有識者だそうで

11/26付Asahi.comより、

医師不足対策、研究会発足へ 厚労省

 舛添厚生労働相は26日、医師不足解消や地域の医療格差是正に向け、医療政策の長期ビジョンをつくるための研究会を近く立ち上げる意向を表明した。医師のへき地勤務を義務化することの是非、外国人医師が日本で診療できるようにするための規制緩和混合診療解禁の是非などを議論するという。

 同日開いた全国知事会との意見交換会で、医師不足対策の要望などが相次いだのを受け、舛添氏が明らかにした。

 知事側からは、医学部定員増の恒久化▽医師の負担軽減のための看護師の業務拡大▽全人的な診察ができる地域医療の担い手育成――などの要望が相次いだ。

 これに対し、舛添氏は「(医療政策を)継続的にやってきていないツケが出ている」と話し、医療分野の規制緩和のあり方を中心に有識者による研究会で議論していく考えを示した。

この記事の取材場所である全国知事会との意見交換会は様々な意見が飛び出したらしく、報道各社で重点が違います。意見交換会がクローズで行なわれたのか、オープンで行われたかを確認する術はありませんが、記事を読む限りオープンな様な感じがします。それとこれも確認しようが無いのですが、意見交換会に枡添大臣だけが出席したのか、他の閣僚も出席したのかも良く分かりません。枡添大臣が出席したのは明らかですが、一人だけ出席したのでしょうか?

とにもかくにも枡添大臣が記事では主役なのは間違いありませんし、医療問題についての意見交換がかなり行なわれたのまた間違いないと考えて良さそうです。ここでまず重要なのは、

現状として相次ぐのは不思議でも何でも無いのですが、これが記事にごく当たり前の事柄として書かれているのが進歩かと思います。これが今春の予算委員会ではどうだったかですが、まず前首相です。

 まっ医師の数はですね現在毎年3500人から4000人程度まあ増加をしています。まっ確かに現時点においては過剰な状態でないわけですが、将来的にはですね必要とされる医師の数を上回る数の医師が供給されることが見込まれています。

 え〜また尚ですね、平成16年末におけるわが国の人口1000人辺りの臨床医師数はですね2,0人とまあOECD平均をまあ下回ってまあおりますが、え〜まあ例えばですね米国やイギリスなどはですねこの医師に対してですねえ〜患者のフリーアクセスがいわば制限されているというわけでありますが、日本は皆保険制度の中で、まっ完全にフリーアクセスがまあ保障されている、こういう違いもございます。

続いて前厚労大臣です。

 ま〜あの〜今委員はですね〜あの〜OECDの、OECDの例をですね、これを基準としてものをおっしゃっているわけですけれども、私どもとしては日本の国内の状況について観察してそういうことを申し上げております。ですから、例えばある県においてですね、これをいくつかのこの医療圏に分ける、え〜あるいは第三次医療圏に分けてみるとゆうようなことをした場合もですね、そこで非常にそれに、お医者さんが非常に厚くいらっしゃる所と薄くいらっしゃる所がある、これは事実でありまして、このことをあの、そういうことをわれわれは観察した結果、今申したような偏在ということを申しあげているというのでございます。

「医師は足りている、偏在しているだけだ」の答弁一辺倒であったのは記憶に新しいところです。この時のとどのツマリは「厚くいる都道府県を挙げよ」との質問に前厚労大臣は立ち往生した挙句、

 あるう〜もちろん基本的にですね西高東低といった徳島なんかが、今委員も言っておるとおりですとも、私どもはですね各県の中でも非常に厚いところと薄いところがある、そういうようなことで地域的な偏在がある!ということを申し上げているというわけでございます。

苦し紛れに徳島の名前を出して大顰蹙を買ったのは今春の話です。

これだけの右往左往答弁をしても衆参とも多数派であった政府与党は「医師は偏在」との前提の下に100億円の新医師確保対策を行なったのですが、これがどれだけの成果が上ったかを示すのが、

そういう事です。

数々の要望を受けた枡添大臣ですが、

    「(医療政策を)継続的にやってきていないツケが出ている」
この発言は間違ってはいないと思いますが、正確ではないと考えています。医療政策は継続的に行なわれています。少なくとも2つは継続的に行なわれています。
  1. 医師が余るとの推測の下の医師増加抑制
  2. 医療費亡国論に基づく医療費削減政策
とくに医療費削減政策は何があっても推進するとの姿勢の継続を堅持しています。ま、こういう政策決定が誤りであるかもしれないの検証作業は棚に上っているとは言えます。

それでもってどうするかも枡添大臣は発言しています。

手法としてはそんなものかとも思いますが、読んだ瞬間に目の前が真っ暗になりました。政府が指す「有識者」なるものが、どういう人物であるかについてはしっかり学習させて頂きました。百歩譲って枡添大臣の人選ならわずかでも希望はあるのですが、政府や財務省の意向、ましてやこれまで有識者の供給源である財界の意向が強く反映されるのならお先真っ暗です。

それにしても政策を決定するのに、政府が指す「有識者」の意見を拝聴し、その意見が無いと政治が動かなくなっているシステムは異常です。専門領域で専門家の意見を参考にすることをすべて否定する気はありませんが、あくまでも参考意見のはずです。政府だってその分野の専門家を国費で養成しているはずなのに、何を決めるにも屋上屋を架す様な有識者会議が無いと何も出来なくなっているシステムはどこか変です。日本の官僚は従来優秀と言われてきましたが、動脈硬化を起こし思考が出来なくなってしまったのでしょうか。

官僚支配の弊害も長年問題とされていましたが、有識者支配の弊害も余りに目に付きます。有識者支配の最大の弊害は彼らが何の責任も背負わない事です。官僚の責任逃れも有名ですが、それでも基本的には責任を負います。国策を決めるのに人選理由不明の無責任集団が権力を握る構造は宜しく無いかと考えます。

見ようによっては有識者会議はすべての責任を消し去る魔術とも考えています。無責任集団である有識者会議の決定を恭しく遂行し、何が起こっても「有識者会議の決定だから」と強弁し責任を回避する政治スタイルです。決定の源である有識者会議の責任を問おうにもそれが問えないのですから、結局誰も責任を負わないシステムになります。

もっとも責任問題は発生します。前首相が辞任したのは様々な理由がありましたが、その一因として有識者会議の政策を容認し続けたのもあるかと考えます。同じ責任を取るのなら自分の考え、自分の決定として成果を問う方がよほどスッキリした政治になるかと思います。

最後に大田弘子・経済財政担当相の国会答弁を引用しておきます。

同会議(経済諮問会議)の中で給付と負担についての選択肢を提示して、議論を進めていきたいと考えている。

枡添大臣、あなたも同じような発想で政治を行なうのですか。最近の厚労大臣の中では医療の現状をもっとも良く把握し、さらに勉強を重ねている人材と期待していますが、それでも最後の決定は有識者会議様丸投げ政治を行なうのですか。とにもかくにも人選と有識者会議の決定に対する指導力を注目します。