医師不足対策のための医療法の改正

地域医療支援会議の第1回議事録を読んでいたら目に付きましたので、医療法の改正についてエントリーします。

参考にしたのは地域支援医療会議のための資料にある医療法改正及び医師確保対策について にある「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の概要」からです。この概要にはまず前文というか経緯みたいなものが冒頭にあります。

政府・与党医療改革協議会により、平成17年12月1日に取りまとめられた「医療制度改革大綱」に沿って、国民の医療に対する安心・信頼を確保し、質の高い医療サービスが適切に受けられる体制を構築するため、患者等への医療に関する情報提供の推進、医療計画制度の見直し等を通じた医療機能の分化・連携の推進、地域や診療科による医師不足問題への対応等の措置を講じる。

医師にとって少々引っかかるところが多い文章ですが、そこは目を瞑って概要に進みます。

  1. 患者等への医療に関する情報提供の推進


    →患者等が医療に関する情報を十分に得られ、適切な医療を選択できるよう支援する。


    • 都道府県が医療機関等に関する情報を集約し、分かりやすく住民に情報提供し、住民からの相談に適切に応じる仕組みの制度化
    • 入退院時における治療計画等の文書による説明の位置付け
    • 広告規制の見直しによる広告できる事項の拡大


  2. 医療計画制度の見直し等を通じた医療機能の分化・連携の推進


    →医療計画制度を見直し、地域連携クリティカルパスの普及等を通じ、医療機能の分化・連携を推進し、切れ目のない医療を提供する。早期に在宅生活に復帰できるように在宅医療の充実を図る。


    • 医療計画に、脳卒中、がん、小児救急医療等事業別の具体的な医療連携体制を位置付け
    • 医療計画に分かりやすい指標と数値目標を明示し、事後評価できるできる仕組みにすること
    • 退院時調整等在宅医療の推進のための規定整備


  3. 地域や診療科による医師不足問題への対応


    →僻地等の特定地域、小児科、産科などの特定の診療科における医師不足の深刻化に対応し、医師等医療従事者の確保策を強化する。


    • 都道府県の「医療対策協議会」を制度化し、関係者協議による対策を推進


  4. 医療安全の確保


    • 医療安全支援センターの制度化、医療安全確保の体制確保の義務付け等
    • 行政処分を受けた医師、歯科医師、薬剤師及び看護師等に対する再教育の義務化、行政処分の類型の見直し等


  5. 医療従事者の資質の向上


    • 行政処分を受けた医師等の再教育の義務化等
    • 看護師、助産師等について、現行の業務独占規定に加え名称独占規定を設けること
    • 外国人看護師、救急救命士等について、臨床修練制度の対象とすること


  6. 医療法人制度改革


    →医業経営の透明性や効率性の向上を目指す。公立病院等が担ってきた分野を扱う医療法人制度を創設する。


    • 解散時の残余財産の帰属先の制限等医療法人の非営利性の徹底
    • 医療計画に位置付けられた僻地医療、小児救急医療等を担うべき新たな医療法人類型(社会医療法人)の創設等


  7. その他


    • 施設規則法の性格が強い現行の医療法を、患者の視点に立ったものになるよう、目的規定及び全体的な構造の見直し
    • 有床診療所に対する規制の見直しその他所要の改正

以上が概要で、有床診療所の件は1/1に既に施行、他の項目は4/1に施行となっています。正直なところこの概要だけでは何をどうするのかのイメージが湧きにくいのですが、資料にはその具体策もかなり書き込んであるので追って行きます。


医療機能情報の提供制度の創設


これから医療機関はある一定の情報を都道府県知事に報告する事が義務づけられます。ある一定とは具体的に、

  • 管理・情報・サービス等に関する事項(診療日、診療時間、病床数、外国語対応等)
  • 提供サービスや医療連携体制に関する事項(学会認定医、専門医、対応可能な疾患・治療内容、対応可能な在宅医療、セカンドオピニオン対応、地域医療連携体制等)
  • 医療の実績、結果に対す事項(医療安全対策、クリティカルパスの実施、診療情報管理体制、治療結果に関する分析の有無、患者数、平均在院日数等)
  • 治療結果情報等のアウトカム指標については、今後、データの適切な開示方法等、客観的な評価が可能となったものから順次追加予定
簡単に言えば病院のランク付けの資料を提供せよと解釈すれば良いようです。賛否両論があるでしょうが、次に進みます。


医療計画の見直し等を通じた医療機能の分化・連携の推進


ごく簡単には在宅推進の一環と考えた良いかと思います。ここではまず医療機能の分化・連携の推進による切れ目のない医療の提供として、

  • 都道府県が作成する医療計画の見直しにより、がん、脳卒中、小児救急等など事業別に、地域の医療連携体制を作る。
  • 地域の医療連携体制内においては、地域連携クリティカルパスの普及を通じて切れ目のない医療を提供する。
ここには「転院・退院後も考慮した適切な医療提供の確保」となっていますが、私の理解では退院後の患者を在宅に制度的に押し込むプランと読めました。さらにこの項目には具体的内容とあります。
  • 国の基本方針(新たに法律に規定)によるビジョンの提示
  • 事業別に、地域の実情に応じ関係計画との整合性を勘案し、分かりやすい指標と数値目標でもって住民・患者に明示し、事後評価できる仕組みにする。数値目標の例として
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  • 事業ごとにそれぞれの機能に即して医療連携体制を具体的に医療計画に位置付け、住民・患者に医療機関の連携の状況を明示する
  • 医療機能調査の上、住民、医療関係者、介護サービス事業者等と協議して医療連携体制を構築
具体的内容にはさらに「病院・診療所の開設者及び管理者に医療機能調査や医療連携体制の構築に関する協議などへの協力の努力義務規定を創設」となっていますから、確実に書類仕事と会議が増えるのは間違いありません。地域連携クリティカルパスの作成なんぞに関わったら大変な目にあいそうです。


地域医療確保のための都道府県による「地域医療対策協議会」


メンバーは法定事項として、

その他の例として、
  • 都道府県の医政担当部局
  • 民間も含めた地域の中核的な病院や僻地等の病院の院長
  • 医療を受ける立場にある住民
この地域医療対策協議会は地域医療支援中央会議の第1回議事録で医療計画推進指導官が役割をこう断言しています。
    医局に代わって都道府県が中心となった医師派遣体制の構築
考えようによっては血を見るほどの協議会になりそうと考えるのは私だけでしょうか。偏在の前提を何があっても崩さず、足りない地域の医師は幻想の過剰地域から融通するわけですから、会議が紛糾しない理由はありません。そもそも考えれば「不足でなく偏在」なのですから、偏在さえ是正すれば集約化さえも不要の理屈が出てきても不思議ありません。委員の誰かが地域医療支援中央会議で医師過剰地域のリストアップを厚労官僚に要求してくれないものですかね。これは全国の医師が注目している情報なんですが・・・

で、なんですが、読めば読むほど医師の負担は重くなりこそすれラクにはならない内容ばかりなんですが、冒頭の「地域や診療科による医師不足問題への対応等の措置」がほとんど言及されていません。医師確保対策100億円の内容は先日検討しましたが、あれだけということなのでしょうか。私の目には医療法が改正されて、地域は地域医療対策協議会があるとしても、診療科に「偏在」の是正を行なう内容はどこにもないかと考えます。

この資料は大部なものの上、画像ファイルで構成されているため手起しを強いられるので、これ以上は写すのはあきらめますが、ここまでには「確保策を強化する」しか書いてありませんでした。ちなみに資料の中盤は医師数、とくに小児科、産婦人科の数の統計資料が出てきますが、ここには例の通り「足りている」との見事な結論が導かれるように構成されています。

それにしてもこの資料、文字ファイルになっていないからへたばりました。後日機会があればもう少し論評が出来ればと思います。