昨日のエントリーは長すぎたのと、皆様の興味が薄いためか反響は乏しかったですが、私としてはやはりおかしいと思うので延長戦をします。
まず自己負担金の解釈です。皆保険制度下では全額保険給付であるはずです。自己負担金も保険給付に含まれるはずだと私は思います。そのため医療機関は自己負担分の徴収を義務づけられています。これを怠れば最悪保険医療機関の指定取り消し処分もあります。つまり何があっても徴収するものとして位置付けられています。
ところが厚生労働省の見解では、
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一部負担金も窓口で払うという関係は、あくまでも療養取扱機関の開設者と被保険者との債権債務関係である
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「一部負担金の支払いを受けるべきものとし」というふうに書いてあって、受領義務は法律上明定されているということでございます。
たとえばレストランで食事を行い、支払いの段になり、「払わん」と断言すれば無銭飲食で逮捕されます。そんな事は子供でも知っています。しかし医療ではそういう風にならないのです。昨日も厚生労働省の解釈を読みながら思ったのですが、医療はレストランと全く違う支払い関係を定義づけているようです。
私の解釈にも誤解があるかもしれませんが、医療においての一部負担金は無利子の借金が生じたような関係を想定しているようです。つまり診療において発生した一部負担金は患者に無利子で貸し付けられたものであるから、医療機関は患者に返済を懇願しなければならないと考えられます。借金という解釈なので債務債権関係という表現が出現していると感じます。
借金であるから、一部負担金の受領に関しては、善良なる管理者の義務の遂行が課せられています。この善良なる管理者の義務を果たせば、自治体が強制徴収を行なうと規定になっています。これも良く考えれば、保険組合は一部負担金に対し基本的にノータッチであることがわかります。強制徴収を行なうのは自治体であり、自治体が強制徴収できなくともなんの補償も行なわれないのです。つまり前提である医療機関と患者の債務債権関係であるからです。
一部負担金が借金の取立てと定義づけられているがゆえに、善良なる管理者の義務はビックリするほど重いものになっています。
- 単に払うことを告げるだけではダメ
- 口頭で催促するだけではダメ
- 再診のときに催促しただけではダメ
詐欺罪(さぎざい)とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得る(例えば無賃宿泊をする、無賃乗車するなど、本来有償で受ける待遇やサービスを不法に受けること)こと、または他人にこれを得させることにより成立する犯罪のこと。
さらに通常の詐欺罪の成立をWikipediaのケース考察から引用します。
- 最初から無銭飲食する意思を持って店に入り、飲食し、「財布を忘れてしまった、取ってくる」等と弁解し、店員がこれを承諾したので店を離れる
→詐欺罪成立(無銭飲食の意思を持ち、店員に注文(欺罔行為)をしかけ、店員が錯誤し、飲食物を提供している)
- 最初は正規に飲食するつもりで店に入り、飲食していたが、食後に財布を忘れたことに気付き、食い逃げを思い立って「財布を取ってくる」と店員に嘘をいい、そのまま逃げてしまう
→詐欺罪成立(食後に無銭飲食をする意思を発生させ、店員に「財布を取ってくる」欺罔をしかけ、店員が錯誤して承諾し、店を離れ、よってただで飲食を行うという財産上不法の利益を得た)
- 最初は正規に飲食するつもりで店に入り、飲食していたが、食後に財布を忘れたことに気付き、食い逃げを思い立って、店員の隙をついて店を出て逃走した
→詐欺不成立(食後に無銭飲食をする意思を発生させているが、店に欺罔行為を行っていないため詐欺罪が成立しない。窃盗罪にも該当しないため、刑法で問うことは出来ない。但し民法上の責務を負う)
診察を受けて、一部負担金の請求をされ、なんらかの理由を設けて支払いを拒否すれば、当たり前の感覚では詐欺罪は成立します。ところが一部負担金についてはそうではなく、貸した金の取り立て者としての善良なる管理者の義務になり、「払ってくれと」と口頭で告げても義務を果たしていないと転じる解釈になります。
つまり一部負担金は診療機関が口を酸っぱくして「払ってくれ」と請求しても、努力不足、義務を果たしていないとして支払いを拒否することが患者に可能となっているのです。保険法で定められている自治体による強制徴収権の発動を頼もうにも、義務を果たしていないから拒否される寸法です。
そうなれば医療機関が踏み倒し金を回収しようとすれば方法は2つになります。
- 善良なる管理者の義務を果たし強制徴収権の発動を申請する
- 民事上の債権になるので、然るべき法的手続きで支払いを命じさせる
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内容証明付郵便により支払い請求を行った等の客観的事実に基づいて行う
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債権者として取ってくるということではなくて、強制徴収権を持っている者として取ってくる
では民事上の債権として然るべき法的手続きを行なえばどうなるかですが、これも費用の問題がついて回ります。弁護士なり司法書士を雇えばお金がかかり、さらに法的手続きも無料では行なってくれません。それらの費用を上回る額でなくては回収は割に合わないものとなります。
私はどう考えても一部負担金の位置づけがおかしいと思います。一部負担金が医療機関と患者の間でのみの借金関係と位置付けられているがために、不払いはすべて民事になっています。つまり私的な借金関係で、踏み倒されても回収できなかったものが悪いという関係です。
それでも今まではさして支障なく運用されていました。医療を受ければ常識として「診察料を払う」良識が確立していたためです。また医療機関も経営に余力があれば、踏み倒されても損金処理で鷹揚に構えられたところがあり、発生数、発生額も例外的なものとみなせたからです。
ところが医療費削減で経営が逼迫すればそうが言っておられません。損金処理も黒字であればこそ通用しますが、赤字経営となればもろに経営を直撃します。また例外的少数であれば、目を瞑る事も可能かもしれませんが、02-04年度で6割強の病院の集計で約853億円、残りの病院も集計すれば1000億円を超えるのは確実です。さらに踏み倒し額は年々急増傾向にあり、年間500億円に達している推測もあります。500億円は半端な額ではありません。医療関係者が医療崩壊への大愚策と呼んでいる、5年間で1.1兆円、年間で2200億円の医療費削減額と比べても大きさがわかります。
最後に四病院団体協議会の治療費未払問題検討委員会の前文の一部を引用します。
一定の善管義務を果たした後は、保険医療機関から保険者へ未収金の請求が行なわれるべきであり、これまでその請求を怠ってきたのは医療機関ではないだろうか。まずは保険者に請求を起こし、請求に応じない場合は、その是非について法的な解決を目指すべきではないかと考えるのである。
厚生労働省の踏み倒し金の解釈も踏まえて言うと
- 善管義務を窓口、口頭で伝えるレベルまで引き下げる事
- 保険者は未払い金を医療機関に立替払いを行い、保険者が患者から強制徴収すること