札幌秋の陣の予想

札幌夏の陣までのこれまでの経過ですが、

  1. 去年に札幌市産婦人科医会が「一次救急分離」を含む産科救急改善の最後通告を行う
  2. 札幌市救急医療体制検証委員会でこの最後通告を拒否
  3. 最後通告期限ギリギリに札幌市産婦人科救急医療対策協議会をバタバタと創設し6ヶ月の猶予期間を設定
  4. 札幌市産婦人科救急医療対策協議会でも「一次救急分離」案を札幌市側が拒否して交渉決裂
  5. 10月限りで医会は二次輪番から撤退
おおよそこのような経過で7月まで来ています。ちなみに北海道新聞によれば最後まで札幌市側が拒否した理由は、

市保健所の館石宗隆所長は「センターに医師を常駐させる体制には少なくとも年四千万円以上かかる。財政が厳しい折に多くの市民に説明できない」と強調

ちなみに

オペレーター制度は年二千万円程度の費用を見込んでいる。

医師ネット世論の声としては、もう2000万円上積みし、オペレーター制度は見送って医師への予算にすればの声が高かったですし、医会側も第4回の議事録までを読む限り、オペレーター制度には反対しないが、それはあくまでも医師を配置した上のものだと明確に主張しています。

ここまで事態は進んだのですが、このままでは札幌市の産科救急が無事に済むとは誰も思えません。当然と言うか次の展開が何かあると予想するのですが、rijin様より、

 >それとも市長が医会を弾劾して道新がこれを煽り、議会が支持するみたいな展開になるのでしょうか。

市民としての自分の目からするとだいたいその通りの展開を辿るだろうと思います。市庁職員は不運な産婦の死を待っているのです。

札幌市の行政や議会の事情には疎いのですが、rijin様がそう指摘されるのであれば、それなりに可能性の高い予測かと思われます。そうなると考えられる事はシンプルで、

  1. 財政難を理由に医会の要求を拒否
  2. 姑息策を発表
  3. 「不運な産婦」の発生
  4. 道新がネガティブキャンペインで煽る
  5. 市長が医会への弾劾声明を発表
  6. 議会が同調
  7. 市民・議会の支持をバックに医会に無理難題を押し付ける
「不運な産婦」と言っても、普段からかかりつけ医をキッチリ持っている産婦が不運に会う可能性はかなり低いものがあります。誰が「不運な産婦」になりそうかと言えば、対策協議会の第1回議事録にある

18年度、札幌市で払わなかった患者さんは26例に達していますね。1回の分娩料35万円から、病院によっては40万円、あるいはそれを超えるかもしれません。そうすると、約1,000万円近いお金が未収になってしまうのです

ここでは不払い例ですが、いわゆる「飛び込み分娩」の産婦が不運になる可能性が高くなります。不払い例だけでも26例ですから、払った例も含めると少なくとも年間50例ぐらいはありそうな気がします。そうなると週に1例ぐらいは「飛び込み分娩」が発生してもおかしくはなく、一次救急も兼ねていた二次救急輪番が崩壊すれば「受け入れ先無し」の悲劇が起こる蓋然性が高くなります。

奈良流産報道を持ち出すまでもなく、こういう事件はマスコミの格好の餌食になります。ここでマスコミが、医会の要望を蹴飛ばした札幌市に鉾先が向かえばまだ建設的な方向ですが、道新はその点については高い信用と実績を誇る新聞だそうで、ほぼ間違い無くと言ってよいぐらい医師叩きに走ると予想されます。論調はそうですね、

    如何なる理由があれども許されない医会の怠慢
とか、
    恥を知れ
こういうバッシングで世論が盛り上がれば札幌市も事を運びやすくなります。市長がおもむろに登場して医会への非難声明を発表してさらに追い討ちをかければ、市議会もこの流れに掉さすだけ莫迦らしいのでアッサリ同調するのは十分考えられる事です。なにか議決の一つでも行なうかもしれません。市民世論と議会の支持を取り付ければ、札幌市は思いっきり高飛車姿勢で医会に再交渉を要求できます。ヴェルサイユ条約並みの無理難題を強引に呑ませ一件落着みたいな段取りと言うわけです。

札幌市長はやり手の弁護士だそうで、これぐらいの駆け引きは朝飯前に構想しているんじゃないかと囁かれています。では、では、札幌市の思惑通り進むかどうかです。ヴェルサイユ条約を呑ますところまでは進むかもしれません。しかし産科医がヴェルサイユ条約を遵守するかどうかは正直なところ疑問です。そもそも医会の最後通告は現状に対する悲鳴から生まれています。悲鳴だから札幌市との交渉に一歩も譲らなかったのです。

ヴェルサイユ条約下では現在より厳しい環境が約束されています。そんな環境にドイツ国民のように耐え忍ぶ義理は産科医にはありません。札幌の地に愛着はあろうとも、そこでしか産科医が出来ないわけではりませんし、この御時世、産科医の需要はブラックホールのようにあります。つまり希望すれば各地から三顧の礼で迎えてくれるということです。

おそらく産科医の大量逃散はないと言うのが札幌市の腹積もりでしょうが、外野から見れば究極のチキンゲームをやっているように見えます。チキンゲームの結果で一番被害を蒙るのは誰かなんですけどね。


それともう一つ補足観測なのですが、これは無能な土木役人様のコメントで、

 最近では、産科の医療崩壊がしばしば報道され、かなり一般に知られるようになってきました。医師のせいにすればすべてそれですむとは思っていないんじゃないかな。私も市当局が不幸な犠牲者を待っているとは思いますが、これを予算確保のてこにするのではないかと踏んでます。予算確保が難しいときに、なにか事件がおこって予算がつくということはよくありますからね。それに、事前うまく事を運んでも手柄にはなりませんが、問題がおこったのでかくのごとく対処しましたとなると手柄になりますからね。(完全に狂ってると思うけど、世のなかこんなもんなんです。) でも、ホントは、こんなん市長が決断すればすむ話なんだけどなあ。(それにしても、こんな外道の市長にすら先の選挙でうちのOB負けたんだよな。あーあ)

無能な土木役人様の観測の骨子は私の憶測も含めて、

  1. 産科救急の予算はなんらかの障害があり「絶対」に出ない事情がある
  2. そこを突破するために「悲劇」をテコにして「緊急対応」として突破口を作る手法はよくある
いくら財政難とは言え、札幌市の予算規模で4000万円程度はさして大きな額ではありません。またこの産科救急予算は市の予算案として議会で否決されたものではなく、予算案として織り込むことを市が門前払いしている状況です。なぜ門前払いするかの理由が憶測されるところですが、これもrijin様のコメントですが、

単に市長の志向の問題です。
財源の問題は関係ありません。

札幌市長はやり手の弁護士であると上記しましたが、医療訴訟の患者側弁護士の有力者でもあります。そういう市長の志向が濃厚に医会との交渉に反映されているという見解です。交渉の直接担当者である市の役人は、当然の事ながら市長から交渉の妥結範囲を明確に指示されているはずです。また何より責任問題を忌避する役人が「交渉決裂」なんて大きな判断を行なったのも、市長の志向がないとできるはずもありません。

つまり産科救急への予算は出さないとの障害の原因は市長の志向で、1年も交渉しても医会には担当者は「No」の返事しか出す事は出来なかったのが真相じゃないかと言うことです。憶測の上に憶測を重ねる事になりますが、市の医療担当の役人は市長の志向に副って「交渉決裂」まで行ったものの、交渉決裂自体は市長の志向で責任問題にならずとも、交渉決裂後の産科救急能力低下による事故発生の責任は負わなければならない可能性が出てきます。

そうなると市の医療担当の役人の本音は「医会の提案で良いんじゃないの」の可能性が出てきます。4000万円さえ出せば医会が直接の責任者になり、市の役人は間接の責任者の地位に留まります。とは言え市長の志向に逆らえないので、志向通り「交渉決裂」までは進んでおいて、「不運な産婦」事故を契機に予算獲得の突破口にし、ついでにそういう事故への「素早い対応」の評価を得る算段をしているとも考えられます。

外野から見れば

    交渉決裂 → 「不運な産婦」事故 → 緊急対応
自らの手で交渉を決裂させておいて、ヌケヌケと緊急対応したところでマッチポンプじゃないかとしか思えませんが、役人の感覚からして、「交渉決裂」は市長の責任であり「緊急対応」は担当部局の功績と明確に区分されると思われます。

いろんな予測が立てられますが、ここで私は一つ言っておきたいです。このままでは必然的に「不運な産婦」事故は発生します。2つのシミュレーションで「不運な産婦」事故の利用方法を推測しましたが、これが起こるのはまさに人為的なものです。元は交渉決裂であり、大元は最後通告を2回にわたり蹴飛ばし、4000万円を惜しんだ札幌市側だと言うことです。

これはかなり捻った解釈ですが、市長は交渉を決裂させ札幌市の産科一次及び二次救急輪番制を崩壊させた事になります。輪番を崩壊させた結果、誰が利益を得るですが、「不運な産婦」の本人ないし遺族が訴訟を起した時の原告弁護士では無いでしょうか。つうか原告側弁護士以外に利益を得るものが思い当たりません。実際の立証は困難でしょうが、個人的には利益供与とかに見えて仕方ありません。

以上はあくまでも外野からの野次馬予測であって、誹謗中傷の意図の無いことを最後に付け加えておきます。