公立病院改革(??)ガイドライン

10/26付Asahi.comより、

病床利用率、70%下回れば削減も 公立病院改革
2007年10月26日06時00分

 赤字経営の多い公立病院の経営改善を促すため、総務省自治体に求める改革のガイドライン(指針)案がわかった。08年度中に改革プランを策定し、3年以内に黒字化を達成するよう求め、特に病床利用率が過去3年間連続で70%未満の病院には病床数削減や診療所(病床数20床未満)への転換など抜本的見直しを求める。病院経営に具体的な数値目標を示し、自治体財政の悪化に歯止めをかけるのが狙いだ。過疎地医療を担う地方の公立病院も病床利用率が低迷していれば、早期の経営改善を迫られる。

 7月に総務省が発足させた有識者による公立病院改革懇談会が来週中にもこの指針案を了承した後、同省が全国の自治体に通知する。

 指針案では、自治体は08年度中に公立病院改革プランを策定し、経営効率化は3年以内、病院の再編・ネットワーク化や経営形態の見直しは5年以内に実現するよう求める。経営効率化の指標には、経常収支比率▽医療サービスの提供による医業収支比率▽職員給与費や材料費の比率▽病床利用率、などを採用する。

 経営効率化では、一般会計からの繰り入れにより病院会計に財政支援をした後、経常黒字を達成できる水準をめどとするよう求める。同一地域に民間病院がある場合は、民間病院並みの効率性を達成する、としている。

 赤字経営でも特に厳しいケースとして「おおむね過去3年間連続して病床利用率が70%未満となった病院」を挙げ、自治体の改革プランで病床数削減や診療所化など抜本的な見直しを行うよう求めた。

 このほかに経営の透明度を高めるため、病院の財政状況を示す病院会計準則に従い、貸借対照表など民間と比較可能な財務情報を開示するよう要請。人事・予算の権限などを経営責任者に一本化し、経営感覚に富んだ人材の登用や施設整備費の抑制も求めている。

 病院の再編・ネットワーク化については、経営主体の統合をはかるべきだと指摘。経営形態の見直しでは、民間への譲渡や、民間企業に管理を委託する指定管理者制度の導入、地方独立行政法人化などを選択肢とすべきだとしている。

原案が今朝の時点で見つからないので、この記事より読み取ってみます。話は公立病院の経営改善ガイドラインの案ができたというもののようです。目的は冒頭部分にありますが、

    3年以内に黒字化を達成するよう求める
公立病院といえども赤字垂れ流しでは困るという趣旨は理解できます。ただ公立病院の赤字の原因は構造的な部分が多いことは医療関係者ならよく知られている事ですが、それを含めての改革案なら積極的に取り組む必要があると考えます。記事だけなので抜けている部分も多いと思いますが、具体策として、
    一般会計からの繰り入れにより病院会計に財政支援をした後、経常黒字を達成
ここがかなり笑えます。総務省は公立病院の経営は財政支援無しでは成立しないと認めています。案として現実的なのは理解しますが、公立病院は普通に経営すれば赤字である事を満天下に公認している事になります。本当は財政支援無しでも黒字になるような診療報酬体系が必要なはずなのに、それについては放置という事のようです。

次がネットで話題になりつつある、

    「おおむね過去3年間連続して病床利用率が70%未満となった病院」を挙げ、自治体の改革プランで病床数削減や診療所化など抜本的な見直しを行うよう求める
話としてはわかります。総務省としては利用が少ない病院の縮小を求めているという事です。総務省の思考としては、たとえば100床の病院の病床利用率が60%なら、病床を60床にすれば経営効率が上がるはずだと考えます。病床数だけ見た机上の計算なら正しそうに見えますし、病床数だけでなく病棟看護師の数もそうかもしれません。

ただし医師の数も減ることをどれだけ考慮しているかが疑問です。医師の数もまた病床数に応じて減少します。病院は複数の診療科の協力の下に成立しており、医師の数が減れば消滅する診療科も出てきます。もともとの病床数が少ないところほど、診療科の医師数は少なく、削減は消滅に直結します。また医師数も3人と2人と1人では大きな違いが生じます。1人では外来を維持するだけで手一杯になり、2人ではギリギリ病棟を抱えられる人数であり、3人になるとそれなりに病棟運営が出来ます。

もう一つ、病院の医師総数が減少することにより直面する問題として、時間外救急があります。多くの公立病院では小さくとも、地域の基幹病院として救急拠点の砦を死守しています。救急業務の負担の大きさの正論を展開すれば長くなるので今日は避けますが、縮小化により医師数が減れば、医師の負担は増大します。病床数が削減し、医師の数が減っても、救急がカバーする時間が減る訳ではありません。

    病院の再編・ネットワーク化については、経営主体の統合をはかるべきだと指摘
簡単に書いていますが、経営主体の統合なんてそう簡単にはできません。経営主体の統合として念頭においているのは、自治体病院の統合です。○○市民病院と△△市民病院を一つにまとめるようなお話です。財政難の自治体の本音としては歓迎かもしれませんが、地方政治はそう簡単には事は進みません。

二つの市民病院の再編となれば、どちらかが存続病院となり、もう一方がサテライトの診療所になります。存続病院になる地域は歓迎でしょうが、縮小対象の地域では当然のように大反対運動が起こります。大反対運動は「○○市民病院を守る会」に発展し、その会の支援を受けた市長、議員が政権を握ります。再編推進の市長がいても、任期をまっとう出来るどうかは大きな疑問符がつけられます。それぐらいデリケートで尖鋭化しやすい問題であるのに「指摘」とは気楽なもんだと考えます。

地方公立病院の経営は総務省も公認しているように「一般会計からの繰り入れにより病院会計に財政支援」無しでは成立しません。繰り入れがなければその分は赤字というわけです。民間譲渡により批判の強い事務職員の給与体系にメスが入るでしょうが、それだけですべてが穴埋めされるとは思えません。また民間譲渡の時の条件も目に浮かぶようで、当然のように既存職員の待遇確保が条件になります。

そんな不良債権が山積している物件を買い漁るほど余裕のある民間病院はありませんし、民間企業も収益が望めない事業に手を出したがりません。どう試算しても投資価値のある事業に見えないからです。民間に売却したいのなら、民間が購入したい物件に医療機関が変わらないと売れません。長年の医療費削減により不採算部門の塊になり、構造赤字で悶え苦しむ状態の公立病院がそうそう売れるとは信じられません。売れるのはごく一握りの条件の良い病院のみです。

また民間譲渡は赤字→倒産→病院消滅にすぐに連動します。民間企業は黒字化の目途が出なければすぐさま整理にかかります。地域医療の維持なんてお題目は彼らの念頭にありません。病院経営より、潰してショッピングセンターにした方が良いと判断されればそうしますし、マンションの方が儲かりそうとなればそうします。駐車場の方がマシとなればそうします。何もしないほうがマシなら更地にしてしまいます。

医療費長期大幅削減路線下の医療機関に精神論の「黒字化」を唱える愚かしさを笑います。