救急待機時間マップ

消防庁発表の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果についての延長戦です。一昨日に数字を調べたのですが、そこまでやったら今度はマップにしてみようと言う企画です。消防庁の調査では搬送の問合せ回数(いわゆる「たらい回し」回数)と現場での滞在時間(待機時間)が集計されています。救急搬送でより重要なのは問合せ件数ではなく、搬送先を見つけ出す時間です。「たらい回し」と言っても実際に街中を救急車が爆走しているわけではなく、ひたすら電話で搬送先を探している状態であるからです。問合せが何件であるよりより早く搬送先に向かって走り出すことが大切な事です。

目安としたのは「30分」です。これ以内であれば問題無しとし、これ以上必要であれば問題ありと分類してみます。「30分」を目安にしてよいかどうかは議論もあるかもしれませんが、消防庁のデータ分類がそうなっているので利用させてもらいます。また数字は30分以上の待機時間が生じた搬送件数を総搬送件数で割ることで出しています。つまり各都道府県で救急搬送時に30分以上の待機時間が発生するかの比率です。

マップにするには何らかの目安で階層分けを行なわなければなりませんが、通常は平均をまず目安に考えます。

  • 産科救急:5.7%
  • 重症救急:4.2%
この数字自体非常に優秀な数字だと思うのですが、それは置いておいて、これでも全国の都道府県のデータを見ると実態を表していると言い難いところがあります。つまり一部の都県が非常に突出しているのです。そこでとくに突出していると考えられる、東京、神奈川、埼玉の3都県の数値を抜いて見ます。
  • 産科救急:3.2%
  • 重症救急:2.2%
ここから得られた産科救急3%、重症救急2%を階層分けの基準としてマップを作成します。

まず産科救急です。

続いて重症救急です。
どちらも似たような傾向があり、首都圏、近畿圏が30分以上の待機時間発生率が高いことがわかります。とくに首都圏が高率なのが良く分かると思います。黒く塗った都県で約10%ぐらいですから、10件に1件程度は30分以上の現場での待機時間が発生している事になります。ただし首都圏に次ぐ近畿圏でも約5%、その他の府県では3%に満たないところが殆んどで、さらには2%以下、1%以下のところが大部分です。あくまでもデータの上だけですが、現場の待機時間の長時間化は都市部の問題であり地方の問題とは言えない事になります。やや違和感を持つ方も多いでしょうが、消防庁の公式データではそうなっています。

正直なところマップにして見渡すと医療関係者の努力に改めて感嘆します。地方医療は医師不足の悲鳴が上っているのは周知のことです。また救急搬送の頻度が増えているのも手許にデータが無いのが残念ですが確実に増加しています。件数が増加し体制が弱体化すればもっと著明な綻びがデータとして現れても不思議無いのに、一部地域を除いて長時間の「たらい回し」はほとんど出現させていません。これはもっと褒められても良い事では無いかと感じてします。

ところが現実は件数の増加と体制の弱体化を懸命に支えている医療現場をひたすら叩いています。非難を超えて社会的制裁のようなバッシングの嵐を浴びせています。バッシングの結果、弱体化した救急体制の現場から医療機関が脱落し、残っている医療機関内も空洞化が進んでいます。いくら鞭を振るって叩いても医療の救急応需はこれ以上の要請に応えるのは難しいと考えざるを得ません。それなのにひたすら叩く事で解決を目指そうとしているように見えてなりません。

叩く目標も壮絶で「救急はすべて救急隊が指名した病院に1回目の要請で応需すべし」です。理想はそうでしょうが、体制の整備をなおざりにして机上の目標だけ通達しても冗談にも聞こえません。データは語ります。

分類 30分以内 60分以内
重症救急 96.0% 99.6%
産科救急 94.3% 99.7%


1時間以内に重症救急も産科救急もほぼ100%で搬送先を見つけています。残り0.3〜0.4%がさらなる長時間化となっているだけです。これをすべて30分以内にしたいというのなら、体制整備の方向はITではなく医療体制の充実しかないと考えます。医療体制の充実は王道しかなく、医師の数を増やし、さらに医師の数が増えてもそれを雇える病院の経営体力の強化のはずです。それに反する政策を行いながら救急体制の完璧化を求めるのは無いものねだりの様に思えてなりません。