予防重視はメタボか

私は熱心じゃない医師会員ですが、医師会経由の情報はFaxで幾つか届きます。昨日届いたものから抜粋しながら引用します。

「内容は特定検診・特定保健指導の経過説明会の要約」と題されています。平成18年に成立した医療制度改革関連法案に基づくもののようで、前半1/3は趣旨説明のようですから箇条書きでまとめてみます。

  • 医療保険者は40から74歳までの被保険者・被扶養者に献身・保健指導をする事が義務付ける。
  • 厚生労働省メタボリックシンドロームの概念を導入し「予防」への理解の促進を図る国民運動を展開する。
  • この運動を医療費適正化計画(5年計画)における医療費抑制のための中長期計画の要とする。
  • 成果を基に平成25年度からの後期高齢者医療支援金の加算・減算をするとし、都道府県別の診療報酬の特例設定(1点を10円から9円にしても良いと言う事)を認める。成果の評価は具体的には、


    1. 特定検診の受診率
    2. 特定保健指導の実施率
    3. メタボリックシンドロームの該当者
    4. 予備軍の減少率
要するに
    メタボ対策を行なう。成果が上がらなければ後期高齢者医療支援金を減算し、診療報酬を一律1割カットにする
と言う事のようです。

おっとろしい代物ですね。厚生労働省が提唱するメタボ対策を熱心にやらなかったら、なんと診療報酬1割カットのご褒美が保険者(国民健康保険、政府. 管掌健康保険、健康保険組合、共済組合など)に与えられる法案のようです。このFaxには具体的な目標数値を書いてありませんでしたが、恣意的に高くして達成不可能な数字にしておけば、厚生労働省は大威張りで診療報酬の1割カットが行えるわけです。都道府県にしても医療費が減る方が望ましいわけですから、厚生労働省都道府県、医療保険者が「国民運動」に熱心になるとは思えません。

次は特定検診の具体的項目が書かれています。

  • 質問表(服薬歴、喫煙歴等)
  • 身体測定(身長、体重、BMI、腹囲)
  • 理学的検査(身体診察)
  • 血圧測定
  • 血液検査・脂質検査(中性脂肪HDLコレステロール、LDLコレステロール)・血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP
  • 検尿(尿糖、尿蛋白)
この検診を基に保健指導対象者を分類するようで、
  • 情報提供レベル(今のところリスクが無いので情報を提供するのみ)
  • 動機づけ支援レベル
  • 積極的支援レベル
こういう風に階層化して特定保健指導を行なうとの事です。「情報提供レベル」はおそらくメタボの冊子でも配って終わるようですが、「動機づけ支援レベル」、「積極的支援レベル」にはもう少し具体的な内容が書かれています。

・動機づけ支援レベル

となっており、さらに
  • 1人20分以上の個別支援または1グループ(8人以下)80分以上のグループ支援を行う
  • 6ヵ月後に個別支援、グループ支援、電話、e-mail等の方法で評価
だそうです。どう評価するまではFaxにはありません。

・積極的支援レベル

これはなんとポイント制で支援するもののようです。どこかの怪しいサイトの加入時の無料ポイントのように思えてまず笑ってしまいました。どうも介護保険式の細分化されたマニュアルみたいなものがあるようですが、書かれていたのは、

  • 積極支援A(積極的関与タイプ)では生活習慣を振り返り行動計画の実施状況の確認、栄養運動等の改善に必要な実践的指導を行なうと20ポイント
  • 支援B(励ましタイプ)では行動計画の実施状況の確認と行動を維持するための賞賛や励ましを行なうと10ポイント
  • 合計180ポイントまで行なう
ちなみに総務省統計局の人口推計月報を見ると40歳から74歳の人口は約5700万人であり、総人口のおよそ半分になります。特定検診項目からして内科医が主体となりそうですが、物理的にそんな事が出来るのかまず疑問となります。さらに特定検診を5700万人を行なってから特定保健指導に移る患者はどれほどなんでしょうか。もし1000万人となれば、これに個別指導20分なんてどこから時間が沸いてくるか素直に疑問です。

上にも書きましたが、メタボ改善に成功しなければ損をするのは医師と患者だけです。一方で厚生労働省都道府県、医療保険者は診療報酬を1割減らせます。厚生労働省に至ってはさらに後期高齢者医療支援金まで減らせます。患者にしてもメタボが改善しないのはデメリットですが、改善に努力しなければこれも支払いが1割減ります。

こんな素晴らしい支援環境の中で厚生労働省の提唱する「国民運動」がどれほどの熱意を持って行なわれ、どれほどの成果が上がるか非常に楽しみです。楽しみと言うか成果は今から見えていまして、診療報酬の1割減と後期高齢者医療支援金の減算が確実に保障されていると言えます。

それにしても診療報酬の1割減とは全診療科に適用されるんですかね。そうなればそうなったで医師の間で内紛が起こるでしょうから、厚生労働省としてはもっと美味しいとも言えますね。