厚労省の産科救急対策

奈良妊婦流産騒動を受けて奈良県が対策会議を開き、出席した厚労官僚が超強力電波発言を行なったのは記憶に新しいところです。有名ですが再掲しておきます。

まず第1の発言です。

国では医師確保支援チームとして、各ブロック毎に相談に乗る体制は整備している。現在、緊急臨時的医師派遣としていくつかの道県へ医師派遣を行なっているが、それはその地域の医療資源をフルに活用してもやって行けない地域にしている。

奈良県は全国的にみると、まだ医療資源を総動員する余地があるのではと考えている。関係者一丸となって取り組んでいただきたい。また、コーディネーターを募集しているが、助産師資格を持った人で応募者がいるのかと思う。公的病院に助産師資格を持っていても助産師業務に携わっていない者もあるのではないか。地域の医療機能を評価すれば、新たな面が見つかるのではないか。

つづいて第2の発言です。

まだまだ活用の余地があり、最低レベルでないと言うこと。一人で300件の分娩を扱う例もある。

2007年の電波発言でも白眉のものと思います。

ここに昨日tadano-ry様から頂いた全国厚生労働関係部局長会議資料【医政局】(平成20年1月16日開催(一日目))なる会議資料があります。ここの重点事項の18ページから奈良流産騒動の総括みたいな資料があります。さすがは官僚で、出席したからには書類化は怠りないようです。奈良流産騒動に関する報告である証拠は冒頭部にあります。

本年8月、奈良県で、健診を受けていない妊婦が、周産期医療ネットワークによる対応とならず救急搬送中に死産となった事例を受け、その後の検証等を通じて得られた課題の分析を基に方策を検討。

対策は

  • 第1フェーズ:直ちに着手可能なもの
  • 第2フェーズ:一定の検討を要するもの
この2段階に分かれるようで、とくに第1フェーズは「都道府県に対し、速やかな検討を促すべく、包括的に提示」となっています。この「速やかな」ですが、具体的なスケジュールも示されており、
  • 平成20年1月末日までに、都道府県は、総点検の結果を国に報告。
  • 平成20年2月末日までに、都道府県は、対策をとりまとめ、国に報告。
今月末までに結果を報告し、来月末までに対策を国に報告する事になっているようです。もうすぐという事になります。気になるのは第1フェーズの内容ですが、

  • 都道府県において、産科救急受入体制の総点検を行い、地域の実情に応じた対策を速やかに検討の上、実施。さらに、対策のフォローアップ、合同訓練等を実施。
  • 国においては、必要な関係予算の確保に努める等都道府県の取り組みを支援。

産科救急受入体制の点検を行なうのは正しい事ですし、問題があれば対策を立て実施するのは筋道としてどこもおかしくありません。都道府県レベルの作業はそれでよいのですが、国レベルが「???」です。対策はスケジュールによると2月末日に報告ですから、国が都道府県から上ってきた対策に目を通し、関係予算の確保を決定するのは3月になります。国家予算は3月段階では完成案の是非の採択状況になっているはずですから、3月からどうやって関係予算を確保するのか不思議です。

もっとも去年前総理が100億円の医師対策と胸を張っていた予算が、来年度は161億円に増額される予定だそうです。そのうち53億円が小児科・産科をはじめとする病院勤務医の勤務環境の整備等」に使われるとなっていますから、そこからの予算配分の決定の参考資料になるのかもしれません。また161億円と別に「地方財政措置のよる対策」が173億円あり、こちらの使用用途を指示するのかもしれません。

ただ地方財政措置の173億円のうち

  • 93億円は医師確保対策にかかる補助事業の地方負担分
  • 80億円は地域定着を条件とした奨学金等医師確保対策にかかる単独事業分
こうなっていますから、やはり53億円からの配分と考えた方が良さそうです。

第2フェーズは国の対策なんですが、

関係省庁において、別途検討会を設置する等、それぞれ必要な検討等を行なった上で、年度内までに対応していく予定。

  • 救急医療情報システムの仕様の検証
  • NICUやその後方病床の確保
  • 消防機関と医療機関の連携に関する諸課題の検討
  • 「救急医師確保対策」に基づく各種対策の支援等

あれれれ、私はてっきり第1フェーズで都道府県で総点検を命じ、出てきた対策の来年度予算配分を検討するのかと考えていましたが、第2フェーズは「年度内まで」に行なうとなっています。この「年度内まで」は原文ではアンダーラインまで引いて強調してありますから、平成19年度予算執行中に行なうという事になります。

と言う事はまだ予算が余っているという事になります。第1フェーズの総点検の報告が1月末日、対策の報告が2月末日、対策を聞いて第2フェーズの予算実施を行なうのが3月。3月と言っても対策実施までに、

    別途検討会を設置する等、それぞれ必要な検討等を行なった上
この検討会は何回行なわれるのでしょうか、いつ行なわれるのでしょうか。正直なところ3月の「いつ」になったら第2フェーズの国の対策が行なわれるか不思議です。ここはやはり、第1フェーズと第2フェーズは別個として動いていると考えた方が良さそうです。そう考えなければ、

「救急医療 『たらい回し』新法で対策 議員提出与党検討 情報システム整備」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2008011902080632.html

 自民、公明両党は十八日、救急患者が病院に受け入れを拒否され、手当てが遅れて死亡する「たらい回し問題」の深刻化を受け、受け入れ可能な医療機関に関する情報を提供する救急医療情報システムを全国的に整備、強化するための「救急医療情報システム整備法案」(仮称)を、同日召集された通常国会議員立法で提出する方向で検討を始めた。

 救急医療情報システムは、地域の医療機関と消防機関をオンライン回線で結び、医療機関側が対応可能な診療科目や手術ができるかどうかなどの情報を入力して消防機関に提供するもの。

 救急車や消防本部からその都度、各病院に電話して搬送先を探すより、即座に受け入れ可能な病院を確認できる利点がある。

 すでに四十三都道府県、七百四十五消防本部で導入されている。

 しかし、統一された運用基準がなく、近隣のシステム間の連携が悪かったり、病院側の情報更新が遅かったりなどの理由で53%の本部が利用しておらず、システムを全国的に整備し、積極的に活用する必要があると判断した。

 法案には、システムの整備、運用にかかわる基本方針を定めることを盛り込み、同方針で、集中治療室(ICU)の稼働状況、妊産婦、小児の受け入れができるかどうかなど提供すべき情報の種類や、システム同士の広域連携、協力体制の在り方を定める。

 また、地元の医療事情に精通した医師らが搬送先を調整する「救急患者受け入れコーディネーター」の配置も求める。

 システム未導入の地域での整備を促すため、自治体の努力義務をうたい、国が関係費用の補助を行うことも定める。システムの運用に当たっては、関係機関の連携強化のため、医師や消防職員、学識経験者らが参加する協議会を設置する。

こんな話は出てこないと考えます。この話は第2フェーズの「救急医療情報システムの仕様の検証」に関連もしくは便乗したものと考えられ、役に立たない「救急医療情報システム」を都道府県に押し売りするプランです。

今日は時間がないので尻切れトンボみたいになりましたが、厚労省もかくも真剣に産科救急対策を考えていると言う貴重な資料です。とりあえず明日は続編を書く予定です。