今朝1時間ほどあげていたエントリーは、私の理解が足りないところがあり、申し訳ありませんが、削除させて頂きました。コメントを頂いた方、また読まれた方には深くお詫び申し上げます。
そういう訳でリニューアルしてお届けします。
第15回医療経済実態調査の報告が公表されています。速報となっていますが、なにぶん大部なもののため、介護保険事業に係る収入のない医療機関の集計(A集計)の一般診療所を見てみます。なぜここを読むかなんですが、自分のところに関連するからです。
80ページ以上に及ぶひたすら統計表の羅列なんですが、まず調査サンプル数を見れば、
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無床診療所871、有床診療所189、合計1060
ここでこの調査でしばしば引き合いに出される収支差を見たいと思います。今回は法人の個人給与も出ていたそうですが、ここでは収支差に注目したいと思います。収支差とはなんぞやになりますが、小児科を例に挙げて項目を列挙してみます。
医業収入 | 金額 | 医業費用 | 金額 |
1.入院収入 (1)保健医療収入 (2)公害等診療収入 (3)その他の診療収入 2.外来収入 (1)保健医療収入 (2)公害等診療収入 (3)その他の診療収入 3.その他の医業収入 |
- - - - 6834808 6329709 17927 487171 244020 |
1.給与費 ・青色専従者給与費 2.医薬品費 3.材料費 ・給食用材料費 4.委託費 ・検査委託費 ・患者用給食委託費 ・医療用廃棄物委託費 ・医療事務委託費 ・その他の委託費 5.減価償却費 ・建物減価償却費 ・医療機器減価償却費 ・その他の減価償却費 6その他医業費用 ・土地賃借料 ・建物賃借料 ・医療機器賃借料 ・その他の費用 |
2706775 189964 1082916 48906 - 208620 127766 - 8404 64666 7785 232413 108774 59426 64213 804605 52320 221804 52211 478270 |
合計 | 7078857 | 合計 | 5084236 |
医業収入−医業費用=収支差となり、小児科では1994621円になります。ただしこの費用の中には設備や機器の更新費用、福利厚生費、開業資金の返却費用は含まれていません。ですから
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収支差≠収益
小児科の平均収支差が1994621円ですが、全体の平均収支差は1987477円になります。200万円弱ですから「収支差≠収益」であってもかなりの収入と感じられる方も多いかと思います。ところがこの数字も実際に診療所経営をしているものには実感し難い数字です。うちが儲かってないからと言われればそれまでですが、収支差の分布図を示します。
- 赤字診療所が136件、約13%ある。
- 平均収支差の1/4である50万円以下の診療所が283件、約27%ある。
- 平均収支差の半分のである100万円以下の診療所が454件、約43%ある。
- 平均収支差の200万円以下の診療所が658件、約65%ある。
これだけ分布に偏りがあれば、多数派の診療所は「そんなに儲かっていない」と感じても仕方ないと考えます。ましてや平均額を取り上げて「もっと減らす」と言われても、「堪忍してくれ」と悲鳴をあげることになります。なんと言っても収支差が100万円以下の診療所が4割以上、50万円以下の診療所が1/4もあるのですから、診療所の診療報酬削減は掛け値無しの死活問題になります。
たしかに月額の収支差を1000万円以上も叩き出している怪物診療所が20件もありますが、一方で赤字〜50万円以下の診療所は約27%、1/4もあります。またこれは推測になりますが、巨額の収支差を叩き出している診療所は保険診療収入以外の自費診療部分が大きいと考えます。保険診療だけでここまで巨額の収支差を叩き出すのは不可能だからです。
そうなると診療所の診療報酬削減は、保険診療に頼って経営している診療所を直撃し、経営を死活問題にさせますが、現在でも巨額の収支差を出しているところは影響が殆んどない事になります。絶対に間違った方針であると断言します。
実態調査では平均でない手法で収支差を分析している統計もあります。中央値で持って解析しているものです。これでの平均収支差は1321060円となり、この金額なら多くの開業医は実感を持って見ることができます。概算ですが、これなら収益(給与)が100万円余りになり、「そんなものだろう」と言う事は可能です。
統計はいろんな解析が可能で「どんなデータ」でも引き出せると言いますが、私が見る限り、診療所経営は苦しく、バッサリ診療報酬を削減できる余地などあるように思えません。
追加で前回の第14回医療経済実態調査で作ったときの収支差の分布図も出しておきます。