誤嚥譚

今日は日常医療のお話です。たまには書いておかないと、医師かどうか疑われたら困るので日常医療のお話です。ネタ元はよっしぃの独り言先生のエントリーを読ませていただいて、コメントするよりエントリーにした方がおもしろそうだったので、立ててみます。

よっしい先生の体験談はポリデント誤嚥です。診療経過についてはリンク先を読まれることをお勧めしますが、胃洗浄をしたら爽やかな香りが立ち上ったオチになっています。誤嚥に関しては小児科も宝庫のところがあり、私の知っている幾つかのエピソードを御紹介しておきます。

小児科でもっともポピュラーな誤嚥は「たばこ」、これは一定頻度で受診されます。これ自体は珍しくも何とも無いのですが、月3回の猛者がおられます。猛者ぶりは3回も起したのもそうですが、3回目の対応がなかなかでした。

    「先生、ようわかっとるさかい、注意はもうエエで!」
確かに同じ月に同じ相手にもう2回していますから、よく分かっておられるでしょうから不要でしょうし、こちらも手間が省けて助かるんですが、注意だけは守ってねと内心呟いていました。ちなみに翌月もう1回あって、その後はなくなりました。良かった、良かったにしておきましょう。

これもポピュラーなのは硬貨、タバコの次に多いでしょうか。やる事はX-pで確認して、出るのを待ってもらうだけなんですが、少しだけ変わったケースがありました。硬貨を飲み込んだ→X-pで確認まではいつも通りです。もちろん出てきたのですが、日を置いて2枚出てきたとの事で再診。「???」でしたが、もう一度X-pで確認すればもうありません。「後からもう一枚飲み込んだんですかね」と帰したのですが、よくよく最初のX-pを見直すと硬貨の陰影の縁がわずかに二重になっており、最初から2枚だったようです。しばらく外来スタッフの間でその子の事を「人間貯金箱」と密かに呼んでいました。

「何を飲まれましたか?」で一番印象深い返事は「星を飲み込みました」と言うのがあります。「星ですか?」と確認すると「星です!」という禅問答のような会話があり、サッパリ分からなかったのですが、よく聞きなおすとクリスマスツリーの星の事だったのです。放射線科の技師に相談すると、銀紙で包んであるはずだから写るだろうとの事でX-p。しっかり星が写っていました。

最後はこのブログでも紹介したことのあるエピソードです。

元々は肺炎入院の患児です。小さな子供の胸写は体格の関係で胸腹部撮影になってしまいます。外来から入院の連絡があり、病棟に出かけ、既往歴、現病歴のまずチェックです。検査も目を通して、X-pをシャーカステンに掲げてビックリ仰天しました。肺炎が超弩級であるのに驚いたのではなく、腹部に碁石が10個以上連なった様な陰影がクッキリ映し出されているのです。「聞いてないぞ」と思いながら、小児科カルテを読み直しても何も書いてありません。

ふと思いついて外科カルテを読んでみると、しっかり書いてありました。ピップエレキバンの大量誤嚥です。改めてX-pを引っ張り出してみてみると、何枚も数珠繋ぎのピップエレキバンを撮影したレントゲンがゾロゾロ。よく考えれば勤務していたのはコチコチの三次救急病院で、健康な子供の普通の肺炎の入院なんて滅多に無く、滅多に無いから私が主治医に指名されたのですが、元々はピップエレキバン大量誤嚥で外科follow中の子供だったのです。

肺炎自体はごく普通に治癒軽快したのですが、外科の外来担当医に聞くともう3ヶ月もfollow中との事でした。自然排出を待っているそうですが、なんと言っても強力な磁力で数珠状につながり、棒の様な状態なので腸内の進み方が悪く、まだ小腸内に留まっているとの事でした。小腸を進んで言っても回盲弁が関所になりそうで、それこそ「う〜ん」と唸っていました。

結果はさらに後日になるのですが、結局手術で摘除になっています。どこかの学会で発表し、ペーパーにもしたと聞いた様な気がしますから、さがせばどこかにあるかもしれません。ピップエレキバン恐るべしでした。