4年前の通達

平成14年3月19日付基発第0319007号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」および平成14年3月19日付基発第0319007号の2「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について(要請)」 については余りにも有名な通達です。もちろん守られていない通達としてです。

ところがこの1年9ヵ月後にこの通達を守るように指導する通達が行なわれていています。平成15年12月26日付基監発第1226002号「医療機関の休日及び夜間勤務等の適正化に係る当面の監督指導の進め方について」なんですが、なんとプリントアウトも出来ない設定なので手打ちで頑張ります。

冒頭は、

 医療機関における休目及び夜間勤務の適正化については、平成14年3月19日付け基発第0319007号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」及び平成14年11月28日付け基監発第1128001号「医療機関における休目及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」(以下「第1128001号通達」という。)に基づき推進しているところであるが、当面、下記のと通り監督指導を行うこととしたので遺憾なきを期されたい。

これを読むと「医療機関における休目及び夜間勤務の適正化」の指導は、

  1. 平成14年3月19日付基発第0319007号の2「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について(要請)」
  2. 平成14年11月28日付け基監発第1128001号「医療機関における休目及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」
  3. 平成15年12月26日付基監発第1226002号「医療機関の休日及び夜間勤務等の適正化に係る当面の監督指導の進め方について」
この3回が行われ、
    要請 → 対応 → 監督指導
回を重ねるごとに表現だけは強くなっているのが分かります。実質はもちろんゼロであるのは皆様よく御存知の通りです。2回目の平成14年11月28日付け基監発第1128001号「医療機関における休目及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」が入手できてないのが残念ですが、3回目の監督指導を読んでいきます。

まずは「対象事業場について」となっています。

常時使用する労働者が50人以上の医療機関であって、次のいずれかに該当するものとすること。

  1. 第1128001号通達に基づき提出を求めた改善に係る報告書(以下「改善報告書」という。)の提出がなされていないもの(宿日直勤務が行なわれていないものを確認されたものを除く。)
  2. 宿日直の実態が、労働基準法41条及び労働基準法施行規則第23条に基づく許可(以下「宿日直許可」という。)の基準や許可書の附款の範囲を著しく超えているものであって、改善報告書の「4 改善計画の具体的内容 (1)最終的な改善時期」について、改善が不能若しくは困難とするもの又は同欄に何らの記載の無いもの

第1128001号通達は「対応」として出された2回目の通達ですが、対象としては、

  • 第1128001号通達を無視して報告書を出さなかった医療機関
  • 違法当直を行い、さらに第1128001号通達への報告で最終的な改善時期について具体的な内容を示せなかった病院
報告書を出さなかった病院があるのにまず驚き、改善計画について「改善が不能若しくは困難とするもの又は同欄に何らの記載の無いもの」があるのにもさらに驚きました。通達って軽いんですね。それよりこれを読めば、
    改善報告書の「4 改善計画の具体的内容 (1)最終的な改善時期」について、具体的な改善計画を明記したもの
これは調査の対象外のようです。改善したかどうかの確認は果たして行なわれたのでしょうか。されていないのはその後の状況証拠で確認できますから、報告書の対象になった病院はさぞ悔しがったと思います、「作文しておけば良かった!」と、もっと言えば「最初から『問題なし』の作文にすれば良かった」と考えたかもしれません。これは憶測ですが、この通達を読んで今回の対象病院が「最終的な改善時期」または「『問題なし』報告書」を競って作文し、お役所的には医師の宿日直の適正化作業は終了した可能性まで考えます。

次は「措置等について」です。

  1. 監督指導の結果、法違反が認められる場合には、所要の措置を講じること。

    ただし、宿日直許可を受けている事業場について、別添1の専用の指導文書(以下「専用指導文書」という。)の「改善を要する事項」に該当する実態が認められる場合には、専用指導文書により指導すること。

    なお、本件監督指導においては、次のa.からc.に掲げる実態が常態的であるものを専用指導文書の「改善を要する事項」の2に該当するものとして取り扱うこと。


    1. 1ヶ月における宿日直勤務中に救急患者の医療行為を行なった日数が8日ないし10日である医療機関の場合には、救急患者の対応等に要した時間(宿日直勤務として想定されている業務以外の業務に従事した時間をいう。以下同じ。)が、宿日直勤務者一人についておおむね3時間を超えるもの。
    2. 1ヶ月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行なった日数が11日ないし15日である医療機関の場合には、救急患者等に対応した時間が一人おおむね2時間を超えるもの。
    3. 1ヶ月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行なった日数が16日以上である医療機関の場合には、救急患者等に対応した時間が一人おおむね1時間を超えるもの。


  2. 監督指導に当っては、当直日誌、患者受付等によりできる限り正確に宿日直勤務の実態を把握するように努め、実態の把握が十分行なえない場合には、当該医療機関に対し、1ヶ月間の宿日直勤務の実態を把握し、別添2の「宿日直勤務実態報告書」により提出するように求める事。


  3. 専用指導文書を交付した場合には、当該文書により改善を指導した事項に係る改善のための計画を、当該文書を交付した日からおおむね1ヶ月以内に報告するよう指導すること。

    なお、専用指導文書により改善を指導した事項に係る改善の期限については、おおむね3月を目途としているところであるが、当該地域、診療科等において医師等が不足している等この期限内に改善を図ることが難しい特段の事情がある場合には、当該事情及び当該事情に応じた改善への取組みの方針、方法等について、できるだけ具体的な記述をした報告書の提出を求めた上で事案ごとに適切に対応すること。また、この場合には、一定期間ごとに改善経過を報告するように求めること。

お役所文書はいつもながら読み難いのですが、指導に該当する基準は次のようになっているようです。

1ヶ月の救急患者診療日数 当直者一人当たりの

時間外診療時間
8〜10日 3時間以上
11〜15日 2時間以上
16日以上 1時間以上


いまいちわかりにくい算数なので、「救急患者等に対応した時間が一人おおむね○○時間を超えるもの」は、
    1ヶ月の診療時間数/1ヶ月の当直者実数
こう考えています。ここの解釈がやや難しいのですが、診察日数が増えれば診療時間が当然増えます。総診察時間が増えるのに一人当たりの平均が減るには当直者実数を増やす必要があります。どうもそういう意味の事を書いていると考えます。

ここで問題と感じるのは、この通達を受けて報告書を作成するのが管理者である病院側であることです。つまり報告書を基準に合うように辻褄を合わせれば監督指導を免れられるという事です。はっきり言って「不正」ですが、4年前にこういう通達があり、報告書を提出したはずなのに、殆んどすべてに近いほど守られていないので、辻褄を合わせた報告書で労働基準監督局がお茶を濁した可能性を考えます。

ましてや

当該地域、診療科等において医師等が不足している等この期限内に改善を図ることが難しい特段の事情がある場合には、当該事情及び当該事情に応じた改善への取組みの方針、方法等について、できるだけ具体的な記述をした報告書の提出を求めた上で事案ごとに適切に対応すること。また、この場合には、一定期間ごとに改善経過を報告するように求めること。

こんな事を生真面目にやって努力した医療機関なんて本当にあったか疑わしく思います。通達があったから、労働基準監督局と病院側の阿吽の呼吸で馴れ合いをやったのではないかとも考えられます。そうでないと4年後の今の状態が説明できません。

という事でおそらく空文となった「改善のための指導について」を見てみます。

  1. 監督指導を実施し、専用指導文書を交付した場合には、その円滑な改善を促進する観点から、以下の例を参考とし、懇切丁寧に指導すること。


    1. 救急患者への対応等が頻繁に行なわれる一部の時間帯(就業時刻に近接した夜間の早い時間帯)の勤務については、宿日直勤務の対象から除外し、変形労働時間制の活用や始業・終業時刻の変更等により所定労働時間に組み込むか、これが難しい場合には法定の時間外・休日労働として取り扱い36協定の締結・届出、割増賃金の支払等を適正に行なうこと
    2. 救急患者への対応等が頻繁に行なわれる一部の診療科、職種等については、宿日直勤務の対象から除外すること
    3. 輪番制等により救急医療を行なう場合であって、当番日においては救急患者への対応が頻繁に行なわれるときには、当該日の勤務については、宿日直勤務の対象から除外すること
    4. 宿日直勤務に従事する者の範囲等を見直し、宿日直勤務に従事する者を増やす事により、宿日直勤務に従事する回数を減らすこと
    5. 1回の宿日直勤務における勤務者の数を増やすことにより、勤務者1人当たりの救急患者への対応等を減らすこと
    6. 交替制を導入する事


  2. 当該医療機関における宿日直の勤務実態からみて宿日直許可を受けるための申請が行なわれれば許可を行ない得るものと認められる場合には、その旨説明すること。


  3. 本対策に係る許可の取消については、今後さらに検討の上改めて指示することととしていること。

こういう改善が4年前に行なわれているわけですが、実質改善された経験のある方は是非コメントください。日本にもたくさん病院はありますから、この通達を受けて真摯に宿日直勤務の改善に取り組んだ病院はゼロでないかもしれないからです。

それにしても

    本対策に係る許可の取消については、今後さらに検討の上改めて指示することととしていること
ここで謳っている「今後さらに検討」は行なわれたのでしょうか。今回、宿日直勤務の適正化に関する通達が3回も出されている事はある意味驚きでした。ひょっとするとこの後もあったかもしれません。ただ個人的にはこれが最後の様な気がします。2回目の通達の原文や、2回目3回目の実際の対応がどう行われたかはわかりませんが、3回目の通達を読む限り、すべて書類上の事で話が終わっている気配を濃厚に感じます。

非常に悪意の取り方ですが、2回目の「対応」時にウッカリ宿日直勤務体制に問題ありと報告書を出した病院があり、3回目はそんなアホな報告書を出さないようにと行間に書き込んだ通達に読めます。3回目の通達で病院側が口をそろえて「問題ありません」と報告してくれたら、宿日直勤務体制の問題は終了し、今後この問題が再浮上しても労働基準監督局側としては「病院の報告に騙された」と責任回避ができます。

勤務医側が突付くとしたら、4年前の報告書の情報開示を請求し、報告書の虚偽を指摘しなければなりませんが、4年という時間は大きな壁になります。当直状況は記憶に頼らざるを得なくなりますし、唯一の資料の当直日誌にも診察時間まで詳細に記入している者は限られていると考えます。また当直日誌自体も存在しているかどうかも微妙です。

平成14年3月19日付基発第0319007号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」は勤務医にとって内容は画期的ですが、通達の運用については非常にどころか完全に後ろ向きに運用されたと考えています。


追伸

匿名様の御協力により平成14年11月28日付け基監発第1128001号「医療機関における休目及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」が発見されました。2回目の対応通達にあたるものです。合わせて御参考にしてください。