姫路は燃えているか

姫路の「たらい回し」事件を受けての対策会議が行なわれたようです。まず12/10付神戸新聞で、

兵庫県 3次救急、重症患者の搬送基準を緩和

 姫路市の男性が救急搬送の受け入れを十七病院に断られ死亡した問題で、兵庫県は十日、病院との交渉が三十分以上かかった場合、患者が「ショック状態」なら救命救急センター(三次救急)が無条件で受け入れるという基準を緩和し、ショック状態寸前まで広げると決めた。現在一日二回更新している医療情報システムも、更新回数を増やすよう参加病院に要請した。

 男性は十七病院に拒否され、救急車が自宅を出たのは一時間十分後だった。播磨地域の救命救急センターを担うのは県立姫路循環器病センター(姫路市)だが、同市消防局は、循環器系疾患に特化して受け入れ困難と判断し要請しなかった。

 こうした事態を重くみた県は、三次救急への搬送基準を、交渉開始から三十分経過し、患者の脈拍数が一分間に120以上や心肺停止の危険性がある-などと見直す案を作成。救急救命士の判断で同センターをはじめ、県内の五救命救急センターと、高度医療を受け持つ「特定機能病院」の計六医療機関と連絡し、直接搬送できるようにする。対応できない場合は医療機関で連携し、地域を超えた搬送もする。

 一方、十七病院に拒否された際、同市消防局は、病院側に空きベッドの状況や診療科目などを入力してもらう「広域災害・救急医療情報システム」で、「空床」の病院に問い合わせたが、状況が変化していた。システムは情報の更新が毎日朝と夕の計二回だけで、緊急時に有効に機能していなかった。

 このため今後は、満床になるなど状況の変化に伴い随時更新するよう各病院に要請した。

県の対応として三次救急への搬送基準を緩和する方針を打ち出しています。もっとも姫路では既に三次救急である姫路循環器は半身不随ですし、事件の時でも搬送要請されても対応は困難とされていましたから、これがどれだけ実効性があるか判断するのは難しいところです。それと二次救急の弱体化は著しいですから、二次が弱体化した分の皺寄せをどれだけ三次が吸収できるかといえば疑問を持たざるを得ないところです。

とは言うものの応急措置として打ち出せる対策としてはこの程度でしょうし、今後、三次救急の充実、弱体化した二次救急輪番制度の建て直しについて、どれほどの本格的な姿勢を見せてくれるかに注目します。応急措置や姑息療法でなんとかなる段階でないとの認識を持ってくれる事を切に願います。

続いて12/14付の毎日新聞より、

姫路の救急搬送拒否死亡:再発防止へ最善の努力 市など、早めの受診啓発へ /兵庫

 姫路市の男性(66)が急病で救急搬送された際、病院に受け入れを断られ死亡した問題で、市と市医師会は12日夜、同市西今宿の医師会館で会合を持ち、医師不足で医療施設がぎりぎりの業務を強いられていることを踏まえたうえで、再発防止のため医療、救急隊、行政が最善の努力をしていくことを確認した。

 会合には今回受け入れを断った病院長を含む医師会側約30人、市健康福祉局、消防局から約10人が出席。終了後に会見した空地顕一・医師会副会長は「医師不足で疲弊している現場は精いっぱい救急医療体制を支えてきたが、不幸な要因が重なり今回の事態が起きた」と述べた。

 会合で病院長らから、勤務医が個人開業したり、大学から派遣されていた中堅医師が引き揚げられたりして医師不足が常態化しているとの声が相次いだ。背景には厳しい勤務条件と患者からの訴訟リスクなどがあるという。夜間の重症患者のための輪番病院は、2床の空きベッド待機料として市から数万円の委託費が支払われているが、病院側の経済負担は賄われていないなどの訴えもあったという。

 再発防止策として、救急隊が搬送先を探す際に診療科を限定せずに判断し、患者や家族に対しては早めの受診や救急要請、軽症の場合は市の休日・急患センターで受診するなどの啓発を進めることなどを確認した。【石川勝己】

これは姫路市姫路市医師会の対策のようです。個人的には医師会が病院側の代表として相応しいかも疑問がありますが、出てきた対策は県が打ち出した対策よりもある意味怖ろしい代物です。姫路宣言と名づけても良いと思いますが、そのキモは、

    救急隊が搬送先を探す際に診療科を限定せずに判断
う〜ん、と唸ってしまいました。これは福島宣言とどっちが凄いか判断に悩みます。福島でも、姫路でも、通常の状態、すなわち適切な医療機関が応需した場合には問題はありませんが、搬送先が見つからない非常事態の時は、
  • 福島宣言:満床であっても適切そうな医療機関に問答無用で搬送する
  • 姫路宣言:空床さえあれば適切でなくとも問答無用で搬送する
ココロはどちらであっても患者は満足な治療を受けられないです。通常の状態であれば搬送されて治療能力に欠けると判断されれば、そこから適切な医療機関に再搬送の選択もありますが、この宣言が実行される様な非常事態下ではそれが可能かどうかも定かではありません。そもそも再搬送する余裕が無い時もあります。ここで満足でなくとも治療を受けないよりはマシの意見もあるでしょうが、患者およびその家族が「マシ」レベルで満足してくれるかどうかが、現在の医療の最大の問題点である事は考慮されているとは思えません。

適切な能力の無い医療機関に重症患者が運び込まれても、当然ですが十分な医療は施せません。ここで言う「十分」とは「完璧」の事であり、しばしば「神の領域」までのものが、ごくごく普通に要求されます。医療機関を受診したからには、最高最善の医療を受けて当然とされます。その水準から少しでも落ちるような医療を行ない、さらに結果不良であった時には、最高最善の治療水準に照らし合わせての注意義務が課せられます。

こんな事は最早常識です。とりあえず「医者」とレッテル貼った人間が、医療機関と「看板」に書いてある場所で治療を受ければ、それで患者が満足してくれた時代は遠い昔、それこそ伝説か神話時代のお話です。ここまで厳しい時代に医療はなっているというのに、医療ミスが起こりやすい環境をわざわざ作るような宣言とも受け取れます。

重症患者を受け入れる能力の無い医療機関が、無理やり押し付けられたらどうなるか。これは地雷を踏むレベルの話ではなく、空から誘導爆弾が打ち込まれる状態です。担当医は即死し、病院も大きな被害を蒙ります。そういう誘導爆弾が降り注ぐ地域の医療をどう受け止められるかです。赴任地としては忌避される事が予想されますし、現在いる者は、なんとか伝手を見つけて比較的でも安全な地域に疎開しようと考えても不思議ありません。

もちろんそれでもあえて危地に赴く志士もいるでしょうし、踏み止まる勇士もいるかと思います。そういう医師たちに言葉を贈りたいと思います。

    志士は溝壑に在るを忘れず、勇士は其の元を喪うを忘れず
姫路の皆様、姫路宣言を受けても踏み止る医師たちは本当の志士であり、勇士です。彼らを玉砕させないように
    患者や家族に対しては早めの受診や救急要請、軽症の場合は市の休日・急患センターで受診するなどの啓発
この啓発を真剣に受け止めてくれるように願います。志士や勇士は存在しますが無尽蔵に代わりはいません。はっきり言えば、一度失えば、二度と補充する事は極めて困難であることだけは覚えておいて欲しいと思います。