日本脳炎「蚊に刺されるな」対策

いつも楽しく読ませていただいている勤務医 開業つれづれ日記様から見つけた記事です。元の引用は7/19付Ashai.comです。

日本脳炎予防、厚労省がポスター作戦 全国配布へ

 日本脳炎の定期予防接種が事実上中断されている問題で、厚生労働省は19日、免疫を持たない子どもがウイルスを媒介する蚊に刺されないよう呼びかけるポスターの電子データをメールで都道府県や日本医師会に配布し、医療機関などに掲示するよう通知する。新型ワクチンの開発が遅れているなかでの苦肉の策だが、蚊のシーズンが本格化する前に注意喚起が必要と判断した。

 日本脳炎はウイルスを持つブタの血を吸った蚊に刺されて感染し、西日本で患者が多い。このためポスターは「西日本地域(中国、四国、九州等)でブタの多い場所や、蚊が発生する水田、沼地の周辺では特に気をつけましょう」とし、長袖、長ズボンの着用▽防虫薬の使用▽人から人への感染はない、などと呼びかけている。

 同省は05年5月、重い副作用が出たとして定期予防接種の積極的な勧奨を控えるよう勧告した。その後、旧型ワクチンの接種者は激減して免疫を持たない幼児が増えているが、副作用が少ないとされる新型ワクチンによる定期接種の再開は09年以降になる見通しとなっている。

日本脳炎の予防接種が2005年に実質中止になり、日本脳炎の発生が関係者の間で危惧されてます。去年の9月に熊本で発症報告もあったようで、今夏の流行が心配されています。改良ワクチンの開発はある程度進んでいるようで、一部にもう出荷されているという話をメーカー筋から聞いたことがありますが、定期接種に必要な大量生産が今シーズンも間に合わず、見通しは

    定期接種の再開は09年以降
どうやら来シーズンにも間に合わないようです。日本脳炎が死亡率も高い上に高率に後遺症が残る怖い病気である説明は省略しますが、ワクチンを受けていない子供の数が増えれば発症の危険性が誰がどう見ても高まります。この記事はそれに対する対策を厚生労働省が示してくれたものです。日本脳炎はウイルスを持った豚の血液を吸った蚊が人間を刺せば発症します。厚生労働省の対策はこの感染経路に注目したようで、対策のキモは、
    蚊に刺されないよう呼びかける
となっています。感染経路の遮断と言う観点に立てば完璧な発想です。それが実行できるならワクチンすら不要と言えるほど机上では完璧な発想です。とは言え「蚊に刺されない」はそんな簡単なことではありません。そのためにまずスローガンがあるようです。
    西日本地域(中国、四国、九州等)でブタの多い場所や、蚊が発生する水田、沼地の周辺では特に気をつけましょう
凄い内容で要点は「気をつけましょう」のようです。「気をつけましょう」と言われても困るのですが、もう少しだけ具体策が書かれています。
  1. 長袖、長ズボンの着用
  2. 防虫薬の使用
  3. 人から人への感染はない
記事の引用だけでは「などと」があり、他にも詳細な対策が書いてありそうなので、厚生労働省日本脳炎ワクチン接種に係るQ&Aの「Q16 日本脳炎に罹らないためにはどのようなことに注意しなければいけませんか?」からも引用しておくと、

日本脳炎の感染源は日本脳炎ウイルスを媒介する蚊です。一般的な注意として戸外へ出かけるときには、念のためできる限り長袖、長ズボンを身につける、露出している皮膚への蚊除け剤の使用、網戸の使用など、ウイルスを持った蚊に刺されないよう十分な注意をすることをお勧めします。

蚊の発生を減らすためには、住居周辺の水溜まりを作らないことに心がけることが重要です。また、側溝等に落ち葉や土砂がたまり、流れが滞らないように定期的に清掃することも有効と考えられています。

記事以外にも挙げられている対策は、「網戸の使用」と「住居周辺の水溜まりを作らないこと」もある事がわかります。

長袖、長ズボンの着用はたしかに蚊に刺される面積は減りますが、それでも手と頭及び首周りに露出部が残ります。そうなると完璧を期すためには、手袋を履き、マフラーを巻き、目無し帽を被り、目にはスキー用のゴーグルでもかける必要があります。しかしそれでも口及び鼻周辺に皮膚露出部が残るため、そこにはマスクをする必要があります。真冬でもそんな格好で歩く人間はまず見かけませんし、体格の大きな子供がコンビニにでも行くと強盗に間違われそうです。しかしこれを真夏にしなければ完璧な予防になりません。

これでは余りにも辛いだろうと、次なる対策として防虫薬の使用を勧めているのかと考えます。手や首周りぐらいは防虫スプレーでカバーできると思いますが、顔はどうするのでしょうか。やはり目を瞑ってでも吹きかけないと仕方が無いと考えます。これも子供には(大人でも)辛い作業ですが、防虫スプレーは汗をかくと落ちてきます。そうなると日に何度も顔に吹きかける必要があります。かなり手間ひまがかかるのが予想されます。

正直なところ真夏に長袖、長ズボンも非現実的ですし、防虫スプレーの連日の頻用も問題は少なくないかと考えます。厚生労働省御推奨の方法を取る子供が日本に一体どれだけいるのでしょうか。ポスターを貼ったら子供がイソイソと長袖、長ズボンを着用し、防虫スプレーを吹きかけ回ると考えているのでしょうか。

それとこのポスター啓蒙作戦は、7/19付で通達されていますから、子供や親が目にするのは夏休みに入ってからでありそれも「医療機関などに掲示する」です。言っては悪いですが真面目に日本脳炎対策を考えているとは思えません。日本脳炎ワクチンが実質使用できない現状がある以上、感染経路を遮断する方法しかないのはギリギリ理解しますが、子供にそんな行為をこの程度の啓蒙で期待するのは完璧な机上の空案としか言い様がありません。

これは私案ですが、感染経路の遮断策をとるのなら、子供が蚊に刺されないではなく、ブタが蚊に刺されない方法を取った方がまだ現実的な気がします。ブタも頭数は多いでしょうが、牛なんかに較べるとはるかに行動範囲が狭いところで飼育されているかと思います。また野良豚はほとんどいないかと思いますので、養豚場だけを管理するだけで済みます。

つまり養豚場全体を網戸や蚊帳で囲み、中で蚊取り線香をがんがん焚く方が、まだしも現実味がある方法では無いかと考えます。養豚場の数や敷地面積を考えると無謀の意見もあるかもしれませんが、子供に長袖、長ズボン、防虫スプレーの頻用よりもはるかに出来る可能性のある方法です。言ったら悪いですが金さえ出せば可能ですし、予算総額も天文学的な物になるとは思えません。正確な数字はわかりませんが、日本脳炎の接種予算を養豚場の蚊帳の補助に使えば、達成可能なものではないかと考えます。

もっとも養豚場でも既に蚊帳や蚊取り線香対策はしている可能性もあります。それでも刺されるからと言うのなら、ブタに長袖、長ズボンをはかせて、防虫スプレーを日に何度か噴霧したらどうでしょうか。子供はそれで防げると厚生労働省は言っているのですから、やってくれそうにない子供よりブタにした方が実現性があるように思います。

でもブタも真夏に長袖、長ズボンは嫌がるでしょうね。