一夜明けて

まず一昨日の判決前の支援コメント、昨日の無罪に対するコメントを数多く寄せて頂き本当にありがとうございます。昨日は速報分を書いた後、続報を書くつもりだったのですが、「つもり」で終わってしまいました。結局のところな〜んにも書く気が起こらなかったと言う事です。「無罪」を願い信じる気持ちはありましたが、それでも出た瞬間に茫然としてしまったのが昨日です。

一夜明けてになるのですが、無罪判決の次の問題は控訴審があるかどうかになります。一審判決直後に即日控訴みたいな冷水が浴びせられのではないかと心配していましたが、即日控訴は刑事では被告側は可能だそうですが、検察側はそうはいかないそうです。理由は担当する検察が替わるからで、一審は福島地検が担当していましたが、控訴審仙台高検になります。仙台高検が一審の結果を受けて控訴を行なうかどうかを判断する事になります。

言われてみればなるほどで、被告側は被告本人と弁護人が相談すればそれで意思が決定されますが、検察側は担当部局が変るので、一審の判決内容を検討した上でなければ控訴の決定は下されません。ふとふと思ったのですが、被告側も有罪判決の可能性は念頭にあったと思うのですが、即日控訴の準備はしていたのでしょうか。これについてはおそらく謎になると思われます。

控訴についての基礎知識を集めてみたいのですが、刑事訴訟法第3篇の上訴の第2章に控訴があります。それによると、まず控訴を行なうところは、

第三百七十四条

控訴をするには、申立書を第一審裁判所に差し出さなければならない。

なるほど、なるほど、控訴の申立書を一審裁判所に出すから即日控訴が可能なわけです。てっきり二審裁判所に出すと思っていましたが、えらい勘違いしていました。次に期間ですが、

第三百七十三条

控訴の提起期間は、十四日とする。

民事の場合は判決文が郵送で到着した日の翌日から2週間となっていましたが、刑事はどうなんでしょうか。これは第3編第1章の通則にあるのですが、

第三百五十八条

上訴の提起期間は、裁判が告知された日から進行する。

上訴は控訴、上告も含んだ概念であるとどこかで読んだ気がしますから、控訴の場合も同様と考えて良いかと思います。今回の場合は昨日の8/20が第1日目と数えるのが正しいようで、そうなると14日目は来々週の9/3になる事になります。つまり9/3の夕方の時点で控訴控訴断念かの判断を知ることができ、慎重を期すなら9/4になっても控訴していなかったら無罪が確定する事になります。2週間は短いようで長い日数に感じますし、元被告産科医師にとっても長い日々になる様な気がします。

申立書の内容ですが、

第三百七十六条

控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。
2 控訴趣意書には、この法律又は裁判所の規則に定めるところにより、必要な疎明資料又は検察官若しくは弁護人の保証書を添附しなければならない。

控訴趣意書と言うらしいですが、要するに控訴理由を明記して提出する必要があるようです。理由はいろいろあるようですが、例えば、

第三百七十七条

 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。

  1. 法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。
  2. 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
  3. 審判の公開に関する規定に違反したこと。
第三百七十八条

 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつてその事由があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

  1. 不法に管轄又は管轄違を認めたこと。
  2. 不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと。
  3. 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと。
  4. 判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること。

377条とか378条はこんな事もあるんだと言う感じですが、今回の裁判では該当しない気がします。私は法律の素人ですし、刑事訴訟法なんて初めて読みますから間違いもあるかもしれませんが、今回の裁判で該当しそうな控訴理由は、

第三百八十条

 法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その誤及びその誤が明らかに判決に影響を及ぼすべきことを示さなければならない。

第三百八十二条

 事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

380条は医師法21条の解釈についてで、382条は証人による証言の採用についてです。まだマスコミ報道以外の判決内容は目を通していないので、アレなんですが、検察側の敗因は検察側証人の証言を裁判所が採用せず、被告側証人の証言を重視した点があると見られます。検察側証人の証言を重視していれば判決が変わった可能性があり、これは検察側からすれば「事実誤認」となりますから、控訴の理由にはなりそうな気がします。

もっとも検察側が「事実誤認」と考えるのは仕方ないとしても、それだけで控訴するかどうかは別問題になります。日本の刑事訴訟はある意味特殊で、検察が起訴した事件の有罪率が異常に高いという特徴があります。確か99%以上とも聞いた事があります。つまり検察のプライドとして起訴したからには有罪で当然であるというのがあります。逆に言えば起訴しながら無罪になるというのは、検察的には「恥」みたいな感じとも仄聞します。

負けるのが「恥」だから最高裁まで粘りに粘るという側面もありますが、一審判決内容で到底勝ち目がないとなれば早期撤退の選択枝もあるわけです。俗に言う傷口を広げないというやつです。ここで一審判決を左右したのが証人の証言の比重が高いとすれば、検察側として考える手段は、

  1. 二審で被告側証人の証言を蹴落とし、検察側証人の証言を採用させる
  2. 二審で新たな検察側証人で証言させ、被告側証人の証言を覆す
冷静な判断で言えば、二審で被告側証言を検察側証言で蹴落とすのは非常に難しいと考えられます。そうなると新たな検察側証人が必要となりますが、これは一審以上に難しいのは自明です。被告側証人はそれぐらい粒よりで強力と言う事です。そうなれば控訴断念と言う選択枝が浮上してきそうですが、一説には滅多に負けない検察は容易なことでは引き下がる事はなく、傷口を広げても玉砕戦術をしばしば取るともされます。最高裁まで争って決定的な「負け」を記録する事が検察のプライドを守る事になるという理屈だそうです。

今日のお話は一夜明けての感想程度ですし、現時点で判決内容の詳細を知る立場ではないので気楽な観測ぐらいに解釈お願いします。そうそうマスコミの反応についてのお話を期待されていた方もおられるかもしれませんが、どうにも食傷気味で今日は触る気にならなかったので悪しからず御了承ください。