信じてよいのか、悪いのか

まず11/29付読売新聞より、

08年度の診療報酬改定、薬価を1%程度引き下げへ

 政府は28日、2008年度の診療報酬改定で、薬価を1%程度引き下げる方針を固めた。

 厚生労働省が同日、厚生労働相の諮問機関「中央社会保険医療協議会」(中医協)に提出した薬価調査で、医薬品に支払う公的な価格が市場の実勢価格を平均約6・5%上回る価格差があったためだ。薬価の1%程度引き下げが実現すれば、来年度予算で医療費への国庫負担は約800億円抑制される見通しだ。

 一方、中医協は同日の総会で、診療報酬の本体の改定について、医師不足問題などを背景に、「マイナス改定を行う状況にない」とする意見書を決定し、舛添厚労相に提出した。

 今後、政府・与党が、診療報酬本体の改定幅などを議論し、来月中旬にも診療報酬改定を決定する方針だ。

さらに11/28付共同通信より

医師技術料プラスで調整へ 診療報酬、勤務医対策に

 2008年度診療報酬改定で中央社会保険医療協議会中医協)は28日、医師の技術料である「本体部分」についてマイナス改定を行うべきではないとの意見書をまとめ、舛添要一厚生労働相に報告した。これを受け厚生労働省は、本体部分の引き上げに向け財政当局と調整に入る方針。

 政府は年内の予算編成過程で診療報酬の改定率を決める。改定率の決定権は、汚職事件に端を発した改革により前回06年度改定以降、中医協から内閣に移ったが、医療費を負担する立場の健康保険組合や財界の委員も合意した意見書は一定の重みを持つ。与党内にも厚生労働族議員を中心にプラス改定を要求する意見が強く、本体引き上げへの流れは加速しそうだ。

 こうした動きの背景には、病院勤務医の過酷な勤務状況など医療現場が疲弊している実態がある。意見書では「産科・小児科や救急医療などの実情に照らし、次期改定では勤務医対策が重点課題」と明記した。

医療費削減、診療報酬削減一辺倒であった平成20年度診療報酬改定ですが、中医協の結論は技術料本体部分は「マイナス」は行なわず「プラス」との意見であるとの事です。開業医として素直に嬉しいのですが、それまでの流れからするとやや唐突の感じは否めません。

中医協以外の流れとしては財政制度等審議会が建議として、

    「3.6%程度のかい離がある」として、「これを是正する方向で見直す」と明記した。
後はこれも強い影響力を持つ経済諮問会議も医療費削減の大合唱です。平成20年度改定については外堀も内堀も埋め尽くされた状況でしたが、それでも中医協が逆の結論を出した事に驚きを隠しきれません。情報として中医協の公益側委員が診療報酬引き上げの意見を表明した事が報道されたりはありましたが、それを圧倒するかのように「削減、削減」の情報が溢れていましたから、意外と感じても不思議無いかと思います。

問題は中医協の意見がどこまで反映されるかです。共同通信記事にあるように診療報酬の決定権は内閣にありますが、首相がこの問題をどこに振るかでその意向がわかります。またぞろ経済諮問会議の意見を聞くの路線となれば問題は振り出しに戻ります。振り出しに戻ると言うより、首相の意向はマイナス改定路線である事になります。

与党の意見を聞くとなれば、プラスさえも可能性が出てきます。プラス改定を主張する議員は厚生族議員の他に、地方出身議員も多いと考えられます。参議院選挙の敗因は表面上は、年金問題、さらに閣僚の相次ぐ不祥事や、それに対する前首相の指導力の欠如とされていますが、それだけでない事を地方出身議員は痛切に感じているはずです。地方においてより深刻化している医療崩壊の影響が無視できないものになっているのです。

声としてはマスコミが取り上げないので表面化することは少ないですが、医療崩壊に直面する高齢者の医療に対する痛みは確実に投票に影響しています。高齢者は投票率も高く、これまでは地方の与党の強力な基盤でしたが、医療だけではなく他の政策の痛みも強烈に感じ、与党離れの傾向は著明となっています。つまり次期総選挙に向けて医療費削減を断行したら、ドミノ倒しの大量落選の危機を強く感じているだろうと言う事です。

政治は決定権者の数で大きく動きます。各種審議会が強大な影響力を誇れたのは前々首相が党内を掌握していたからです。掌握という言葉は不適切で、前々首相の国民的人気に便乗していたら選挙に勝てるという強い支持です。前々首相が各種審議会の決定を政策決定の拠り所とした政治手法に不快感をもつ議員も少なくないでしょうが、「選挙に勝てる」という信頼は前々首相の政策を許容し、結果としての形態として前々首相の審議会重視手法が幅を利かしたと考えます。

ところが現首相はそこまでの選挙における信頼感を得ておりません。次期総選挙への与党の危機感は相当なものです。民主党参議院選挙後エラーを行なっていますが、総選挙自体は風一つでどう転ぶかわからない状態であるのは続いています。ただでも前回選挙は大勝の極みで、誰がやっても議席が減るのは確実ですが、与党への逆風はまだまだ続いています。議員職がかかっている議員の動向は現実的です。なんと言っても前々首相が派閥を弱体化させてしまったために、各個の議員の統制は党内でも難しくなっています。

さて中医協の結論が今後の流れになっていくのか、医療費削減勢力が強烈な巻き返しを図るのか。どうにも先が読めない情勢に変わりつつあります。まだまだ医療費削減勢力は強大ですからね。