タミフル問題

もう毎年、毎年、インフルエンザ関連の問題に振り回されるのはウンザリです。ワクチンが欠乏して問屋を脅し挙げて確保したり、検査が足りなくて泣きそうな思いをしたり、入院先の確保に市内中の病院に電話して三拝九拝したり、治療薬が足りなくて患者に嫌味の塊を言われたりと、平穏なシーズンを思い出すのに苦労するぐらいです。

ワクチンや検査はここ数年安定し、インフルエンザ治療薬の普及で入院先確保に難渋する事は減りましたが、どっかと腰を落ち着けている難題がタミフルです。タミフルもまた発売以来、毎年のようにトラブルが持ち上がり、その度に末端医療機関である零細小児科は振り回されるのですが、この冬もまたトラブルを抱えたままシーズンを送らなければならないようです。

タミフル問題は有名なので今さら解説も不要でしょうが、異常行動とタミフルの因果関係の問題でニッチもサッチも動けなくなっています。去年に10代患者への使用禁止が通達され、今季のシーズン前には公式調査班が問題の回答を示すという話でしたが、案の定というか、予想通りというか「結論先送り」になったようです。

私も小児科医ですからタミフル問題には関心はあり、本業に関わる事なのでボツボツと出来る範囲で情報を集めていましたが、内情は奇々怪々で「こりゃ、結論は出ない」と感じていました。アングラ情報なので信憑性をどこまで取るかは自らの判断で下して欲しいところですが、広い意味で財務省まで絡むような話ですから「う〜ん」です。

ソースはあるメーカー筋です。メーカー筋と言っても中外ずばりではなく、タミフルとまったく関係の無いメーカー筋の業界噂話の類です。タミフル問題には薬価引き下げまで絡んでいるというお話です。薬価の引き下げはこれも初めて聞いたのですが、メーカーの同意が必要だそうです。もちろん厚労省とメーカーの力関係は薬剤によって様々だそうですが、外資系はちょっと複雑だそうです。

タミフルはロシュが製造しているのですが、ロシュに薬価の引き下げを了解させるためにタミフルと異常行動の因果関係を否定したいという意向があったとされます。10代禁止でも打撃が大きいのに、子供が一律禁止、ましてや全面禁止となればロシュは巨大な損失を蒙りますから、因果関係を否定し、タミフル市場を確保する代わりに薬価で御協力をみたいな政治決着路線です。これがタミフル問題の背景にあるというお話です。

そのため「結論ありき」の公式調査班はそれに向かっての証拠作りに基本的に動いていたとされます。ある程度、順調に動いていたそうですが、公式調査班とは別にタミフルの脳内侵入経路の解明を大学がやってしまったあたりで話が迷走を始めたとの事です。公式調査班はタミフルは脳内に移行しないの絶対的証拠を一つの切り札にしようとしようと考えていたようですが、それが崩れてしまったという事です。

公式調査班の「タミフルが脳内に移行しない」の話も捏造でも嘘でもなくて、ほとんどは移行しないは間違いありません。タミフルの脳内移行はある条件下で起こりうるですから、脳内移行メカニズム解析前では、それを突き止められなくても不思議ありませんし、動物実験を少々やっても発見できなくとも責任云々を言われる話ではありません。ところが少数だが特定条件下では脳内移行する事がわかってしまったのです。

そうなると次は脳内に移行したタミフルが異常行動の原因になり得るかの話が問題になります。この問題になると解明にまた長い時間が必要になります。手法としては薬理学的な分析と疫学的な分析を詳細に行なう必要があります。疫学的な調査は報道記事でわかるようにタミフル無関係説をかなり裏付けています。ところが薬理学的な公式調査は「脳内に移行しない」でしたから、振り出しに戻ります。

タミフル問題は医学の問題の範疇を越えて、社会問題化していますから、安易な結論は出せなくなっています。とくに一旦強めた規制を緩和すると反対勢力からの強烈な反発が起こります。この反発にはマスコミは乗りやすく、あっと言う間に世論となります。そうなると今シーズンの結論はどうなるかと言えば「問題先送り」です。とくに薬害肝炎問題が連日マスコミを賑わう状況下では身動きが取れ無いという事です。

慎重調査の方針は間違っていないのですが、現場としては困ったもんだと思っています。ただでも忙しい小児科の冬外来の手間ひまに拍車がかかります。インフルエンザの検査をして、診断が付き、そこからタミフルをどうするかで外来がストップします。医師としてタミフルを処方するかどうか聞かないわけには行きませんし、母親(父親その他も含む)も聞かれたところで困惑する人は困惑します。

タミフル問題もいつ風向きが変わるか分かりませんから、私も「勧める」とも「勧めない」とも言えません。下手に勧めたら、その日のニュースで「タミフル全面禁止」がいつ何時出ないとも限りません。確実に言えるのは「10歳未満の子供には処方可能」だけです。そんな情報だけでは迷う母親が続出します。迷う気持ちはわかるのですが、母親が迷っているうちにカルテがどんどん積み上ります。

このシーズンもインフルエンザとタミフルの問題に振り回されそうです。