チーム医療で24時間

昨日に十分触れれなかったお話です。

厚生労働省は17日、医療構造改革に関する同省案を公表した。

 高齢化社会にふさわしい医療を実現するため、「かかりつけ医」を核に、地域の複数の開業医をチーム化し、患者を交代で診察して24時間の在宅医療を実現することが柱だ。

冒頭の言葉から作為が入っています。

この言葉は正確ではありません。正確に言い直せば、
    厚生労働省が計画する、病院でなく在宅で治療させる医療を実現するため
なにがなんでも在宅医療に突き進ませるための受け皿つくりです。在宅には勤務医の動員はさすがに難しいと考えたのでしょう。勤務医でない医師は開業医しかいません。また勤務医はあまりの長時間労働に悲鳴をあげているので、労働基準法という厄介な物に目覚め始めているので、多分そんなことに疎く、労働基準法を持ち出されても個人事業主なので、どうとでも言い逃がれられる開業医に負担を丸投げしようと見えます。

この計画のポイントは

  • 開業医をチーム化する
  • 24時間対応とする
まず開業医のチーム医療と病院のチーム医療は性質がかなり異なります。医師は小骨の多い性格の連中が多いのですが、病院内であれば直接の上下関係があり、チームの意志をある程度統一する事は可能です。ところが開業医ではそうはいきません。各々が一国一城の主の独立自営の個人事業主ですから、チームの意志を統一する事は至難の業です。話し合おうとする気自体が乏しい上に、話し合っても自らが確立した医療をまず譲ることはありません。

譲らないとどうなるかですが、各自が自分の医療観に基づいてバラバラに治療を行う事になります。そうなれば医療的は同じ事であっても、A医師とB医師で全く違うニュアンスを患者に話す事になります。その程度のことは病院内の同じ科の医師同士でも日常的に起こる事ですし、開業医同士となればもっと開きと頻度が高くなります。

24時間対応は去年辺りから医療対策でしきりに躍る文字です。患者サイドにとっては文句の無いことでしょうが、対応する側にとっては地獄の対応となります。どうも厚生労働省側の頭の中には「電話ぐらいは・・・」があるようですが、現在の医療情勢では電話対応一つで大変な事になります。

医療の考え方の基本は、医師が関わったからには全責任は医師が背負うシステムになっています。電話であっても基本的に変わりません。顔も見ずに電話だけで応対し「大丈夫だろう」と話し急変したら医師の責任です。電話であるからといって免責があるわけではありません。それぐらい厳しい環境になっているのに安易に電話相談といわれてもおいそれとは対応できるものではありません。

また高齢者となれば神経症気味の患者が決して少なくありません。不眠症の患者もまた比率として少なくありません。そうなれば夜の話し相手として電話を利用されるのは誰でも推測がつきます。その手の患者はほぼ毎晩のようにかけるでしょうし、時間も相当長いものとなります。さらに電話で幾ら納得させても翌日にはまた一から話が始まります。定額ならかけ放題ですから連日連夜の長電話攻勢が待ち受けます。

グループ診療でたとえば5人が組み、100人の在宅患者を診療したとします。一人の患者から週に1回夜に電話があるとすれば月に約500回となり、一晩に約16回の電話対応が必要となります。高齢者からの電話ですから短時間で終わりません、一人30分とすれば8時間は電話に縛られる事になります。過大な予測と言われるかもしれませんが、定額となり、制度として出来上がれば頻度が2倍以上になっても不思議ではありません。また定額で制度となれば「来てくれ」電話が激増する事も容易に予測がつきます。

この程度のことは医師なら誰でも予想がつきますし、予想がつくので誰も手を出したがりません。また現在の在宅医療は比較的順調なところがあるとも聞きますが、現在の在宅患者は在宅ゆえのデメリットを十分納得した上で治療を受けています。医師もまたそういう患者を相手にするからなんとか対応できています。

しかしこれからは違います。とりあえずこの先最低限10年程度は、病院や施設に入れなくてシブシブ在宅を強いられる患者が主体となります。そういう患者がどのような対応を求めるかは怖くて書けません。もう一つ加えておけば、高齢者の介護に当たっている家族も疲労困憊状態です。介護のために仕事を辞め、収入を減らしているのですからマグマの様な不満を抱いています。

こんなところにどれ程の医師が厚生労働省の旗振りで参加するのか正直なところ疑問です。また厚生労働省の旗振りがいかに作為的で朝令暮改であるかも医師は十分承知しています。ある制度を普及するために診療報酬等で誘導しても、一片の改正通知で雲霧消散します。この厚生労働省の政策に振り回されて痛い目にあった医師や医療機関は数知れずあります。医師がいかに世知に疎いと言っても馬鹿ではありませんからしっかり学習しています。

一番の間違いは「医療費節減のために在宅誘導」です。こんな事が今の日本の国民には不可能でありにもかかわらず強行しようとし、そのツケを開業医に払わせようとするから無理が出ます。無理が通れば道理は引っ込むと考えているのでしょうが、物理的に無理な事はそもそも無理なんです。

平成20年度の医療費改訂で昼間の診察台を大幅削減し、時間外の診察料に回す政策誘導を行うとしています。そうなったら医師は参加するでしょうか。参加する医師もそれなりに出るでしょうが、清貧に甘んじる医師も数多いかと考えます。つまり必要数は満たされないと考えます。医師といえども自らの健康と生命をすり減らす選択はそうそう出来無いと言う事です。