物証発見

カルテネット流出告訴報道で大きな鍵になっている2006.10.31付読売大阪朝刊のカルテ画像が見つかりました。あれだけネット上で話題になっているので誰かがupしてくれないか探していましたが、ついに出て来ました。2006.10.31付読売新聞大阪朝刊情報カルテ画像にあります。考えてみれば絶対にあるはずの画像で、近畿圏の図書館に行けば半年前の新聞ですからあって当然のものです。

見てもらえればわかるのですが、医療関係者であれば一目で医師記録と判断できます。これを看護記録と主張されたら看護師の皆様から大顰蹙を買います。それほど明瞭に医師記録の特徴備えています。医療関係者には文句なしなのですが、特徴の説明をしておきます。

医師記録と看護記録の違いをまとめると、


医師記録
看護記録
字が汚く殴り書きで他人に読まれる事を考えていない たとえ字が汚くとも丁寧に他人が読めるように書いてある
内容が文章の体裁をなしていない表現はともかく文章になっている
罫線無視で余白がふんだんにある罫線を守り無駄な余白を残さないように書く

医師の中にも綺麗な字で見事な文章を綴りながらのカルテを書かれる方は稀におられますが、逆に看護師の中にこんな乱雑な書き方をする人は皆無に近いと考えてもらえれば良いと思います。それぐらい見事に医師カルテの特徴を備えています。私も他人の事は言えないですがね。

内容ですが医療関係者ならだいたい読めるかと思います。ただし医療関係者以外となると相当読みにくいと思いますから、わかるだけ解読します。ただ私にもどうしても読めないところが何ヶ所かありますのでご了解ください。カルテは8/8の0:00の失神のものと、1:37の痙攣時のものを切り出して上下に並べて撮影されています。なお「●」は私でも判読不明文字です。

まず0:00の時点の記録です。


8.8 0" AM headache (+) 発汗↑
BP 155/84 脱水●み
→生食水 500ml iv
nausea → vomitting (+) → プリンペラン 1A iv

0"14' 意識消失 (+)
●●. BP good SpO2 97%
   resp good
→内科Dr診察依頼 → 既往不明だがヒステリー発作etcも考
→ Vital●● 経過観察

次は1:37時点の記録です。

1"37'AM
BP↑ 強直性ケイレン? eclampsia?
→ MgSO4 iv
→ MgSO4 20ml/hr
奈良医大へtel (△△Drへ)
母体搬送依頼す
奈良医大満床にて他をさがす
この画像から分かる事はこれが医師記録部分である事とカルテの構成が時系列カルテではない事です。時系列カルテでない証拠に医師記録の右端部分に完全な余白があります。そうなればこのカルテは医師記録部分と看護記録部分が分かれて記載されていた事になります。つまり医師記録部分と看護記録部分は容易に分割して公開できると言う事です。また遺族関係者にベテランどころでない看護師がおられた事は既に周知の事実であり、看護記録と医師記録を取り違える可能性はありえない事です。

ここで2007.4.29付の読売新聞の記事を引用します。


転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、○○○○さん(当時32歳)が出産時に脳内出血を起こし、19病院に転院受け入れを断られた後、死亡した問題で、○○さんの診療経過など極めて詳細な個人情報がインターネット上に流出していることがわかった。

 情報は医師専用の掲示板に、関係者らしい人物が書き込んだとみられ、「転載して結構です」としていたため、同じ内容が、医師や弁護士など、かなりの数のブログに転載されている。

 遺族側の石川寛俊弁護士が28日、大阪市内で開かれた産科医療をめぐる市民団体のシンポジウムで明らかにした。石川弁護士は、個人情報保護条例に基づく対処を町に要請した。遺族は条例違反(秘密漏示)などでの刑事告訴も検討している。

 書き込みは、昨年10月に問題が報道された翌日から始まった。仮名で「ソース(情報源)が確実なきょう聞いた話」「この文章はカルテのコピーを見ながらまとめました」などとして、最終月経の日付から妊娠中の経過、8月7日に入院して意識不明になるまでの身体状況や検査値、会話など、カルテや看護記録とほぼ同じ内容を複数回に分けて克明に書き込んでいた。

 この中には、入院前の記録など、当時、遺族が入手していなかった内容や、医師の勤務状況など病院関係者しか知らない内容も含まれていた。

 石川弁護士は「主治医と家族のやりとりを近くで聞いていた人物としか思えない書き込みもある。許しがたい」と批判している。

 遺族は「あまりに個人的な内容で驚いた。患者の情報が断りもなく第三者に伝わるなら、診察室で何も言えない」と話している。

 大淀病院の横沢一二三事務局長は「○○さんが入院した日に病院にいた職員を対象に聞き取りをした。全員が『情報を漏らしたことはない』と答えたので調査を終えたが、遺族の弁護士には伝えていない。掲示板の運営事業者への照会などは思いつかなかった。再度検討する」と話している。

記事の内容については既に各所で議論が行なわれているのでここでは置いておくとして、一つだけ注目点を挙げたいと思います。
    カルテや看護記録とほぼ同じ内容
医療関係者の理解としてカルテには医師記録も看護記録も含まれるとするのが一般的ですが、読売の記事ではカルテと看護記録を切り離して記載しています。カルテを医師の記録したもの、看護記録はカルテとは別に作成されるものと受け取れる表現です。考えてみれば不思議な表現ですが、その原因は日刊スポーツの2007.4.30付の記事の一部にあります。

遺族側は「報道陣に公開したのは、出産のために入院した昨年8月7〜8日の『看護記録』だけ。カルテなど公開してない。さらされた情報には、遺族も知らない通院中のカルテの内容が含まれ、病院関係者しか知り得ない情報だ」としている。
日刊スポーツの記事によれば遺族は看護記録だけを報道陣に公開し、医師記録は公開していないとなっています。なんと言っても『』で看護記録を強調していますから記者会見でも遺族が強調された部分かと考えます。告訴まで検討している遺族の言葉は十分信用できます。またカルテのどの部分を報道陣に公開したかは遺族が一番良く承知しており、十分な時間をかけて弁護士と相談の上の記者会見まで行なっていますから、この言葉に嘘があるはずがありません。

ではその前提で流出ルートをもう一度考え直してみます。

  • 大淀病院ルート


      報道を受けての記者会見には弁護士も同席しており、カルテの管理は訴訟の可能性もあり厳重であったと考えるのが普通です。おそらく院長室なりの鍵のかかる場所に収納され、そう簡単には見ることも出来ない状態になっていると考えます。そういう状態では院内関係者といえども密かにコピーを取ることは不可能かと考えます。


  • マスコミルート


      遺族が告訴まで検討して記者会見を行い、『看護記録』だけしか報道陣に公表していないと断言しているのですから、報道各社といえども看護記録以外のカルテ情報はもっておらず、ここから流出しようがありません。


  • 遺族ルート


      マスコミルートと同様に『看護記録』以外は公表していないのですから流出する理由がありません。また流出に対し告訴まで検討しているので疑う理由はありません。


  • 奈良産婦人科医会ルート


      記事情報では担当の産科医にも意見を求めてのものだったそうですから、公表された看護記録以外に、看護記録に記された処置や判断の背景の情報は入手した可能性はあります。ただしこれも公表された看護記録に限定したものと考えるのが妥当で、奈良産婦人科医会ともあろうものが医療記録、個人情報の範囲を越えての情報収集を行なえたとは思えません。
これまで当ブログでも流出ルートの推測を何回か行ないましたが、あくまでも状況証拠として「医師記録を持っている可能性がある」としてのものでした。確実に看護記録以外の医師記録を持っていると特定されるところが無かったからです。ところが今回の情報により報道陣に公開されていないはずの医師記録が読売新聞に存在している事が明らかになりました。いわゆる動かぬ証拠です。

事実関係をまとめると、

  • 遺族は看護記録以外を公表していない。
  • ネットに流出したのは看護記録以外の医師記録部分が含まれる
そうなれば医師記録を持っている機関ないし人物が疑われる事になります。遺族が公表していない以上、医師記録は公正な手段で入手していない事は疑いようもありません。読売新聞はなんらかの不正な手段を用い医師記録を入手した事がこれで証明されました。そうなると読売新聞の罪は非常に重い事になります。

読売が行なった不正は、

  • 不正な手段を用いて医師記録を入手した。
  • 医師記録を家族提供と偽って報道した。
  • カルテ流出告訴記事で流出が問題になったのは遺族が公表した看護記録以外であることを伏せた。
もう一度日刊スポーツの2007.4.30付の記事を引用したいと思います。

「家族も知らない内容まで他人が勝手に見て話し合っている。そんなことが許されるのか。医師である前に人間としてどうか。世の中に問いたい」
現時点での最有力容疑者が読売新聞です。この事について読売新聞は公式に釈明する必要があると考えます。