「効率化」という言葉は探すと辞書に無いのですが、「効率」とすれば、
- 機械などの、仕事量と消費されたエネルギーとの比率。「―のよい機械」「熱―」
- 使った労力に対する、得られた成果の割合。「―のよい投資」
先月末に報道されて話題になった記事ですが、10/31付け毎日新聞より、
厚生労働省は31日、中央社会保険医療協議会の小委員会で、軽度のやけど処置や、洗眼、湿布を張ることなど、患者本人や家族でもできる治療を医師がしても、従来のような加算はしないという08年度診療報酬改定方針を示した。現行報酬(1点10円)は、医師が軽度のやけど処置をすれば135点、湿布を張れば24点−−などの点数が定められている。
これの厚労省の具体的提案が、中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会(第105回)配布資料にあります。ここにはまず現状の課題として、
現在の診療報酬点数表では「第9部 処置」において、医師による診断と適切な指導があれば、必ずしも医師等の医療職による高度な技術を必要とせず、患者本人若しくは家人により行うことが可能な処置についても評価されている。
こう前置きした上で一覧表が掲げられています。
処置 | 診療報酬での評価 | 点数 |
皮膚が赤くなる程度の熱傷 (第1度熱傷)で範囲の狭いもの |
J0001 熱傷処置 (100平方cm未満) |
135点 |
狭い範囲の軟膏塗布 | J053 皮膚科軟膏処置 (100平方cm未満) |
45点 |
点眼、洗眼、片眼帯 | J086 眼処置 | 25点 |
点耳、簡単な耳垢栓除去 | J095 耳処置 | 25点 |
鼻洗浄 | J097 鼻処置 | 12点 |
湿布の貼付 | J119 消炎鎮痛剤処置 3 湿布処置 □ その他のもの |
24点 |
この表を示した後に「論点」として、
上記のような、医師による診断と適切な処置があれば、患者本人若しくは家人でも行なうことが可能な処置について、特別には診療報酬上の評価は行なわず、基本診療料に含まれると考えてはどうか。
これについての議論の様子をあおむし様から頂きました。モトネタはキャリアブレインです。質疑応答形式に編集して読んでもらいます。
鈴木満委員(日本医師会常任理事)
「本当に患者が自分でできるのだろうか。眼は感染性疾患もあるので、『自分でやってください』と言われた患者は不安にならないだろうか。器具やガーゼの滅菌も必要なので、非常に不安が残る
竹嶋康弘委員(日本医師会副会長)やはり強調したいのは感染を誘発するということ。私は外科系だが、傷があれば消毒した上でガーゼをする。数日して感染のおそれがなくなったら自分でやってもらっている。洗眼も患者にできるだろうか
厚労省保険局の原徳壽医療課長医療上必要なものはやってもらっていいが、やっても外来基本料の中に読み込むという意味だ。患者さんができないのに『やれ』ということがあってはならない
小島茂委員(日本労働組合総連合会生活福祉局長)本人にやれということではなく、初再診料に含めるという提案だろう。確かに、医療の効率化や診療報酬のメリハリは必要だ。これらの点数をすべてなくした上で初再診料に含めていいのか、ここは議論が必要だろう
土田会長おそらく効率化の視点からの提案だろう。医療行為として行わないということではないので、その点を確認していただきたい」と理解を求めた。
読んでもらえればわかるように、ここで厚労省サイドの発言者が用いる「効率化」とは、より少ない出費(医療費)で医師をより多く働かせる事であるのがよくわかります。どれも確かに大がかりな処置ではありませんが、無料で出来るものではありません。薬剤費、材料費、器材をそろえ、それらを滅菌消毒する手間、当然のように人件費がかかります。これらも含めての診療点数なのですが、これらを無料化するとの宣言です。
確かに医療費を払う側から見れば効率化です。医療現場での仕事量も、かかる経費も何ら変わりありませんが、払う金が減れば効率化になります。これは医師の方から見れば、強制無料化ないしは持ち出し無料診療にしか感じませんが、立場が変われば、無料で出来る医療範囲が広がるということで、出費が減って仕事は同じで「濡れ手に粟の効率化」になります。業界用語はどこでも難しいのですが、厚労省が使う業界用語も一筋縄でいきません。
そうなれば財務省が強力指示として発した医療費大幅削減宣言で、その理由とした、
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業務の合理化の余地
- 道理にかなうようにすること。また、もっともらしく理由づけをすること。「自説を強引に―する」
- 能率を上げるためにむだを省くこと。特に、企業などで、省力化・組織化によって能率を上げ、生産性を高めようとすること。「経営を―する」
- 心理学で、たとえば言い訳のように、理由づけをして行為を正当化すること。
今回の財務省が使った「合理化」はどれに副ったものなのでしょうか。普通に取れば、2.の意味である「能率を上げるためにむだを省くこと」ですが、ここでの無駄とは先進諸国で最低ランクの診療費を下げる事だとわかります。報酬が下がってモチベーションが上るわけは無いですが、現場には極度に無関心ですから、いくら下げても医師はどうせ働くと足許を見られています。つまり「能率」は財務省から見ればまったく同じで、支出だけが減るので大いなる合理化になります。
ただ個人的には財務省の合理化は1.の意味では無いかとも考えています。すなわち、
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財務省の言う「合理化」とは、もっともらしく理由づけをすること。「自説を強引に―する」
財政審は「下落が続く賃金や物価の水準に比べると医師の人件費などはまだ高い」と反論。
財務省の業界用語もまた難解なようです。もっとも財務省にさえ大きな影響力を持つとされる経済諮問会議民間議員の人件費感覚は、年収400万でも世界に冠たるホワイトカラーですから、医師の人件費を半分にしても「まだ高い」なんでしょうね。