奈良事件第4回裁判・原告側主張編

4回目になり原告側の主張がかなり明らかになったようです。有志の御協力により傍聴記が早くも上げられていますが、お決まりの日々様の第四回口頭弁論準備メモ1(大淀事件17 その1)から引用させて頂きます。他にもtadano-ry様三上藤花様も書かれており、内容自体はほぼ一致しており信憑性は非常に高いと判断しています。全部引用すると長いので核心部分と思われるところだけ引用します。宜しければ是非引用先の全文を確認して頂きたいと思います。

 こういう経過からすると、脳内出血というのは一般に、 簡単に言えば、脳の一番奥の中枢部に出血すると、生命兆候はあるかもしれないが、予後はよくない。本件の場合は、脳幹部の出血ではなくて、被殻部という外側の出血が、時間的経過の中で一部、脳幹部にまで波及した。これは脳のCTの写真からほぼ明らか。またM香さんの症状の経過から(意識状態の)も。

 また、 被殻部出血に対して外科的手術を行なった場合の 一般的な生命的予後については

  • 死亡 20数%、
  • ねたきり 2X%(二十何パーセント)
  • 介護が必要だが日常生活ができる 48%、半分ぐらい
  • 完全回復 20%位
 被殻部出血の予後の統計学的なもの、また、被殻部出血による生命中枢に与える進行のメカニズムから考えると、少なくても発症した0時からしばらく経った1時、あるいは3時ぐらいのまでの間はJCSが200と反応している状態であるから、早期に診断して、治療は開頭による血腫除去施術しかない、そして血腫除去手術自体の一般的な生命予後の死亡率は20数%なので、我々が何度も言っているように、0時からほどなくの時間で、搬送して手術していれば、充分助かった!

 被告の方の状態だが、夜間であっても医師が常駐していて、30分ないしは40分で脳のCT検査は可能であった、とお答えを戴いた。脳のCTを撮れば! いくらなんでも! 誰でも! 脳内出血はすぐ!分かる!脳のCTをみれば、脳内出血は白く!写りますから! これは誰が見ても。

 そうすると、脳内出血の場合は、止血が自動的にされるわけではありませんから、止血のための処置をする、そして脳の中枢圧迫を阻止するためには除去手術しかないので、速やかに搬送すべきであった。

 本件で搬送が遅れたのは、被告Mさんが子癇と思いこんだから!つまり、お産の関係の病気であると!ところが実際には脳内出血ですから、脳内出血の除去手術ができない脳外科病院はないぐらい! 別に大阪まで行かなくてもどこだってできるわけですが、本件では子癇であると思いこんで、子癇だという事で搬送依頼をしていたのだから、 

 こういう点で、(被告)Mさんが、午前0時ほどなくの時点で、脳内出血の診断をして、その旨を付記して搬送依頼をすれば充分に助かった!

どこから手をつけようかと迷うぐらいの主張というか仮説です。引用文からは割愛させて頂きましたが、お決まりの日々様もたまらずにツッコミを随所に散りばめていらっしゃいました。私もそうしたくて仕方が無いのですが、ここのお話は純粋に脳外科的なお話になるので、原告側の主張をまとめたいと思います。

  1. 脳出血は間違い無く0時ないしそれ近辺に発生した。
  2. 脳出血は間違い無く被殻出血で、手術さえすれば死亡率は20%に過ぎない。
  3. 脳出血さえ確認すれば、深夜でも脳出血を手術できる病院はいくらでもあった。
  4. 3時までに手術を行なえば救命の可能性は十分あった。
  5. よって脳出血を子癇と誤診した医師は全責任を負わなければならない。
書きながらプルプル震えが出るのですが、原告側の主張によると脳出血があれば直ちに手術に入るべしだとしています。ここだけでも異論は百出するでしょうが、原告側の主張で綺麗に抜け落ちているのが陣痛発来中の妊婦であるという条件です。陣痛発来中の妊婦でもそうでない脳出血患者と同様に、
    深夜でも脳出血を手術できる病院はいくらでもあった
じつに素晴らしい仮説です。今後、この仮説を立証する証人医師が登場するのでしょうが、一体それが誰であるか大いに注目したいと思います。

それとこの仮説のおもしろいところは、陣痛発来中の妊婦の脳出血を発見したときの治療手順について通常の医師の発想では思いもよらない主張を行なっています。通常の医師なら、陣痛発来中の妊婦の脳出血を発見すれば、脳外科だけではなく産科も、新生児科も、ICUも、NICUもそろった病院での治療を考えます。これは医師だけでなく、医療関係者以外でもそう考えるかと思います。ところが原告側の主張は違います。

    まず脳外科病院で脳出血の治療を行なうのが当然
ここに産科も、新生児科も、NICUも不要との考えです。これを考えない医師はそれだけで過失があり責任を追うべきだの主張です。なぜかというと、原告側の主張する仮説では、
  • 0:00 脳出血を即座に疑いCT準備にかかる。ただし意識消失発作が0:14ですから、ここからと考えるのが現実的でしょう。
  • 1:00 脳出血を診断。CTスタンバイまで原告側の主張でも30〜40分としています。
  • 3:00 手術開始
つまり診断から脳外科病院搬送、手術まで2時間しかありません。ちなみに被告側の主張では、国循でも搬送後手術開始まで3時間半を要しています。これを2時間に短縮するためには、搬送先を探すのに産科、新生児科、NICUの条件を一切考慮してはならないことになります。考慮すれば18病院の悪夢が起こり3時には到底間に合いません。

そうなると産科医師は原告側の主張に従えば、陣痛発来中の妊婦の脳出血を発見した瞬間に、

    事件病院 → 脳外科病院 → 総合病院(産科、新生児科、脳外科、ICUNICU完備)
こういう曲芸搬送を第一選択として考えなければならないことになります。脳外科病院に他の条件がそろっていたらラッキーぐらいの考えが正しいと思われます。条件のそろった病院を探そうとする事自体が過失であるの主張です。そうでないと1時に診断して3時に手術なんて早業の成立は不可能となります。そういう治療手順が陣痛発来中の妊婦の脳出血の常識であると主張されています。

この原告側の主張が認められれば、日本中の脳外科病院から脳外科医が裸足で逃げ出すんじゃないかと思われます。原告側の証人医師を除いてですが・・・。