大阪患者公園置き去り事件

昨日は鉄腕の偉業に敬意を表しましたが、また医療の話に戻ります。少し躊躇はありますが、大阪の事件を取り上げてみます。とりあえず患者情報が欲しいので、記事の内容はともかく事実関係が豊富な11/13付毎日新聞より、

(前略)

患者は治療費を滞納していたほか、トラブルも多かったといい、職員らは「退院可能なため知人に引き取らせようとしたが、断られたので放置した」と説明。

(中略)

 同病院や堺市保健所によると、男性は約2年前から入院費用など治療費を滞納。約3年前から退院可能な病状だった上、自宅が判明したため、職員4人が9月21日午後1時ごろ、男性を車に乗せて大阪市住吉区内にある男性の自宅を訪れた。しかし、同居する前妻が本人の持病を理由に引き取りを拒否した

(中略)

 男性は約7年前に入院。生活保護が打ち切られて治療費が滞納状況となり、備品を壊したり看護師に暴言を吐くなどトラブルもあったという。

(中略)

 病院側の説明によると、放置することを判断したのは4人のうちの年長者の渉外係の職員(47)。男性の病状は安定し退院は可能だったが、家族など受け入れ態勢がなく退院できない「社会的入院」で長期の病院暮らしを送っていた。目の不自由な人向けの施設などへの入所を勧めても拒否。他の患者とトラブルを起こして6人部屋を独占し、暴言を恐れて辞めた看護師もいたという。

(後略)

ここでは引用し切れませんでしたが患者は「糖尿病で全盲の63歳の男性患者」です。患者像としてまとめると、

  • 63歳の男性患者は7年前の56歳の時から糖尿病で入院
  • 3年前に退院可能な状態であった
  • 2年前から治療費を滞納、生活保護の打ち切りが原因らしい。
  • 目の不自由な人向けの施設などへの入所を勧めても拒否
  • 備品を壊したり看護師に暴言を吐くなどトラブルがあり、他の患者とトラブルを起こして6人部屋を独占し、暴言を恐れて辞めた看護師がいる
  • 受け入れ家族がないので退院できない「社会的入院」であった
  • 前妻に受け入れを頼んだが拒否された
もう少し情報が欲しいのですが、最近毎日を猛追する勢いで、この事件ではある意味リードしている11/13付産経新聞です。これも患者情報部分を引用します。

(前略)

 関係者によると、男性は糖尿病の治療などで豊川総合病院に約7年前から入院。全盲大阪市生活保護や障害者年金を受けており、毎月2万〜3万円の現金を内妻から受け取り、入院生活を続けていた。しかし、入院費の支払いが約2年半前から滞り、院内で看護師や別の入院患者とトラブルになることも多かったという。

 これまでの調べに男性は「入院費は内妻が生活保護費の中から支払ってくれていると思っていた。職員に置き去りにされ、行き場がなくて辛かった」などと話しているという。

(後略)

毎日記事と事実情報がやや異なっています。


毎日
産経
2年前から治療費を滞納入院費の支払いが約2年半前から滞り
前妻内妻


毎日記事では患者の引取りを「前妻が拒否」となっており、前妻なら断っても別に不思議はありませんが、内縁の妻なら話は変わってきます。内妻の方が真実らしい記事として、
    毎月2万〜3万円の現金を内妻から受け取り
そうなると内妻は生活保護や障害者年金を受け取っていながら、2年半前から治療費を病院に支払っていないことになります。この内妻がいつから存在していたかは記事からははっきりしませんが、患者が入院後のロマンスとは少し考え難い面があるので、入院前からそういう状態であったと考えるのが妥当に思えます。そうなると毎日記事の記述がおかしくなります。
    自宅が判明したため、職員4人が9月21日午後1時ごろ、男性を車に乗せて大阪市住吉区内にある男性の自宅を訪れた
7年間入院しており、内妻が生活保護や障害者年金を管理し、少なくとも2年半前までは治療費を支払っていたのに、住所が判明していなかった事になります。もっともありえない事ではなく、内妻が治療費を支払わなくなった2年半前から通帳を抱えて愛想尽かしをされていた状態とも考えられます。生活保護が打ち切られたのが、毎日記事は2年前となっており、これは愛想を尽かした内妻が手続きを怠ったためとも考える事は可能です。

それでも謎が残ります。生活保護の打ち切りは病院もすぐに分かりますし、打ち切られれば治療費の支払いに支障を来たしますから、打ち切られたことを患者に話し、再開申請の手続きを何故行なわなかったかです。真相はこの記事からは不明ですが、手がかりになるものはあります。

    入院費は内妻が生活保護費の中から支払ってくれていると思っていた。
ここで患者の普段の言動を重ね合わせると推測できる事があります。病院側が生活保護が打ち切られた話を持ち出せば「そんなはずがない」と大暴れした可能性で、話を持ち出しても取り付く島も無かったのではないかと言う事です。

そんな状態の患者の扱いは極度に難しくなります。おそらくですが治療費の請求を行なっても「内妻が払っているはずだ」で、それ以上の請求を行なえば手がつけられない状態になった事は想像に難くありません。また他施設への移転話もどの時期に行なわれたか分かりませんが、生活保護が打ち切られ、障害者年金も内妻が持ち逃げしている状態なら事実上不可能です。問題行動の多い患者を引き取る事さえ難色を示すでしょうし、自己負担分も出て来そうにないのならどこでもお断りでしょう。

病院が法的手段を摸索したかが一つの問題ですが、11/13付産経イザに

3年前も何とか帰らせようとして弁護士とも相談した

この相談は一度だけお座なりにしたとも思えず、何度も協議検討を行ったと考えますが、弁護士をもってしても適切な法的手段を見出せなかったと考えます。3年前という時期がこの事件では微妙なのですが、

  • 病状は退院できる状態であった
  • 生活保護はまだ続いていた
  • 内妻はまだ治療費を支払っていた
これは憶測ですが、どうも患者の退院話が出た後に、内妻に愛想を尽かされた流れになると考えた方が良さそうです。ただ内妻の態度も微妙で産経記事にある、
    毎月2万〜3万円の現金を内妻から受け取り
これは事件が起こるまで続いていたのでしょうか。悪意で取れば、障害者年金をネコババする事実が患者にばれないように、小遣いだけは患者に渡し「治療費もちゃんと支払っている」と耳元で囁き続けていたとも考えられます。それを信じた患者は病院側の言い分に一切耳を貸さなかった可能性は十分あります。

結局、3年前に弁護士と相談してまでの退院話が潰え、その後は生活保護が打ち切られ、治療費も支払われなくなり、障害者年金も内妻に横取り状態の患者を病院は面倒見続けていたことになります。

最後の最後に内妻の家を見つけ、退院引取りを懇願したが断られ、その挙句に患者を公園に置き去りにした行為は責められるは間違いありません。では一体どうすれば良かったかを記事は一切触れていません。死ぬまでその状態で病院で面倒を見るのが当然だったのでしょうか。そうすれば美談でしょうが、病院経営は慈善行為ではありません。

記事情報だけなので、確たることは言えませんが、病院側の大きな手落ちとして、やはり生活保護が打ち切られた時の病院側の対応がこの事件の遠因であるとも考えます。一方で内妻の囁きを盲信し、病院側の助言に一切耳を貸さなかった患者にも責任の一端は確実にあると考えます。

そして最大の謎が助言を求められた弁護士です。この辺の法の詳細、運用について知識は乏しいですが、何か有効な手段が取れなかったか不思議でなりません。もっとも法的措置の実行も難しいだろうぐらいは推測されます。患者の条件は、

  • 全盲の糖尿病で高齢
  • 収入は実質ゼロ
  • 収入はゼロにも関わらずゼロである事を認めない
  • 言動から協調性は極めて低い
  • 面倒を見る身寄りも実質ゼロ
退院させられたら、その場で立ち往生するのは見え見えです。裁判所も表向きの法的には病院からの退去を認めざるを得ないかもしれませんが、「後はどうしてくれるんだ」に安易な答えを出せなくなると考えます。とは言え裁判所が病院に面倒を見ろの命令を下すわけにもいきません。

病院側が行なった公園置き去りは許されざる行為である事はもう一度念を押しておきます。念を押した上であえて好意的に解釈すると、病院側の申し出を悉く拒否した患者に対するショック療法とも考える事ができます。手段が乱暴なのは言うまでもありませんが、この事件は単なる置き去りではなく、置き去ったその場で119番通報を行なっています。批判されるべき方法ですが、他の医療機関に連絡していると見れます。

そこまでの行為をされ、新たな医療機関から第3者として、生活保護が打ち切られている事、治療費も支払われていない事、内妻の行なっている行為を聞かされれば、なんとか患者も聞く耳を持ってくれないかと考えられない事はありません。聞く耳さえ持ってくれれば、生活保護の再申請も、障害者年金を取り戻す事も可能です。協調性の問題は難関ですが、公的扶助を受けられる体制を再構築すればまだ打開の道は開けます。

それでも、これほどの違法な非常手段を取る事を選択させた病院側と患者の関係に、あまりにも深い闇を見る思いです。