越権行為の可能性は

中間管理職様のところで見つけた記事で、元記事は12/7付のキャリアブレインです。

規制会議、混合診療控訴取り下げ要求へ

更新:2007/12/07   キャリアブレイン
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/13440.html;jsessionid=5A87A6FA242A25DB2C9543359E9FFE17

 規制改革会議の草刈隆郎議長(日本郵船株式会社代表取締役会長)は12月6日、本会議終了後の会見で、年末の第2次答申取りまとめに向けて最重点課題に位置付けている混合診療全面解禁を実現させるため、厚生労働省とがん患者の男性が争っている混合診療をめぐる訴訟で、東京高裁への控訴を取り下げるよう、同省に要求する考えを示した。同会議は、混合診療の全面解禁を答申に盛り込む方針を示しているが、草刈議長はこの日、厚労省との交渉の難航を示唆。控訴取り下げを働きかけて地裁判決を確定させることで、解禁を目指す考えを示した。

 保険診療保険外診療を併用する混合診療をめぐっては、東京地裁がことし11月、厚労省による禁止政策に法的根拠がないという判決を下し、厚労省がその後、控訴した。
 一方、東京地裁の判決を受けて同会議は、混合診療問題を年末の答申取りまとめに向けた最重点課題に位置付け、全面解禁を主張している。

 草刈議長は6日の会見で、「控訴審が始まると、結論が出る1年だか1年半だかの間に、また悲哀を味わう患者さんが出る。もう(法的根拠がないという)判決が出ているんだから、きちんと対応してください、すなわち控訴を取り下げてくださいと訴える」と述べ、同省に控訴取り下げを働きかけることで決着を図る方針を示した。

 同会議は6日、「混合診療禁止措置の撤廃/医師不足対策」など15項目を重点取組事項に列挙した。同会議はこれらの項目ごとに関係省庁と交渉し、合意に達したものを答申に盛り込む。答申は20日前後に取りまとめ、閣議決定する見通し。
 草刈議長は混合診療をめぐる交渉の具体的な状況は明らかにせず、「最終的には政治決着してもらうほかない」と難航を示唆した。

混合診療についての意見は中間管理職様が適切にまとめられていますし、この混合診療解禁訴訟の裁判の判決文に対する考察は11/16付のエントリーを御参照ください。今日は長くなるので触れません。

私が問題にしたいのは、記事中にある

    同会議はこれらの項目ごとに関係省庁と交渉し、合意に達したものを答申に盛り込む
まず経済諮問会議のお仕事は財政諮問会議のHPの概要に「所掌事務」として、

  1. 内閣総理大臣の諮問に応じて、経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項についての調査審議


  2. 内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じて、国土形成計画法(昭和25年法律第205号)第6条第2項に規定する全国計画その他の経済財政政策に関連する重要事項について、経済全般の見地から政策の一貫性・整合性を確保するための調査審議


  3. 上記1.、2.について、内閣総理大臣等に意見を述べること

さらに先の予算委員会でも大田弘子・経済財政担当相はこう明言しております。

同会議は、政策決定機関ではなく、総理のために調査・審議を行う諮問機関

大田大臣の答弁はどうも経済諮問会議の概要の所掌事務の記載に基づいて答弁しているように考えられます。この二つの事柄から、経済諮問会議の所掌事務、即ちお仕事は、

  1. 国の経済及び財政の調査審議
  2. 総理に意見を述べること
この二つであると考えられます。しかしよく見れば、概要の所掌事務には「総理等」と「等」がついています。「等」とはなんぞやになりますが、

経済諮問会議の正式の法的根拠である内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の規定によれば、その第19条に所掌事務等が書かれています。

所掌事務等

第十九条

経済財政諮問会議(以下この目において「会議」という。)は、次に掲げる 事務をつかさどる。

一 内閣総理大臣の諮問に応じて経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策(第四条第一項第一号から第三号までに掲げる事項について講じられる政策をいう。以下同じ。)に関する重要事項について調査審議すること。

二 内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じて国土形成計画法(昭和二十五年法律第二百五号)第六条第二項に規定する全国計画その他の経済財政政策に関連する重要事項について、経済全般の見地から政府の一貫性及び整合性を確保するため調査審議すること。

三 前二号に規定する重要事項に関し、それぞれ当該各号に規定する大臣に意見を述べること。

  1. 第九条第一項の規定により置かれた特命担当大臣で第四条第一項第一号から第三号までに掲げる事務を掌理するもの(以下「経済財政政策担当大臣」という。)は、その掌理する事務に係る前項第一号に規定する重要事項について、会議に諮問することができる。

  2. 前項の諮問に応じて会議が行う答申は、経済財政政策担当大臣に対し行うものとし、経済財政政策担当大臣が置かれていないときは、内閣総理大臣に対し行うものとする。

  3. 会議は、経済財政政策担当大臣が掌理する事務に係る第一項第一号に規定する重要事項に関し、経済財政政策担当大臣に意見を述べることができる。
 

つまり「等」とは

    当該各号に規定する大臣に意見を述べること
総理以外にも他の大臣にも「意見を述べること」が所掌事務に含まれています。この「意見を述べること」が法令的にどういう範囲を指すかは良く分からないところですが、普通に考えられる事は、調査審議し策定された答申について担当大臣に対し「こうこう会議は考えている」と話すことではないかと思います。経済諮問会議は内閣府設置法24条で

第二十四条

会議は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係する審議会その他の関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。

  1. 会議は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者であって審議の対象となる事項に関し識見を有する者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

こういう強力な調査権限を与えられており、調査審議時にも「意見の開陳」「説明」などを大臣に要求できるようになっています。ですから決定事項は「かくかくしかじか」であると担当大臣に説明する、すなわち「意見を述べる」は不思議ではありません。

ただし「担当大臣に意見を述べる」と「関係省庁と交渉」はイコールでしょうか。記事ですので差し引いて考えなければならない分があるとしても、経済諮問会議は政策を作り、その政策の実行の裏付まで担当している事になります。なおかつ

    合意に達したものを答申に盛り込む
合意に達しないものは最初から盛り込まないとしています。経済諮問会議の所掌事務の基本は調査審議です。調査審議した物を総理に答申するのがお仕事です。答申を受けてこれの採択を決定するのは内閣です。答申案の中には関係省庁が反対する事項もあるでしょうが、反対も含めて内閣が採択の是非を決めるのが本筋かと思います。これを答申前に経済諮問会議が関係省庁に折衝するのは「意見を述べる」の範囲を越えているように思えてなりません。

「意見を述べる」は答申前の関係省庁の折衝まで含まれるものなのでしょうか。個人的には法の規定を越えた行為、すなわち越権行為に思えてなりません。そこまですれば諮問機関ではなく政策決定機関になってしまうような気がします。ま、面と向かって質問しても、「意見を述べる」の範囲であり、諮問機関として答申を作る適切な行為であると強弁されてチョンでしょうが。