医療秘書問題

とりあえず記事情報しかないので、これから考えます。

医療秘書、兼務はダメ

更新:2008/01/21   キャリアブレイン
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/14097.html

 病院に勤務する医師が過重労働となっている原因の1つに事務作業の増加がある。2008年度の診療報酬改定では、診断書や処方せんの作成など医師が行う事務作業の一部を肩代わりするメディカルクラーク(医療秘書)が新たに評価されるが、医師の指示で事務作業を補助する専従者であることが必要で、レセプト業務や看護業務などとの兼務は認められない。

 厚生労働省は1月18日の中央社会保険医療協議会中医協)診療報酬基本問題小委員会(会長=土田武史・早稲田大商学部教授)で、医療秘書を診療報酬で評価する「医師事務作業補助体制加算」の要件を提示し、了承された。

 診療報酬で評価される医療秘書は「医師の指示で事務作業の補助を行う専従の者」で、対象病院は「第三次救急医療機関」や「総合周産期母子医療センター」など、地域の中核的な病院を予定している。

 医師の事務負担を軽減するための医療秘書の配置をめぐっては、「医事課の職員が兼務するのでは効果が低い」との指摘もあった。

 このため、厚労省は医療秘書の呼称を「医師事務作業補助者」とし、診療報酬上で評価されるための要件として、

  1. 医師の指示で行うこと、
  2. 専従であること、
  3. 業務範囲や配置方法を書面上で定めること
この3つを求めた。 例えば、医療秘書が診療報酬請求業務を担当したり、看護職員の指示の下に看護業務を補助したりするなど、兼務は認められないという。

 厚労省保険局の原徳壽医療課長は「専従とは勤務している時間を通じてもっぱら行うこと」と説明し、非常勤かどうかは問わないとした。例えば、午前中は他の業務をして、手が空いている午後に医療秘書を担当する場合は「専任」であるため、専従要件を満たさないとした。

 医療秘書の業務範囲や配置方法を書面上で定めることについて、厚労省は昨年12月28日に出した通知に基づいて病院の実態に合わせて定め、業務範囲に関するマニュアルを整備することを求めている。

 通知によると、メディカルクラークが代行する事務は、

  • 会議資料などの作成、
  • 診断書・診療録の記載の代行、
  • 処方せんの記載の代行、
  • 主治医意見書の記載の代行、
  • オーダリングシステムへの入力代行(診察や検査の予約)
など。

 一方、メディカルクラークの配置方法は「当該病院の医師に一律に配置するのではなく、業務の繁閑に応じた配置を行う」としている。例えば、外来患者の混雑状況に応じて配置する診療科を変えるなど、実態に応じた配置を求めている。

 このほか、対象となる医療機関は、

を挙げ、第二次救急医療機関については、「一定以上の救急搬送の受け入れ実績がある場合に限る」としている。

期待するのだけは勝手ですから、診療所でも医療秘書の運用が出来る余地が少しはあるかと期待していましたが、ゼロどころの話では無いようです。可能性の気配すら無い事がまず確認されました。うちの事務員は優秀ですから、もし適用されたら給与アップが出来ると思っていたのにとっても残念です。

診療所が適用されないのは織り込み済みとしても、適用は相当厳しいですね。まず、

医師の指示で事務作業を補助する専従者であることが必要で、レセプト業務や看護業務などとの兼務は認められない

看護業務との兼務はともかく、レセプト業務の兼務も認められないとなると、完全に新たな人員を採用する必要があります。この専従要件は非常に厳しくて、

例えば、午前中は他の業務をして、手が空いている午後に医療秘書を担当する場合は「専任」であるため、専従要件を満たさないとした。

何があっても新規採用で無ければならないと規定されている様な気がします。能力も相当なものが要求され、

  • 会議資料などの作成、
  • 診断書・診療録の記載の代行、
  • 処方せんの記載の代行、
  • 主治医意見書の記載の代行、
  • オーダリングシステムへの入力代行(診察や検査の予約)

会議資料の作成ぐらいはまだ容易そうですが、その他の業務はちょっと難しそうです。代行、代行と簡単に書いてありますが、医療秘書であれば医師の言っている事を理解する必要があります。それと完全は無理としても、医師の指示で勘違い、思い違いしている部分を指摘する役割も期待されるかと考えます。持って回った言い方ですが、それなりの医学知識、医療知識が必要とされるということです。

さらに厳しいと感じたのが、

例えば、外来患者の混雑状況に応じて配置する診療科を変えるなど、実態に応じた配置を求めている。

原則としてすべての診療科の医療秘書が出来なければならないようです。私でもすべての診療科の医療秘書業務が出来るかどうか自信ありませんし、前期研修医クラスでも果たして能力が足りるかどうか不安になります。診療科ごとに特性が違うだけでなく、医師一人一人でもそうとうクセがありますから、かなりの能力を要求されると考えますが、考えすぎでしょうか。

そういう専従の素晴らしい医療秘書ですが、数はどうやら少なそうです。

当該病院の医師に一律に配置するのではなく、業務の繁閑に応じた配置を行う

忙しいところを渡り鳥のようにヘルプするような業務が求められているようです。つまりヒマそうなところには回って来ないということです。このヒマそうなというのが曲者で、時間を見つけて書類仕事に励んでいる姿は外見からはしばしば「ヒマそうに」見えます。そういう時には医療秘書はいないような気もしないでもありません。

また医師に対してどれほどの人数比で配置を考えているのかは記事からは分かりませんが、相当少なそうな印象があります。医師2人に医療秘書1人もあたるんでしょうか。もっと比率が少なそうにも思えます。

対象医療機関に診療所が含まれていないのは仕方が無いのですが、具体的には、

対象は非常に限定されると考えて良いと思います。ただし次の文章がやや不思議です。

第二次救急医療機関については、「一定以上の救急搬送の受け入れ実績がある場合に限る」としている。

個人的には「???」です。「救急搬送の受け入れ実績」が二次救急病院に医療秘書が配置されるかどうかの基準になるようですが、そうなれば医療秘書の仕事は24時間業務なんでしょうか。私はてっきり日勤業務にのみ従事するかと考えていましたが、「救急搬送の受け入れ実績」が基準と言うのなら、医療秘書は救急現場にも24時間配置されると考えなくてはなりません。

365日24時間となれば必要とする人数は莫大な数が必要となります。医師と違いますから、36時間連続勤務なんて人畜非道な勤務を強制できません。日勤を行なった上で、当直待遇(勤務時間にカウントされず、お手当もベラボウに安い)で、月に10回も15回も夜間勤務を行なう酔狂な人間がいるとも思えません。

概算ですが、一人の医療秘書を24時間配置するだけでも7人必要になります。7人いれば、月28日計算で、夜勤の上限時間を64時間とすれば、夜に1人、昼間は3人の配置が可能となります。後は倍数計算で、夜勤を2人にすれば計14人で昼間6人、夜勤を3人にすれば計21人で日勤9人です。

もっとも皆様お気づきのように、24時間配置なんて事を考える訳もありませんので、「救急搬送の受け入れ実績」すなわち二次救急に参加してたくさん救急搬送を受け入れたら御褒美に医療秘書を雇う権利を認めてあげようとしているのは言うまでもありません。それにしても「救急搬送の受け入れ実績」なんて基準を唐突に持ち出すのが笑えました。

医療秘書については人材確保も難題ですが、

メディカルクラーク(医療秘書)が新たに評価

これがどれぐらいの評価すなわち診療報酬(医師事務作業補助体制加算)になるかです。どういう評価をするのか分からないのですが、ごく簡単に考えると医療秘書一人当たりの勤務時間に対し○○円かと思います。雇える人数の制限をさかんに匂わしているのは、人頭税システムなら無制限に医療秘書を雇う医療機関が出現するからだと考えます。

人数の制限は医療費削減が続くこの御時世ですから、話としては理解しますが、中央社会保険医療協議会中医協)診療報酬基本問題小委員会では医療秘書の給与を一体いくらで考えているのでしょうか。まだWebには無いようですし、記事にも書いてありません。給与額の想定にも興味がありますが、その想定に対し診療報酬の可能性としては、

  • 医療秘書の給与額の10割
  • 医療秘書の給与額の7割程度
  • 医療秘書の給与額の5割以下
想定している給与額が十分なもので10割出るのなら問題はありませんが、7割程度や、ましてや5割以下なら果たしてこの制度を利用する病院がどれぐらいあるでしょうか。病院経営はどこも苦しいですから、持ち出しを行なってまで医療秘書を雇うかに疑問があります。さらに言えば今春の改定時には色よい金額設定がなされても、次回以後は必殺技の「梯子外し」が見え見えで待っています。医療費全体は今回も減ってますからね。

一つだけ前向きに解釈すれば、医療秘書市場を利権と考えて食い物にしようと考えておられる方が財界有力者におられるかもしれません。専従である事への異常なこだわりもその辺を反映しているとも考えられます。その可能性に賭ければ、医療秘書報酬は今後聖域化して鰻上りになるかもしれません。そこに賭けて雇うというのも冒険ですが成立します。成立はしますが、利権としての聖域化ですから病院の負担もそうですが、医療秘書への待遇改善も厳しくなりそうです。

そうそう、もう一つ前向きに考えられる事があります。医療秘書は「高度」の医療知識が必要ですから、現在の民間資格の医療秘書では十分と言えません。そうなるとこれを国家資格に格上げする事は考えられます。国家資格となると外郭団体の出番ですから厚生利権の登場となります。財界の利権と厚生利権が一致すれば思わぬ発展をする可能性は有ります。もっとも利権化しても医療側の負担が減る保証は無いのが医療の特徴です。利権を吸う方は医療側が大きな負担をしてくれないと美味しくないですし、負担を増やす強制力はあり余るほど持っています。