財務省の誘導

厚労省はもちろんの事、財務省も医療費亡国論の熱心な信者である事は夙に有名です。医療費を抑制し、削減する事が正義であると信じて疑わないところがあります。そのためには手段を選ばないとしても言い過ぎではありません。

財政制度等審議会 財政制度分科会 財政構造改革部会に提出された財務省主計局の資料の出し方もエゲツナイと言えばエゲツナイ出し方がされています。3ページにある医療給付費の見通しの図表を見てください。




金額式の棒グラフで描かれており、直感的に医療費が9年で膨れ上がるのを実感させます。この図表にある数字で分析しますが、この図表の本来の目的は国民負担がどう変わるかが主眼のはずです。棒グラフの下に2006年度と2015年度の国民所得が書かれています。そこには、
  • 2006年度:376兆円
  • 2015年度:461兆円
そうなると国民負担の母数である国民所得は9年で、
    1.23倍増えている
という事になります。この予測値が当るかどうかの議論はさておき、医療給付費の負担が金額ベースで1.3倍と括弧付でと負担感を煽っています。ところが母数も1.23倍増えているので、国民所得比からすると0.7%増えただけです。0.7%でも増えるのは問題と言われる方もおられるかもしれませんが、増えた理由はこの図表でも示されているように75歳以上の高齢者医療費が増えた事であるのは一目瞭然です。またしても図表では1.5倍と危機感だけ煽る書き方になっていますが、国民所得比で1.23倍で、0.6%の増加です。

だいたい母数となる国民所得が異なっているのに、金額ベースの増加率を強調する書き方に問題があります。所得が増えれば金額ベースの負担は増えるのはある意味当然ですし、問題視しなければならないのは所得に対する負担比のはずなのに、ひたすら金額ベースで負担を強調する書き方に作為を感じずにおられません。

では75歳以上の高齢者の増加予想はどうなっているかは7ページにグラフがあります。




このグラフもなぜか65歳以上の高齢者人口比率のグラフとなっており、図表で強調した75歳以上の高齢者を描いていない事が摩訶不思議なんですが、2005年に20.2%であったものが2015年に26.9%に増え、1.33倍の増加率です。各種データからここ10年以内の推移として、65歳以上高齢者人口の増加率は75歳以上人口の増加率と同等若しくは下回ると考えてよく、ここでは1.3倍と考えてもそんなにはずれていないかと考えます。

75歳以上の高齢者比率が1.3倍で国民負担比が1.23倍であるなら、どこがおかしいのでしょうか、どこに問題があるのでしょうか。人口比率が増えた分だけ医療費が増えるのは当然ですし、高齢者が若年者に較べて医療費がかかる事実を今さら信じられないと考える人がどれだけいるものか聞いてみたいものです。

さらに75歳以上がそれだけ増えるのであれば、65歳以上の高齢者も当然のように増え、75歳以上よりは一人当たりの医療費はまだ少ないかもしれませんが、若年者よりも多いのも否定できない事実です。病気になり安い65歳以上の高齢者人口が増え、さらに病気になり安い75歳以上の高齢者人口が増えれば、医療給付費の国民負担比が増えるのは自然の事です。

少しまとめると、

  • 2015年度には65歳以上の高齢者が1.33倍に増加する。当然の事ながら75歳以上の高齢者比率も同程度に増加する。
  • 2015年度に、高齢者人口が増えたことによる国民所得比の医療負担が7.3%から8.0%に0.7%増加する。
この程度の医療費負担増は、日本の人口構成の変化、すなわち少子高齢化にともなう必然の社会保障費の増額と考えます。それが問題視するほどの事なのでしょうか。この前フリの図表提示の後、財務省は国民負担が増えるから今から医療費を大幅削減しなければならないと、延々と説明し、この説明を財政審のメンバーは「御説、御もっとも」と納得了承しています。

最後に同じデータを使ってこの図表を書き換えてみました。指標は財務省の金額ベースから、国民所得比ベースに変えています。随分イメージが変わると思います。




高齢者人口の比率が増え、それにともなって高齢者人口の医療費が2割増となり、全体でも1割増えるという推測図になります。誰だって負担が増えるのは嫌ですが、増える理由ははっきりしており、それも誰でも納得できる理由かと考えます。財務省の主張は
    高齢者人口が増えても医療費が増えるのは許さない
許さないのツケをすべて医療機関に押し付けて帳尻を合わせる手法は、既に限界に達していると考えます。