昨日は丸写しに近い長大な引用をした第2回主要官製市場改革WG議事概要を読んでいただきました。引用だけだったのと、会議が行われたのが平成16年6月3日と古かったのか反応は今ひとつでしたが、個人的には興味深い内容だったので今日は解説・憶測編です。
まずは参加メンバー確認です。moto様の協力により一部わからなかった委員の身許が判明しました。
草刈主査 | 草刈隆郎 日本郵船株式会社代表取締役会長 |
鈴木議長代理 | 鈴木良男 株式会社旭リサーチセンター代表取締役社長 |
八代委員 | 八代尚宏・国際基督教大教授 |
白石委員 | 白石真澄 関西大学政策創造学部教授 |
安居委員 | 安居祥政 帝人株式会社取締役会長 |
矢崎委員 | 矢崎裕彦 矢崎総業株式会社代表取締役会長 |
安念教授 | 安念潤司 成蹊大学法科大学院教授 |
福井教授 | 福井秀夫 政策研究大学院大学教授 |
旭リサーチと医療との関係は「薬品・医療機器(旭化成ファーマ)、人工腎臓、交換膜等。ゴールドマンサックス証券関与」とのことです。
どうも旭化成グループのシンクタンクのようです。他の財界委員を見ると安居委員はグループに帝人ファーマがありますから、そこの利権の代表ですし、矢崎委員も矢崎総業という一見医療とは無関係の企業ですが、HPをみると統合保健事業に乗り出しています。草刈主査の日本郵船はさすがに調べる限りでは医療関係とは関連のありそうな事業を行っていないようです。
これも昨日のコメントのご指摘を受けて気がついたのですが、学者委員の人選も一風変わっています。別に所属大学によって色眼鏡で見るわけではありませんが、国際基督教大、関西大、成蹊大、政策研究大学院となっています。このうち政策研究大学院なるものは聞いたことがなかったのですが、Wikipediaによると、
現役官僚、都道府県・政令市の地方公務員等が学生として多数在籍している。主に埼玉大学大学院政策科学研究科の教職員を母体とし設置された。東大生産技術研究所、東大物性研究所跡地に所在。
と高度学際的政策研究・教育機関を目的として大学院に特化し設置された国立大学院大学。 公共政策・開発政策・地域政策・文化政策・知財などのプログラムを設置し政策研究や専門的政策立案者養成を行っている。
- 「政策における高度なプロフェッショナルの養成」
- 「国際的に開かれた学際的・省際的な政策研究の高度化の推進」
- 「連携機構(コンソーシアム)及び卓越した研究拠点(センター・オブ・エクセレンス)の創出」
こんな活動をしている国立大学法人の大学院大学だそうです。公務員のための国策教育大学院と言えば言いすぎでしょうか。八代委員についての業績は有名ですので今日は触れません。おおよそこのようなメンバーが委員です。
昨日読まれた方で誤解された方も多いと思いますが、この会議は平成16年6月3日に行なわれており、当時の首相は小泉純一郎前総理です。前総理の在任期間はH.13.4.26〜H.19.9.26までで、この会議が行なわれた平成16年6月当時の状況は、前年の11月に第二次小泉内閣が発足し、4月に自衛隊のイラク派遣決定、5月に人気回復のための電撃外交である第二次訪朝を行い、7月に参議院選挙で民主党に競り負けるような状態のときです。ちなみに郵政問題で小泉劇場を演出して歴史的勝利を飾ったのはその1年後のお話です。小泉政権中でも人気が中だるみしていた時期と言っても良いかと思います。
この会議の中で日医が出てきますが、日医の会長は平成16年4月に選挙の末、現日医会長の唐澤祥人氏に変わっています。従って会議録にある前会長は植松治雄氏であり、今の会長とは唐澤祥人氏になります。この二人の会長の評価が会議録で行なわれています。発言者は八代委員です。
医師会は変わってない。前の医師会長はまだ良かったが、むしろ悪くなっているので、説得する必要はない。医師会に大反対と言わせて、医師会が非常識であることを明らかにすればよい。また、医師の中の反対意見を盛り上げる。厚労省を呼んでも何も言えない。むしろ消費者代表を呼ぶべきか。
どうも八代委員の得ている情報では、平成16年6月時点の日医会長の評価は植松前会長が混合診療積極派、唐澤現会長が混合診療消極派と分類されているようです。医師会情報についてはこの会議の委員の中では八代委員より詳しい委員はいないようで、八代発言を医師会の根拠情報として会議は進んでいます。
もう一つ病院協会の事について鈴木議長代理が発言しています。
八代委員の意見に賛成。医師会と病院協会には温度差がある。2001年のヒアリングでは医師会は混合診療と株式会社は譲れないと言う話だったが、病院協会は混合診療賛成といわんがばかりだった。その後も病院協会は私の所にいろいろ言ってきている。
この病院協会がどこを指すのかはっきりしないのですが、素直に考えれば社団法人全日本病院協会かと思います。この組織は民間病院の協会らしく、経営に苦しむ民間病院が混合診療に積極的なのは理解できますし、混合診療解禁会議に等しいこのWGに大きな期待をかけてもおかしくありませんし、積極的な働きかけを行なう事も十分ありえます。
少し情報を整理すると
日医が混合診療解禁のガンと考えるWGでは、いくつかの提案が行なわれています。重複もありますが八代発言を拾ってみます。- 不妊治療、予防治療は今までにない論点であり、そこで対立点を明らかにすることが大事。医療界は診療報酬引き下げで一層経営が苦しくなっているので、公開討論で敵方(医療界)の仲間割れを促す。当会議の主張を明確にしていく。
- 仲間割れのためには東大病院だけで認めろと言ってもだめで、例えば臨床研修指定病院など800ぐらいあるレベルの低い民間病院でもできるようにしろと主張していくと仲間割れが生まれる。鈴木さんは公開討論に消極的なようだが、 再度公開討論をすることに効果あり。
- 医師会は変わってない。前の医師会長はまだ良かったが、むしろ悪くなっているので、説得する必要はない。医師会に大反対と言わせて、医師会が非常識であることを明らかにすればよい。また、医師の中の反対意見を盛り上げる。厚労省を呼んでも何も言えない。むしろ消費者代表を呼ぶべきか。
- 医療法人の経営は、つぶれかかった病院を助けるためのもの。医師会が反対すればするほど医師会内部の対立が深まる。
- 医療関係の専門紙も記事にするので、医師の間で意見対立が起きる。患者代表で辻本さん(COML)を呼んではどうか?
- ヒアリング対象者の論文を事務局が集めて委員に事前勉強させろ。時間を節約したい。公開討論については、総理から、意見の対立を明確にしろ、という明確な指示があり、マスコミに当会議についての記事を書かせることが必要。
- 福祉は公開討論必要ない。教育と医療を公開討論する。論点整理の資料ぐらいは事務局の方で気を利かせて用意しろ。
- 病院協会を呼んでもいい。厚労省は当事者能力ない。
- 昨年までの資料は沢山あるはずではないか。そんなことを参事官に言われるのは心外。
- 宮内議長に出てもらえるか。医師会は桜井さんがどうせ来るのだろう。
- そんなことしてたら秋になる。7月には間に合わない。
舞台裏でここまで進行していた混合診療解禁が頓挫した原因は7月にあります。人気が中だるみ状態の小泉政権は参議院選挙に敗北、求心力が低下した小泉前首相は、一連の改革の中でももっとも重大事項である郵政民営化問題のみ全力を集中し、その他の事業はすべて後回しにされ放置されたからです。
ただし火種は完全に消えたわけではありません。頓挫しただけでジワジワと進行していると考えます。現政権も基本的に小泉前首相の流れを汲んでおり、その証拠に八代氏は今も健在で各種諮問会議で頑張っておられます。またこのWGで論議されていた日医弱体化戦略も着々と進んでいると見ます。
どこまでが政府の工作なのかは不明ですが、この会議から2年経った現在、元々そんなに仲が良くなかった日医と勤務医の関係はさらに悪化し、日医会員の日医執行部への反発も目に見えて強くなっています。「前医師会長よりも悪い」とこのWGで酷評された唐澤現会長も、とくに去年の後半ぐらいから明らかに政府よりの姿勢になっています。今年に入ってからは露骨にという表現が相応しいかと思います。
唐澤現会長の考え方や信念がどんなものかは知りませんが、日医の中、もっと言えば執行部の中でも突出している印象があります。意見不統一のままでも突っ走っていく感じです。唐澤会長及びその側近グループの独走は執行部内でも混乱を招いているようですし、末端になると見放すとかのレベルを越えて脱会への気運さえ出てきています。
しかしこのWGの議事録から考えると、医師会内部の対立を起させて組織を弱体化させる戦略が具現化しているとも見れます。医師会は衰えたと言っても日本最大の医師団体であることに間違いは無く、これに匹敵ないし第2勢力になるようなものは事実上存在しません。大きな医療政策の変更を行なう時に最大の業界団体である医師会の賛成は手続き上必要です。つまり個々の医師がいくら反対しても、医師会が賛成すれば医師の同意を得たとして政策が断行されるお墨付になるわけです。
医師会の求心力の低下は目を覆うばかりですが、内部的にはバラバラになり、会長一派の独走で国の医療政策を受諾すれば、それは全医師の合意と取られる構図になっているという事です。それができるだけの医師会工作は成功を収めているように見えます。実に完璧な工作で、既に多くの医師の心は医師会から離れつつあるのに、医師会だけは外見上は堂々とそびえています。
とは言えとくにネット医師は医師会に求心力を求めません。求心力は求めませんが、結集する動きも出てきません。国の政策が日本の医療にとってどんなにトンデモであるかの説明は出来ても、それを業界団体のまとまった声として表明できるところがなく、ましてや交渉する権限のある人物もいません。
この先起こることは、反対も無いまま幾つもの医療崩壊策が次々と打ち出され、それに耐えられない医師が次々に姿を消し、そして誰もいなくなったの世界になると考えています。来年の春どころか今年の夏にどうなっているかを考えるのも怖い事です。