7対1看護体制へのドタバタ建議書

第27回社会保障審議会医療保険部会の配布資料中央社会保険審議会からの7対1看護への「建議書」が含まれています。読みながら、脱力と言うか、朝令暮改体質の面目躍如と言うか、無責任体質の権化のように思えてしまいます。ちょっと御紹介したいと思います。ちなみに建議書はH.19.1.31付で出されています。

全文を逐次引用して行きたいと思います。

当協議会においては、昨年4月の平成18年度診療報酬改定実施以後、看護の問題に対して、経過措置のあり方などを慎重に検討してきた。

当然の事ながら平成18年度診療報酬改定前も慎重に十分検討しているはずです。

特に同改定において導入した「7:1入院基本料」については、急性期入院医療の実態に即した看護配置を適切に評価する目的で導入したものであるが、

7:1入院基本料ですが、従来は10:1が料金設定の上限だったのですが、平成18年度改定で新設されたものです。理解としては入院時に看護師一人当たりの患者数と考えれば良く、10:1より7:1の方が看護師が多く必要となります。その結果の料金体系ですが、


7対1入院基本料 1555点
10対1入院基本料 1269点
13対1入院基本料 1092点
15対1入院基本料 954点


病院経営のことは良く分からないのですが、看護師を増員しても10:1から7:1看護にした方がメリットがあるそうです。もちろんこの診療報酬制度が出来るまで、7:1看護などやっていた病院はまず無かったと言っても良いと考えます。あったとしてもウルトラ例外であると考えられます。経営はどこも苦しいので、メリットがあると判断すれば、日本中の病院が争って7:1看護を目指す事になったのですが、

制度導入後、短期間に数多くの届出が行なわれるとともに、一部の大病院が平成19年度新卒者を大量に採用しようとしたことにより、地域医療に深刻な影響を与える懸念が示されてきた。

これだけよく他人事のように書ける神経に感嘆します。10:1から7:1看護にするのには単純計算ですが、3割程度の増員が必要です。看護師も今の日本に溢れているわけではなく、正直なところ不足気味です。医師なんかと比べ物にならないぐらい結婚や育児の影響による離職率は高く、完全な売り手市場になっています。そういう状況で看護師を3割を増やそうと思えば、新卒看護師の確保に走るのは当たり前ですし、競争になれば大病院、とくに都市部の大病院が有利なのは誰でも分かる事です。

さらに新卒を引っ張り込んでも足りないものは他の病院からの引抜きが必要です。これも綱引きになれば、地方と都市では力量の差は明らかです。地方にすれば結婚育児などで一定頻度で看護師は減る、その上で新卒獲得競争では歯が立たない、さらに現存の看護師まで引き抜かれるの三重苦が負わされることになります。当然のように、

    地域医療に深刻な影響を与える
つうか、こうなる事を社会保険協議会は、2年もかけて「慎重」に審議して予想もしていなかった事に驚かされます。7:1看護制度を作ったらどれほどの医療機関がこれを申請し、そのために何人の看護師が必要で、その看護師の確保の方策についてどれほど「慎重」に検討していたか知りたいものです。

看護師の需要に関しては詳しいデータがありませんので断言できませんが、どこの医療機関も看護師確保に四苦八苦しています。現在の看護師数は10:1時代でも売り手市場にあったのに、7:1で新たな需要を創設すればどうなるかぐらいの予測をしていなかったのであるなら、思いつきで制度を作ったの批判さえ出る余地が生じます。

医療はすべて一定の年限で資格を取得した人間で行なわれます。看護師需要を人為的に増加せせるのであれば、需要増加分だけこれを補う政策がセットで必要です。社会保険審議会は「7:1」の呪文を唱えれば「どこから」か看護師が無尽蔵に湧いて来ると考えていたとしか思えません。

このような状況を踏まえ、当協議会においては、昨年11月29日の第95回総会以降、この問題について取り上げ、実情の把握に努めるとともに、対応について審議を重ねてきたところである。

社会保険審議会が2年もかけて「慎重」に検討して実施したにも関わらず、思いもかけない事態が発生したので、もう一度「慎重」に再検討すると書かれています。実施してたった半年あまりで再検討とはお粗末な事ですし、医療以外なら責任問題になるところですが、厚生労働省はお気楽なところで、「驚いたから再検討」でオシマイのようです。

その結果、今春に向けて国立大学病院を中心として積極的な採用活動が行なわれている事が明らかとなった。しかし、一方で、今回の診療報酬改訂の趣旨に必ずしも合致しているか疑問なしとしない病院においても7対1入院基本料の届出が行なわれているとの指摘がなされているところである。

「診療報酬改訂の趣旨」がどんなものかがわかりませんが、届出には当然ながら一定の条件が課せられているはずです。条件をクリアしたから届出したわけですし、条件が合致しているから承認したはずです。趣旨を具体的な形にしたのが届出条件であり、それを満たしているのに後だしジャンケンのように

    趣旨に必ずしも合致しているか疑問なしとしない病院
病院が悪いとしてノホホンとしているようですが、これはもっと単純に制度設計が悪いだけの事です。

看護職員という貴重な医療資源が限られていることを考慮すると、このような状況に対して、当協議会として深い憂慮を示さざるを得ない。

アホンダラと言いたい。限られた看護職員という貴重な医療資源に対して、考え無しに杜撰な制度設計で新たな大量需要を机上で作り出し、足らなくなったとことを他人事のように「深い憂慮」とは無責任極まる態度かと感じます。あんたが自分で作り出して、混乱させた元凶だろうということです。

これを踏まえ、7対1入院基本料の取り扱いについて今般結論を得るに至ったので、社会保険医療協議会法(昭和25年法律第47号)第2条1項の規定に基づき、下記の通り建議する。

なお、各保険医療機関におかれては、看護職員の募集・採用に当って、地域医療の実情に配慮し、節度を持って行なわれるよう、強く期待したい。

社会保険医療協議会法(昭和25年法律第47号)第2条1項の規定がどんなものかと言うと、社会保険協議会は自ら厚生労働大臣に建議しても良いという規定のようです。以下に建議の主文を示します。

  1. 看護職員の配置数等を満たした病院について届出を認めるという現行の7対1入院基本料の基準を見直し、急性期等手厚い看護が必要な入院患者が多い病院等に限って届出が可能なようなものにすること。
  2. 手厚い看護を必要とする患者の判定方法等に関する基準の在り方について、必要な研究に早急に着手し、その結果を踏まえて、平成20年の診療報酬改定において対応すること。
  3. 看護職員確保に関する各般の施策について、積極的に取り組むこと。

これだけの大混乱を引き起こした7:1看護ですが、建議書では一貫して病院が悪いと批判して終わりです。言っておきますが、病院は規定に従って看護師を確保し、7:1看護の届出を行なっただけです。誰が考えても混乱の張本人は制度を設計し施行した連中です。それに対して一言も反省の言葉さえありません。この程度の責任感と慎重さで日本の医療を設計している一つの証左かと考えます。

何ゆえ、医療ではこんなエエ加減な政策が横行し、何の責任も取らずに、責任者が平然と大きな顔をしてられるか摩訶不思議です。

    地域医療の実情に配慮し、節度を持って行なわれるよう、強く期待したい。
そこまで言うなら私も言いたい、
    地域医療の実情に配慮し、節度を持って行なわれるよう、社会保障審議会、厚生労働省に強く期待したい。
この言葉がブラックジョークにしかならないのが無茶苦茶悲しい。審議ゴッコだけならサルでも出来る。