医者は何人だ??

先にネタばらししておきますが、今日のエントリーの本来の構図は、

    新聞ネタ → 医師不足数 → 2人増で9床稼動を笑う
こうなるはずだったのです。ところが奈良県立医大小児科の医師数を調べていたら、そこで迷路にはまりこんで沈没してしまったので、最後は尻切れトンボと言うかエントリー自体が迷走になってしまいした。出来の悪いエントリーである事を先に謝罪しておきます。


5/14付Asahi.comより、

産みの安心 拠点始動

  ◆「周産期医療センター」26日開設

   ◎看護師不足 部分稼働へ

 危険度の高い新生児や妊婦を受け入れる県立医大付属病院(橿原市)の「総合周産期母子医療センター」が完成し、26日に開設する、と県が13日発表した。集中治療管理室の病床を計25床増やし、医師らが病室の外から患者の健康状態を把握できる仕組みも採り入れる。荒井正吾知事は会見し、「県内で難しいお産に対応する態勢は飛躍的に充実したと思う」と話したが、看護師不足のために当面は部分的な稼働になる見通し。

  ■橿原■

 同センターは、同病院A病棟の4、5階に新設。出産前の妊婦が対象の「母体・胎児集中治療管理部門」(約2200平方メートル)は、母体・胎児集中治療管理室(MFICU)を従来の3床から6床に増やす。ICUでの治療を終えた患者が入る「後方病床」を新たに12床設置。「新生児集中治療管理部門」(約900平方メートル)は10床増やして31床にし、そのうち21床を新生児集中治療管理室(NICU)として使い、残りを後方病床にあてる。

 各部門では、患者の呼吸や心拍数などを別室の医師や看護師が24時間把握したり、国立成育医療センター(東京都)など、より高度な医療機関にデータを送って治療を相談したりする仕組みも導入。同時に多くの患者を受け入れられるよう、配管や電源も増強した。

 厚生労働省の指針で、総合周産期母子医療センターはMFICUが6床以上、NICUが9床以上必要で、後方病床はそれぞれICUの2倍以上が望ましいとされ、1床あたりの面積なども示されている。同病院はこれらの基準を満たしており、26日に指定を受ける。同省によると、同センターが未整備の都道府県は山形、佐賀の2県だけになるという。

 しかし、NICUを担当する看護師が23人不足しており、当面は12床分のみの稼働にとどまる。

 同病院の昨年度の看護師の離職率は、前年度より5ポイント高い約15%。看護師不足で1人あたりの負担が重くなっていることが悪循環になっているという。今春、県立医大看護学科を卒業した84人の大部分が県外に就職し、同病院に11人しか残らなかったことも追い打ちをかけた。

 榊寿右・病院長は「安定したセンター運営には、医師も足りない。引き続き人材確保に努めたい」と話した。

もう医療系ブログではツッコミがしっかり入っているので、私は主に数に注目して見てみたいと思います。総合周産期センターの主要部分ですが、

病床分類 病床数 稼動数
MFICU 6 6
ICU後方病床 12 12
NICU 21 12
NICU後方病床 10 10


とりあえずMFICU6床が現状の産科戦力で稼動可能かどうかの話は置いておきます。記事では稼動したようですからね。問題はNICUです。NICUは看護師不足のため
    当面は12床分のみの稼働にとどまる
従来は9床体制のため3床増加と言う事になります。理由をAsahi.comでは、
    NICUを担当する看護師が23人不足
こうしております。ついでですが看護師が足りない理由として、
    県立医大看護学科を卒業した84人の大部分が県外に就職し、同病院に11人しか残らなかったこと
どうも看護学科卒業生の争奪戦に奈良県立医大は惨敗したようです。84人中73人も逃げ出すとはちょっとビックリです。おそらくこの看護師は奈良県立医大の医師および看護師が講師となり、実習も奈良県立医大で行なわれたと思うのですが、よほどの理由があったのでしょう。

看護婦の不足数も不足理由も分かりましたが、医師はどうなんでしょうか。榊寿右・病院長は、

    安定したセンター運営には、医師も足りない。引き続き人材確保に努めたい
これを読むと医師も足りないみたいなんですが、どの診療科の医師が足りないかは書いてありません。そこで5/13付の東京新聞を引用します。

周産期施設がオープンへ 妊婦死産受け、奈良県

 昨年8月、救急搬送中の妊婦が死産した奈良県で、リスクを抱える妊婦と新生児を24時間態勢で受け入れる総合周産期母子医療センターがほぼ完成し13日、報道陣に公開された。26日、県の指定を受けて正式にオープンする。

 荒井正吾知事は「大阪など近隣府県に頼らない周産期医療を目指してきたが、態勢はほぼ整ったと思う」と話した。

 県立医大病院(同県橿原市)の産科病棟を改修し、母体・胎児集中治療室(MFICU)のベッドを3床から6床に倍増。症状の安定した妊婦を収容する後方病床12床を新設した。

 新生児集中治療室(NICU)の保育器は12台から21台に増やしたが、全面的に稼働するのは、医師2人と看護師20数人が補充できる来年春ごろになりそうという。

ここはタイトルが笑いますが、総合周産期センターの整備に妊婦死産が無影響とは言えませんが、どちらかと言うと全国的にも整備が遅れていたのが、やっと行われた方が実情に近い気がしないでもありません。そんな事はどうでも良いのですが、ここの記事には医師の不足数が書いてあります。

    医師2人と看護師20数人
この医師とは文脈的に小児科医を指すと考えられます。Asahi.com記事とあわせると、
  • 小児科医  2人
  • 看護師  23人

これだけ不足しているのがわかります。NICUを担当するのは奈良県立医大小児科になるのですが、大学小児科と言っても得意分野があります。そこで医局の紹介を見てみると、

当小児科医局は、初代教授:吉田邦男、第二代教授:福井 弘、前教授:吉岡 章と 代々、小児における出血・凝固異常症の分野で国内外の先駆者としての役割を果たしてきました。

その伝統は今も引き継がれ、第VIII因子グループ(主任:嶋准教授)、血栓症・血流再建グループ(主任:杉本講師)、 DNA・遺伝子治療グループ(主任:柴田助教)、フォン・ヴィレブランド因子グループ(主任:藤村輸血部教授)、 新生児凝固・線溶グループ(主任:高橋周産期センターNICU教授)の血液学に関する各研究グループがあり、 その他、腎グループも精力的に活動しています。 多くの医局員が各グループの指導のもと研究に勤しみ、国際学会でその成果を発表し輝かしい業績を生み出しています。 また、現在、2名の医局員が海外(カナダ1名、スエーデン1名)の最先端の研究施設に留学し 更なる研鑽を積んでいます。

読んでの通りなんですが、血液学グループが主力で、腎グループもあるようなスタイルである事がわかります。少なくとも新生児医療に歴代血道を挙げてきた大学ではなさそうだぐらいは分かります。それもって医局員なんですが、ホームページ上ではどうも教授は空席のようで、医局ホームページには絶対必要な教授の「ごあいさつ」も”under constraction"つまり工事中の空欄になっています。4/15がホームページ更新の最終であり、この時に医局員名簿を更新していますから、先月時点では教授は空席と考えても良さそうです。

それでもって現在の医局員名簿ですが、

No. 肩書き 卒業年次 専門
1 准教授 S.54 血液(血栓・止血)、小児神経・発達
2 講師 S.56 血液(血栓・止血)
3 講師 S.58 血液(血栓・止血)、遺伝カウンセリング
4 講師 H.3 血液(血栓・止血)、小児循環器
5 助教 H.5 血液(血栓・止血)、小児救急
6 助教 H.5 血液(血栓・止血)、アレルギー・免疫
7 助教 H.5 血液(血栓・止血)
8 助教 H.11 血液・腫瘍・移植
9 医員 H.8 血液(血栓・止血)、感染症
10 医員 H.11 循環器
11 医員 H.14 血液・腫瘍・移植
12 医員 H.14 血液・腫瘍・移植
13 医員 H.20 一般小児科
14 医員 H.20 一般小児科


全部で14人で、新生児担当は誰だろうかと医局の紹介を読み直してみると、

未熟児・新生児グループ(主任:高橋教授、西久保准教授)は低出生体重児、病的新生児、 小児外科疾患の集中管理(NICU)のセンターとして、小児外科や県下のNICUと連絡して精力的に活動しています

未熟児・新生児グループの高橋教授は、

この教授かと思われます。ところが高橋教授も西久保准教授も小児科医局名簿には掲載されていません。また医局員名簿の専門を見ても新生児に従事していそうな医師はいません。もちろん専門を謳っていなくとも立派に新生児医療を行なわれる小児科医はおられますが、大学病院ですから指導者クラスに少なくとも1人や2人いないと余りにも不自然です。

そこで奈良県立医大附属病院のHPを良く見直してみると診療科以外に中央部門というセクションが存在していました。通常こういうところは看護部とか、放射線部とか、薬剤部といった、どちらかと言うとコメディカルの部門である事が多いのですが、どうもそれだけではなくて、救急部とかの診療科横断的な部門も含まれているようです。そこを見ると周産期センターと言う部門があり、高橋教授はそこの教授であろう事がわかります。ついでですが、小児科HPに書かれている腎グループも医局員名簿からはゼロなんですが、これも透析部に所属している可能性が考えられます。

腎グループの話は置いといて、それじゃ周産期センターHPを確認すれば新生児科の医師の数が確認できるはずなのですが、なんとHPがありません。無い理由として周産期センターには歴代HPを作成できる人材が不在であったか、ごく最近作られてまだ出来ていないのどちらかですが、どちらも可能性はありますが、4/15付けで更新されている医局員名簿の本来筆頭であるべき教授席が空欄なので、4月人事で周産期センターが創設されて、高橋教授以下の未熟児・新生児グループが移籍した可能性を考えます。もちろんわからないですけどね。

新生児グループの人数のヒントを求めて外来表を見てみれば、

  • 水曜日:高橋
  • 木曜日:第1,2週 西久保、第3週 新居、第4週 釜本
ここに書かれている高橋、西久保、新居、釜本の4人の先生方は小児科医局名簿にないため、周産期センター所属の医師と考えます。少なくとも4人はいる事になります。これ以外で可能性があるのは更新履歴に名前があがっている吉田幸一先生、内田賀子先生が医局名簿に無いので奈良県立医大に在籍していたら周産期センターかもしれません。これで6人になります。腎グループの可能性もありますが、確認できる名前で最大6人です。これ以上はHPでは確認できません。更新履歴には途中入局の記載はあっても開業などで抜けた記載はなく、さらに医局員が大学病院勤務医師の数なのか、関連派遣病院の所属医師の数を含んでいるのかも不明です。

苦労して調べた割には実りの無い調査になってしまいました。4月時点で周産期センターの新生児医として確認できたのは、

  1. 外来表にある4名
  2. 更新履歴に書かれていて、所属可能性があるもの2名
増床前のNICUが9床なので、4名で維持していた可能性は十分あります。もちろん純粋に4名ではなく、小児科医局からの随時応援、小児科内ローテの研修医や、前期研修医のローテで加わる戦力も幾分プラスアルファの4名です。人数的には猛烈に厳しいですが、それぐらいで維持してしまうのが日本の医療でもありますし、これが5月から3床増えて12床になってもそのままの人数で支えている可能性もあります。

そうなると2名の新生児科医が増員されたら、6名で21床を維持する可能性もあります。これ以上は内部情報の提供がないと私にはわかりません。お知りの方がおられたら情報提供ください。