昨日のローカルな話題の再検証編です。
再編案が出されたときの但馬の病院の状態です。のぢぎく県但馬地方の医療は、市町村出資の組合立(公立)の9つの病院で支えられており、この地域に県立病院や赤十字病院は無く、目ぼしい民間病院も無いところです。但馬は兵庫県の北部地域に当り、兵庫県の総面積の約1/4を占める代わりに、人口は20万程度で、険しい山岳地帯が大半を占める典型的な僻地です。ここでも御他聞に漏れず、医師不足が深刻化します。
公立豊岡病院組合広報紙「ほすぴたる」2006.11にその時点の但馬公立病院の医師数が記されています。
病院名 | 2004.4 | 2006.4 |
豊岡 | 76 | 81 |
日高 | 14 | 9 |
出石 | 6 | 4 |
梁瀬 | 6 | 5 |
和田山 | 10 | 6 |
八鹿 | 49 | 45 |
村岡 | 4 | 4 |
香住 | 10 | 4 |
浜坂 | 10 | 5 |
合計 | 185 | 163 |
なおかつ豊岡病院の2006.4時点の不足医師数として、
麻酔科 | 5人→2人 |
消化器科 | 5人→3人 |
小児科 | 7人→5人 |
神経内科 | 2人→1人 |
まだ8人不足していると読めます。そうなると豊岡病院の充足数としては、2006.4時点の81人に8人を加え89人が必要と考えられます。そこで再編案が練られることになり、但馬の医療確保対策協議会報告書としてまとめられ、実行に移されることになります。再編案の骨子がまとめられています。
- 但馬地域の医療提供体制は医師不足などにより危機的状況にあり、地域医療機能確保のために、引き続き医師の確保に努める一方、急性・慢性期の医療機能を分担するとともに、地域の状況に応じた思い切った集約化・重点化を図り、連携して医療を守ることが不可欠である。
- 医師会、看護協会、医育機関等の関係者の理解と協力のもと、総合的な医療の提供体制を確立するとともに、医療機能の集約化・重点化と連携によって、但馬の医療が確保できることについて、住民や医師、看護師など医療従事者の理解を得ることが必要であり、行政は住民等への説明責任を果たす。
- 集約化・重点化と連携を支援する搬送システムや医療資源確保のための地域の一体的取組が重要である。
- 本日集まった関係者のこうした共通認識のもとに、本協議会の結論に従って、迅速に実行に移すこととする。
幾つか書いてありますがテーマは、
-
思い切った集約化・重点化
要点をまとめると
- 豊岡、八鹿を基幹病院として戦力を注入する
- 香住、浜坂を100床から50床に縮小する
- 出石、梁瀬、村岡は常勤医を3人に減らす
現状が厳しい事は理解していますので、笑ったらいけないのですが、「思い切った集約化・重点化」がテーマの割には再編案の規模が小さい事に驚かされます。重点化といいながら、出来た事は医師数減少に応じた病院機能縮小だけです。集約化もマスコミ情報のイメージなら10人以上の大規模なものを思い描いていましたが、計画で4人です。これは「しなかった」というより「なにもできなかった」の状態かと考えます。
さらにその再編計画のために、豊岡病院に3人の医師を集約する事は出来ましたが、一方で但馬全体から2人の医師が流出しています。但馬には現状では新たな医師が流入する可能性は極めて乏しく、2人とは言え大きな損失です。豊岡への集約の必要性、豊岡への医師の補充は切実な問題ですが、払った犠牲も相当なものだと考えられます。
この「ほすぴたる」なんですが、どうも不定期発行の傾向があるようで、2006.11号が出て、2006.12に臨時号が出た後、その次は2007.5号になっています。5ヶ月も間が空いているので正確さが欠けるかもしれませんが、2007.5〜2007.8の3回の人事異動の経過を追いたいと思います。
今年の5月から8月の3ヶ月間の新任は22人、退任も22人です。豊岡病院には新任が20人、組合内の異動が1人の計21人が動員されています。一方で退任は17人となっており、差し引きで4人増えています。豊岡病院以外では新任が2人ですが、退任が5人、さらに組合内異動で1人減っていますから、差し引きでマイナス4人です。とくに和田山病院は2006.11時点で6人だったはずですが、新任1人に対して、退任3人、異動1人でマイナス3人となり、ここも常勤3人体制になった可能性があります。
再編計画で出石、梁瀬、村岡の3人体制が行なわれましたが、和田山もこの人事を見る限り3人体制になったと考えられます。そうなると残りで3人体制に出来そうなところは、香住、浜坂で、ここから後3人は動員可能です。それ以外は日高の9人と、八鹿の45人ですが、八鹿は基幹病院ですから引き抜けないですから、次なる再編は日高削減ぐらいしかなくなります。本当にどん詰まりの状態としか言い様がありません。
ローカルな話題と感じておられる方も多いとは思いますが、このような僻地病院再編の構図は全国いたるところに存在します。また但馬は条件的に集約再編はやりやすいところです。理由は地域の病院の経営母体が同じだからです。但馬も自治体ごとの町立病院や市民病院であったら、この程度の再編を行なうのがどれほど大変かは言うまでもありません。いわゆる自治体エゴが確実にでますし、住民運動も必発です。どこの住民であっても集約されて縮小、消失する側には立ちたくないですからね。
非常に集約再編しやすい但馬であったからこそ、ここまでドラステックな事が出来ていますが、そこまでしても医師不足の壁は途轍もなく分厚いと言えます。各地で自治体病院同士の集約再編案が検討されているようですが、根本課題の医師不足の解消、医療費改善により病院経営が上向かない限り、合従連衡の末にどん詰まりにぶち当たるように思います。