夢の交代制勤務

昨日は実戦労働法講座みたいな展開になり、私もついていくのが必死でした。法律の専門家の皆様にとっては初級レベルであったかも知れませんが、素人にとっては目の眩むような話で、そこまで知らなければ労働法規は語れないのかと密かに恐怖させて頂きました。それでも大変勉強になって有りがたかったのですが、やや本筋から離れたssd様のコメントから今日の話を展開したいと思います。

あと消防隊の場合、夢の「交代制勤務」もありますしね。

これは元外科医さまのコメントの、

医師の場合交代勤務だったらほとんど不満は出なかったでしょうね(笑)

こうあるように消防士の勤務で単純に医師が羨ましがった点です。その交代制勤務については政府も「推進する」とは言ってますし、対策予算も組まれています。では実現していくかと言うと、医師の間でも「すぐには無理だ」と考えられています。交代制勤務に耐えられる経営基盤が医療機関に無いのもそうですが、そもそも交代制勤務を実現するだけの医師がいない現実があるからです。現在の医師戦力は正直なところ平日日勤をカバーするのが精一杯で、夜間休日まで正規勤務で補うには程遠いのです。

経営基盤の話はさておいて、頭数だけでも交代制勤務を行なえるようになるにはどれほどかかるかの算数をしてみたいと思います。これも細かくやれば病院数の変動、医師の世代別の人数の推移、夜勤を何歳まで行なうか、養成医師数の変動・・・などなど、ファクターがいろいろあるのですが、今朝はある程度単純化して考えてみます。

前提として、

  1. 病院数は9000で固定
  2. 医師養成数も7700人で固定
  3. これから増える医師数は夜勤戦力と考える
夜間休日の交代制勤務に必要な医師数ですが、基本は1週間単位で考えてみます。これも祝日や年末年始が絡むので本当は補正が必要なんですが、ここも単純化します。1週間で交代制勤務に必要とされる新たな正規勤務時間は、
  1. 平日の夜勤が16時間で5日
  2. 土日の日勤が8時間で2日
  3. 土日の夜勤が16時間で2日
足し算すると128時間となります。これが9000病院で発生しますから115万2000時間をカバーしなければなりません。さらに夜間休日の勤務医数ですが、これも病院によって必要数は様々なんですが、内科系・外科系それぞれ1人づつとするとこれが倍になり230万4000時間となります。この時間を満たす新たな医師が補充されれば最低限の交代制勤務が実現する事になります。

230万4000時間を充足するのに必要な医師数ですが、ここも夜勤の上限を考慮する必要があるのですが、単純に医師1人が週に40時間働くものとします。そうなれば、5万7600人が必要となります。年間の医師増加数は7700人ですが、これは純増ではなく差し引きして減って行く分があります。医師の需給に関する検討会報告書には年間の医師の純増数は3500〜4000人としていますから、仮に4000人とします。

4000人の医師が年間に純増するとしてもこれがすべて勤務医の増加になりません。データにばらつきがあるのですが、現在勤務医数は約9万人、開業医数は約17万人とされます。この比率が変わらないとすれば、年間純増数もこれによって配分される事になり、勤務医の増加数は約2100人になります。病院の交代制勤務のための医師はこの増加分になり、

    5万7600(必要医師数)÷2100(勤務医増加数)=27.4(年)
すべての病院に交代制勤務は不要として半分と考えても13.7年です。

13.7年は早そうな気がしますが、これはあくまでもこれからの勤務医増加分がすべて交代制勤務要員として費やされての仮定であり、さらに充足数は内科系・外科系1人づつの体制です。また13.7年で実現するかどうかにもう一つの因子があります。医師の需給に関する検討会報告書の前提は医師免許を取得した医師全員が死ぬまで元気一杯働くのが前提です。年齢はもちろん性差も考慮されていません。しかし現実には女性医師の比率の増加は医師の実戦力数に大きな影響を及ぼしています。

女性医師の戦力の問題は交代制勤務の充実によりむしろ解消に向かう可能性はありますが、それでも男性医師とまったく同等の戦力として計算できるかは難しいところです。女性医師の問題だけではなく、私が今日の算数の前提にした因子も変動が予想されるものが多々あり、感触として半数の病院が交代制勤務になるのには20年ぐらいは必要に思えます。まさに「夢の交代制勤務」です。