災害医療と防衛医官

自衛隊阪神大震災では行政上の不手際もあり出動が遅れましたが、出動後の献身的な活躍は神戸市民なら忘れません。その後の大災害では手続き関係が整理され、素早い出動と強力な組織力の下での迅速な救助により多くの人命が救われた事は周知の事です。今や大災害時に自衛隊出動は不可欠なものかと考えます。

自衛隊には陸海空の三軍があり、大災害時には機能に応じて災害救助に活躍してくれます。ところが自衛隊にはもう一つ強力なアイテムが残っているとの指摘を774氏様から頂きました。

防衛医官と言えば防衛医大です。防衛医大は1973年に設立され、去年の募集人員は約80人です。入学定員がずっと約80人だったかどうかはわかりませんが、2000人以上の防衛医官防衛医大から養成されているはずです。防衛医大の学生はこれも周知の通りで、
    学生の身分は、防衛省職員(特別職国家公務員)であり被服、食事等は、すべて貸与又は支給されます。在校中は、毎月所定の学生手当が支給されるほか年2回の期末手当が支給されます。入校の際の入学金及び授業料等は徴収しません。本人の医療費は、防衛省の病院等で受診した場合はすべて国が負担します。学生は、防衛省共済組合の組合員となり、その給付が受けられるほか、各種の福祉制度があります。
簡単に言えば授業料が無料の上、衣食住の保証と公務員としての給与まで支払われてます。ここまで予算をかけて防衛医官を養成する目的も明記されており、
    医師である幹部自衛官となるべき者を養成し、かつ、自衛隊医官に対して自衛隊の任務遂行に必要な医学についての高度の理論、応用についての知識と、これらに関する研究能力を修得させるほか、臨床についての教育訓練を行うことを目的として設立されたものであります。
たんなる医師ではなく「自衛隊の任務遂行に必要な医学についての高度の理論、応用についての知識と、これらに関する研究能力を修得」した医師を養成するためにこれだけの事が必要とされています。自衛隊を含めた軍隊は一朝有事の時のために無駄を覚悟で準備されるところですから、こういう部門が必要である事に理解はしておきたいと思います。

自衛隊の任務は自衛隊法第3条にある通り、

    自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
書いてあるままで、まさにそのために自衛隊は作られ存在しているのですが、では災害派遣は何に基づいて行われているかと言えば、どうやら第83条に基づくようです。

災害派遣
第83条 

都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる

  1. 防衛大臣又はその指定する者は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
  2. 庁舎、営舎その他の防衛省の施設又はこれらの近傍に火災その他の災害が発生した場合においては、部隊等の長は、部隊等を派遣することができる。
  3. 第1項の要請の手続は、政令で定める。
  4. 第1項から第3項までの規定は、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第2条第4項に規定する武力攻撃災害及び同法第183条において準用する同法第14条第1項に規定する緊急対処事態における災害については、適用しない。
地震防災派遣)
第83条の2 

防衛大臣は、大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)第11条第1項に規定する地震災害警戒本部長から同法第13条第2項の規定による要請があつた場合には、部隊等を支援のため派遣することができる。

原子力災害派遣
第83条の3 

防衛大臣は、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)第17条第1項に規定する原子力災害対策本部長から同法第20条第4項の規定による要請があつた場合には、部隊等を支援のため派遣することができる。

条文は読むと頭痛がしますし、これに関する関係法規も沢山あるんでしょうが、素直に読む限り「防衛医官は出動させてはならない」とは書いていないかと解釈できるかと思います。自衛隊の組織構成になるとは思うのですが、防衛医官とは言え第83条に書いてある自衛隊の「部隊」の一つと考えられそうだからです。

では自衛隊病院がどれだけあるかですが、

陸上幕僚長の指揮監督を受ける病院海上幕僚長の指揮監督を受ける病院航空幕僚長の指揮監督を受ける病院

全国で17病院、自衛隊らしく全国に点在して存在します。大災害時に自衛隊病院だけですべてカバーせよとは言う気は毛頭ありませんが、自衛隊病院「も」、もしくは、自衛隊病院「が」、災害医療のリーダーシップを取っても良いような気は私はします。言っては悪いですがイラクでは医療協力も行なっていたかと思います。イラクで医療協力できるのなら、お膝元の本国日本で災害医療でも協力ないし、お膝元ですから先頭に立って行なって悪い理屈は無いと考えます。

もっとも自衛隊病院の実情についてはまったく疎いのですが、自衛隊ルポ ホスピタリティの素顔というHPがあります。いろいろと自衛隊病院の素顔について書かれているのですが、その中に、

 札幌病院は、自衛隊員とその家族だけが利用できる職域病院だ。昨年の外来患者は1日平均で380人だった。陸上自衛隊下の病院は、カルテを25年保管するのが規則。ここに来れば、自分の病歴が全て分かるのだが、稚内から風邪や捻挫で通院するわけにもいかない。病床利用率は平均40%台を推移しているという。だったら、一般の人に開放すればいいのに。

    自衛隊病院は、有事に前線からの負傷者を治療するのが目的で、平時に満員にはできないのです。受け入れておきながら、緊急時に一般の患者さんを追い出すわけにもいかないでしょう」
 と説明する、病院長の演田寧陸将補。熊本勤務が長かったため、九州なまりで穏やかな語り口だ。演田陸将補は看護婦たちにいつも言っている。
     「現場に追われることが少ないから、積極的に勉強しなさい」
 昨年、非公務もあわせて85件の部外研修会に参加したという。

自衛隊病院が一朝有事に備えて余裕のある運用をしているのは理解します。しかし大災害時は有事に準じるものと考えての運用は出来ないのでしょうか。また勤務については

    「現場に追われることが少ないから、積極的に勉強しなさい」
かなり余裕があることを窺わせます。非公務を合わせたにしろ年間85件の部外研修会への参加が可能とは相当なものだと感じます。もっともこれは看護師の話で防衛医官はどうかはわかりませんが、防衛医官も民間病院よりは余裕がありそうな感触を抱かせます。

大災害時の負傷者の治療は戦場の負傷者とは異なる部分があるかもしれませんが、自衛隊病院の本質を考えると、有事になると病院だけに籠って負傷者の治療に当たるだけではなく、前線近くまで出動しての野戦病院の運用経験も必要かと思います。もちろんそういうトレーニングもしているはずですが、災害治療で混乱した現場に乗り込んでいくというのは、平和な日本で望みうる擬似トレーニングの場として有用とも考えられます。これは演習だけでは得られない貴重な体験になると考えます。

昨日のDMATの話で、Inoue様のコメントがあります。

あの〜DMAT要員は日ごろは何してるんでしょうか?消防署員や自衛隊みたいに、常時待機状態になってるわけじゃないですよね。日常の仕事がある。しかも、災害時にもっとも必要とされる外科医は全国的に不足する一方で、待機手術の患者を放り出していかなくちゃならない。

>翌日の手術日程の調節がつかずに待機解散したDMAT隊員です。

ということがほとんどの場合で発生するんですから、いくら組織だけ作っても、人員に余裕がなければどうしようもない。
平時の軍隊が、「無駄飯食らい」扱いされても、断固として予算を要求し、人員を維持するように、DMATも、かなり仕事に余裕をもって生活していないと、受け持ち患者に迷惑かけるだけのような。

コメントを頂いてなんとも答えようがなかったのですか、「人員に余裕がある」病院なんて医療危機に喘ぐ日本の病院にどれほどあるか心細い限りです。DMATが200チームあると言っても、数年後の大災害時には出動したくても出動できない状態に陥っているとの意見もネット上では散見されますし、実際そんな状態に急速に追い込まれつつあると考えます。これは、東京のDMAT指定病院についてBugsy様のコメントが象徴的です。

    具体的に教えていただいた病院がすべて医者が充足しているわけではありません、悲鳴が聞こえてくる病院も複数あります。今年になって分娩取りやめや、NICU閉鎖となっているのに DMATを結成するなんてコメントのしようがないです。チームを作って出動するという前に、災害時に罹災者が押し寄せたら・・・間違いなく悪夢の病院も散見しました
Inoue様からコメントを頂いた時には「人員に余裕がある」病院なんてないと考えていましたが、一つだけそうできそうな病院がありました。自衛隊病院です。性質として一般病院と違い有事に即応できるはずの病院であり、災害地への輸送手段も天下の自衛隊が強力にバックアップできます。考えようによってはこれほど大災害に相応しい医療チームは質、量とも他に日本に無いかとも考えられます。公立病院を含む民間病院が体力を削ぎ落とされ、緊急対応が難しくなっていますので、大いに検討しても良い事柄かと思うのですが、如何なものでしょうか。

もっとも防衛医官及び自衛隊病院の内情、実情については非常に疎いところが多々ありますので、併せて情報頂けると嬉しく思います。