとも住宅手当は年棒と別のようなのでさらに加算される可能性が残ります。ただし労働基準法37条4項に

労働基準法37条4項

家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

厚生労働省令で定める賃金までは分からないので保留にしておきます。ここも考えようによっては年棒に含まれて居る可能性もまた残りますが、これ以上は不明です。ここで超過勤務の割増規定ですが、

それぞれ100分の125から100分の150までの範囲内で市長が規則で定める割合(その勤務が午後10時から翌日の午前5時までの間である場合は、その割合に100分の25を加算した割合)を乗じて得た額を超過勤務手当として支給する。

ここの判読も厄介なのですが、どうやら医師の場合、深夜加算は無いと規定しているようなので、素直に2割5分の割増が時間外手当てについては発生すると考えます。そうなれば時間外での時給は、

    5年標準:5458円 × 1.25 = 6823円
    10年標準:6823円 × 1.25 = 8529円

ここで思い出して欲しいのですが、内科医2人ですべての時間外勤務をカバーしています。年間の正規の勤務時間は1832時間ですから、一人当たりの年間超過勤務時間は、
    {24時間 × 365(日) − 1832時間} ÷ 2 = 3464時間
ちなみにですが、
    1ヶ月あたり288.7時間
    1週間あたり66.6時間
壮大な残業時間です。そこから計算される時間外手当の総額は、
    5年標準:6823円 × 3464(時間) =2363万4872円
    10年標準:8529円 × 3464(時間) =2954万4456円

うわぉ〜、本給の倍以上の時間外手当です。10年標準では本給とあわせると約4200万となり、尾鷲を若干下回りますが破格の高級となります。無茶苦茶のようですが、田村市立都路診療所当直規程および田村市職員の給与に関する条例(平成17年田村市条例第45号)に従う限りそうなるはずです。これは労基法の杓子規定の解釈を述べているのではなく、田村市が自ら定めた規定条例でそうなっています。それなのに募集要項に当直料を2万円としているのは何故でしょうか。

通常勤務の場合、日勤が9時間(休憩時間を含む)ですから、当直時間(時間外勤務)は15時間になります。時間外勤務に休憩時間が発生するかどうかの解釈は微妙ですが、勤務形態からして発生しないと考えるのが妥当と考えます。そうなると

    5年標準:6823円 × 15(時間) =10万2345円
    10年標準:8529円 × 15(時間) =12万7935円
募集要項に書かれるべき金額は5〜6倍以上の金額でなければならないはずです。


もう一つ素朴な疑問があります。労働基準法37条4項の割増賃金の計算に加算されない諸手当に超過勤務手当(時間外手当)は含まれるのでしょうか。肝心の厚生労働省令がわからないので何とも言えませんが、もし含まれるとしたら翌年の時間給は膨れ上がり、時間外手当の総額もまた膨れ上がります。ちょっと試算すると、勤務2年目の年収は、

    5年標準:1000万円(基本年棒) + 7949万5336円(時間外手当) = 8949万5336円
    10年標準:1250万円(基本年棒) + 9937万5232円(時間外手当) = 1億62万5232円
どこか計算違いをしている気がしないでもないのですが「たぶん」こうなります。あくまでもこれは時間外手当が割増賃金の計算に入ってのものですが、5年も働けば雪ダルマ式に時間外手当は膨らみ、一生遊んで暮らせそうな勢いになります。雪ダルマ式が無くとも、募集要項の夜間当直料でなく田村市立都路診療所当直規程に従って当直料を支払ってもらえれば、10年標準で4200万円ほどですからそれなりに魅力的な職場のように思えてきました。

尾鷲は5520万円でしたが、常駐契約で院内の生活スペースに軟禁され、休みは年に2日でしたが、田村市では年間の半分の夜及び休日は確保されて4200万円です。どちらにメリットがあるかと言えば田村市でしょう。ただし自分で交渉して募集要項の当直料ではなく、田村市立都路診療所当直規程の当直料を勝ち取るという条件付ですけどね。