H.20年度診療報酬改定情報

11/3付け中日新聞より

夜間延長で診療報酬加算 厚労省が方針
2007年11月3日 朝刊

 来年度の診療報酬改定で厚生労働省は二日、開業時間を夜間まで延長した診療所に診療報酬を手厚く加算する方針を固め、中央社会保険医療協議会中医協)に提案した。地域の開業医に症状が軽い患者の診察を分担してもらって、病院勤務医の負担を軽くする狙い。患者が仕事や学校の帰りに医者にかかりやすくなる利便性向上も見込む。

 勤務の過酷さから、地域の拠点病院などで勤務医の退職が相次いだことが「医師不足、地域医療の崩壊につながった」と指摘されており、改定案は勤務医の待遇是正策の一環。

 厚労省は「病院は大変。開業医も協力を」としているが、診療所の再診料を引き下げて加算分に回す方針で、日本医師会は反対を表明。調整は難航しそうだ。

 厚労省は「午後六−八時」に絞って診療所の開業延長に加算、患者を病院から開業医に誘導する考え。救急搬送を含む病院の夜間外来が、この時間帯で突出して多いのに対し、診療所の大半は夕方で閉める。このため病院が症状の重い患者の診療と同時に軽症患者の対応にも追われ、繁忙化している実態を考慮した。ただし報酬目当ての夜間だけの診療は認めない。

 勤務医の負担軽減のため同省はこのほか、産科や小児科などがある総合病院では二十四時間救急や入院医療に傾注できるよう、地域連携体制を整えた上で外来を縮小した場合への加算を提案。

 診療データ入力や文書作成など、診療行為以外の煩雑な作業を肩代わりできる事務補助員の病院への配置も、報酬で上乗せする方針を示した。

この情報は総務省の公立病院大幅削減案、財務省の医療費削減指示に引き続いて出されたもので、ネット医師の間でも強い反発が出ているものです。中医協の議事録を探してもまだ無いので、この記事の情報に頼って内容を推測してみます。

やはり趣旨としては

    開業時間を夜間まで延長した診療所に診療報酬を手厚く加算する方針を固め
開業医に夜間診療を行わそうと言う趣旨である事が分かります。そのためのインセンティブとして「診療報酬を手厚く加算」ですが、財務省の医療費削減の指示下ですから、どこかを削って加算分を捻出しなければなりません。そのどこかなんですが、
    診療所の再診料を引き下げて加算分に回す方針
まさに強力な鞭と少しのアメの政策である事が分かります。この政策は表向きは夜間診療さえ行えば、削減分は取り戻せるような印象で書いてありますが、通常の診療時間の再診料削減分が夜間診療の加算で取り戻せるかには大きな疑問がつきます。なんと言っても根本命題は財務省による
    薬価部分を含め3.16%となった前回並みの削減幅
ですから当然のように
    再診料削減−夜間診療加算≒医療費3.16%削減
こういう計算式が成立してもおかしくありません。そういう目で政策を見てみると、誘導される夜間診療時間帯が珍妙です。
    厚労省は「午後六−八時」に絞って診療所の開業延長に加算
加算方式は不明ですが、おそらく前々回の改定で登場し、前回の改定で消滅した小児科の夜間加算に近いものが考えられます。どんな制度であったかというと、午後6時以降の外来患者に時間外加算を認めるというものです。個人的に使いにくい制度で、夕診で6時を過ぎて診察(受付)したものは時間外加算がついて診察料が跳ね上がるシステムです。午後5時59分なら通常料金で、午後6時なら高くなる料金体系というわけです。

当院は午後7時まで診察しています。午後6時と言っても連続した診察時間帯の中ですから、ほんのちょっとの時間の差で患者への請求料金が大きく変わります。小児科の場合は乳児医療の患者が多いのでまだマシでしたが、そうでないところは「なんでやねん!」の抗議の声が出てくるのが予想されます。患者にとっては午後5時59分でも午後6時でも同じ夕診のうちですからね。

それと「午後六−八時」の加算分ですが、この2時間で午前診と午後6時までの再診料の削減分が回収できるかは大きな疑問です。削減幅にもよるでしょうし、診療科による初診比率の差も大きいかと考えます。医療経済実態調査P136から一般診療所の各診療科の再診患者率を出してみると、

診療科 再診患者率(%) 診療科 再診患者率(%)
内科 90.0 産婦人科 84.0
小児科 67.1 眼科 77.1
精神科 95.1 耳鼻咽喉科 78.1
外科 90.9 皮膚科 72.1
整形外科 91.1 その他 88.7


仮に一律で再診料を削減されたときに、再診比率の大きなところほど打撃は大きく、加算分で回収するのに多くの患者数が必要とします。夜間診察での患者数もこれも一定の比率の患者数であるとすれば、加算分をどの診療科の採算にあわせて計算するかになります。再診比率の大きなところの採算で計算すれば、再診比率の小さなところは収益が大きくなり、逆に再診比率の小さなところに合わせれば、再診料削減のカバーが出来なくなるところが殆んどになります。

こういう時に用いられる数字は厚労省お得意の「平均」でしょうから、

    全体の再診患者率:84.4%
これ以上の再診患者比率の診療科は収益が減るでしょうし、これ以下なら回収の可能性が残る事になります。

さらに夜間診療実施に伴う人件費等がこの加算に含まれるかどうかは不明です。求められているのは「開業時間の延長」ですから、延長した開業時間にもスタッフを確保する必要があります。それも通常時間帯の再診料削減分の回収を考えるわけですから、お義理の閑散外来を予想した体制ではなく、フル体制が必要です。

夜間のスタッフ確保は開業医にとって至難の業になります。関西では夜7時程度までの診療所が多く、スタッフもその程度はある程度覚悟して応募してくれますが、これが夜8時になるとハードルは非常に高くなります。ましてや地域によってはそういう常識が無いところもあり、そうなると余程支給額を積まないと確保できません。夜間診療を行うためのスタッフの人件費は通常時間帯より遥かに高くなります。これはこれまでの診療では不要だったもので、夜間診療を行うために生まれた新たな支出です。

つまり今回の改定で診療所が夜間診療を行ったとしても、

    時間外加算分−(再診料削減費+夜間診療人件費)=??
これがイコールになるかどうかが問題になります。今の医療状況では、夜間診療を行ったとしても加算分が再診料削減分をカバーしてくれるかどうか非常に疑問で、そのうえ割高な夜間診療スタッフ人件費までカバーしてくれるかと言えば「無い」と考えるのが妥当かと思います。

最後にもう一つ、前々回改定で登場し前回改定で消滅した小児の時間外加算特例ですが、これにより小児科の時間外救急が緩和されたとは寡聞にして知りません。前回改定で消滅した理由として

    制度は定着した
笑ってはいけませんが、小児科開業医の夜間診療は「定着」して制度が消滅するほどの効果を上げたというのに、小児夜間救急負担軽減への効果はゼロに等しいと考えています。結局のところこの制度はどう考えても医療費削減の便法に過ぎないとしか考えられません。