診療所は儲かっているか

平成17年1月26日に中央社会保険医療協議会において了承された、第14回医療経済実態調査の報告(平成15年6月調査)があります。そこで開業医は高収入であると例のごとく叩かれたのですが、収支差分布図をグラフにして見ました。

この時は診療所の平均収入が228万円もあるとして、マスコミ総出で叩かれたのですが、グラフをよくご覧ください。これで平均が228万円と直感的に感じられる人間はそうはいないんじゃないでしょうか。

全体の調査件数は1036件となっております。まず収支差が100万円以下の比率ですが、375件あり全体の36%を占めています。さらに150万円以下なら531件で51%、200万円以下となると639件で62%になります。200万から250万のグループは100件あり、平均が228万円なのでやや乱暴ですが、平均の228万円以下が50件だと仮定すると、平均以下の診療所は689件で67%を占める事になります。

もう一度表に書き直してみると、

100万円以下36%51%62%67%
100〜150万円15%
150〜200万円11%*
200〜228万円5%**
228万円以上
33%

ここで誤解が無いようにしてもらいたいのですが、この数字は収支差であって医師の給与ではありません。職員の退職金の積み立て、医療機器の更新充実、さらに診療所自体の定期的な補修やリニューアルの費用もここに含まれているからです。細かいことをいえば、調査月は6月ですから、忘年会や慰安旅行などの福利厚生費用もここから出費されます。さらにこれは平成15年度調査ですから、平成16年、平成18年とその後も2回診療報酬は削減されていますから、これより5%ぐらいは確実に減っています。

また分布で3割の平均以上の収支差を稼いでいる診療所は、保険診療以外の収入があると考えるのが妥当です。とくに1000万以上なんて怪物的な収支差を叩き出しているのは美容整形とか、当時であればせいぜいコンタクト外来の大手ぐらいしか考えられません。そうなると診療報酬削減の直撃を食らったのは、その多くが平均以下の7割の診療所であると考えるのが妥当です。また怪物的収支差が可能であったとされるコンタクト外来は前回の診療報酬改定でかなり叩かれましたから、さらに勝ち組診療所は3割から減っている可能性があります。

現在の統計がどうなっているかはわかりませんが、ほぼ確実な推測ですが、100万以下の層は平成15年の36%から40%以上になっていると考えられます。4割以上が100万以下であり、さらに50万以下は3割以上になっていると考えて良いと思います。もっと言えば1割以上は赤字という事です。

これらの数字は実感を持って眺める事が出来ます。うちもちなみに平均以下の部類です。今日は具体的な試算をやめておきますが、前に行なった時では、平均収支差を上回るためには1日平均70人から80人ぐらいの外来患者数が必要です。小児科は季節変動が激しい診療科ですから、それだけの平均を挙げるためには、繁忙期で120人以上、閑散期でも50人以上の外来数が必要です。それだけ診察してやっと平均です。ただしそれだけの数をこなすためには、それだけの体制の整備が必要で、そうなればもっと人手がかかり、その分だけ平均患者数のハードルが高くなります。

開業すればバカスカ儲かると言う神話は医師でさえ残っていますし、医師以外はなおさらのようです。しかし実体は2回の大幅診療報酬削減前でも見ての通りで、次回の平成20年改定ではさらに開業医の診療報酬は削減される予定のようですから、開業医にドロッポを考えておられる医師がおられれば、路頭に迷うか迷わないかの算段を十分行なってください。時間外診療の負担が消える分だけ精神的負担は確かに軽くなりますが、その代わりに倒産の危機で夜も眠れなくなるかもしれませんからね。