予算委員会・解説編

昨日の予算委員会議事録は罫線組みで力尽きて、解説が散漫になりましたから、蛇足の延長戦です。昨日質疑で行なわれた質問は次の通りかと考えます。

  1. 医師の業務は過酷過ぎないか。
  2. 医師不足は偏在ではなく単なる不足ではないか。
この2点だけを追及しています。前半はa.に対するものが中心になります。問題になった柳沢大臣の答弁の趣旨は、
    医師の病院への拘束時間は約63時間だが休憩時間を除いた労働時間は約48時間である。
拘束時間約63時間の算出根拠から問題になりますが、ここでは置いておきます。ここでは拘束時間中の約15時間の休憩時間算出の根拠の方が問題です。まず5時間は労働基準法に定められた正式の休憩時間でしょう。そうなると残り約9時間が残ります。医師といえども病院にいる間、間断なく外来診療や病棟診療、手術室で切りまくっているわけではありません。もちろんそんな日もたくさんありますが、空き時間が出来るときもあります。言ってみれば結果待ちとか経過待ちの時間です。待つのも医療では重要な時間です。

待っているといってもその間も常に患者の病変に備えて待機しているわけです。こういう時間の事を労働基準法では「手待時間」と呼ばれ、休憩時間とはみなされません。つまり、仕事をしているのと同様として、会社にはその時間について、所定の時間給を支払う義務が生じるわけです。医師ですから会社ではなく病院になりますけどね。つまり休憩時間とは一切の業務から開放された時間帯なのです。

Ikegami様からコメントを頂きましたが、

    「警報や電話あるいは異常事態が生じたときは, ただちに相応の対応をすることが義務づけられているという場合の 「仮眠時間」 は休憩時間ではない(大星ビル管理事件・最一小判H14.2.28、労判822号5頁)」や「使用者から義務付けられた作業服や保護具の着脱等に要した時間について、労働者が就業を命じられた業務の準備行為と認めて、これを労働基準法上の労働時間である(三菱重工長崎造船所事件・最一小判H12.3.9、労判778号11頁)」
きちんと判例まで整備されています。こんな事を労働行政の総元締めの長である厚生労働大臣が踏まえずに答弁した事に大きな批判がでています。

後半はb.に関してのものになります。質問は結構ストレートなもので、「偏在しているなら、余っているところを具体的に挙げよ」です。これまで執拗なぐらい「医者は偏在説」を繰り返してきた厚生労働省ですから、たとえ噴飯物でも物凄い理屈を出してくるかと思っていましたが、なんとこの時、柳沢大臣は立ち往生する事になります。コソコソと協議の結果、でた答弁は

    あるう〜もちろん基本的にですね西高東低といった徳島なんかが、今委員も言っておるとおりですとも、私どもはですね各県の中でも非常に厚いところと薄いところがある、そういうようなことで地域的な偏在がある!ということを申し上げているというわけでございます。
なんと徳島県が医者余りの象徴県と答弁しています。徳島の人は怒るでしょうね。さすがに拙いと感じたのか、ゴニョゴニョと県単位でもなくてもっと細分化された地域ごとの偏在化云々と必死の逃げを打つ事になります。おそらく質問時間の関係でこれ以上ツッコメなかったのでしょうが、個人的にはこれ一本でグリグリ責めたら面白かったのにと考えます。

最後の答弁は安倍総理です。総理の答弁のポイントは、

  1. 医師は毎年3500〜4000人増えるからこれ以上養成数は増やさない。
  2. 100億円の対策費を組んである。
医師がどれだけ不足しているかの実感の相違でしょうが、毎年4000人増えても10年で4万人しか増えません。20年でようやく8万人です。現在の医師数が27万人ですから10年後に31万人です。人口10万人あたりに換算すると現在が221.7人、10年後が約240人になります。質疑にもあったOECD平均は290人ぐらいですから、安倍総理の「医師は余ってくるから増やさない」は今から20年後以上の事を心配しての答弁となります。付け加えれば医師養成数の抑制は10年前の閣議決定によるものですから、10年前に30年以上後に過剰になる予想の医師の抑制を考えての日本政府には珍しい長期の展望をもった大計画になります。また過剰と言ってもやっとOECD平均に追いつくだけですから、念の入った抑制策です。

もうひとつ安倍総理が何度か強調した100億円の対策費ですが、ただの通行人様から情報を頂いております。

  1. 医師派遣についての都道府県の役割と機能の強化(新規)18億円


      都道府県による地域医療の確保に向け、医療対策協議会の計画に基づく派遣に協力する病院やマグネットホスピタルを活用した研修等への助成を行うとともに、国に、公的医療団体等が参画する「地域医療支援中央会議」を設置し、関係団体等により実施されている好事例の収集・調査・紹介など改善方策の検討、都道府県からの要請に応じ、緊急時の医師派遣など地域の実情に応じた支援を行う。また、都道府県が地域医療の確保を図るため、独自に創意工夫を凝らした先駆的なモデル事業を実施するために必要な支援を行う。

  2. 開業医の役割の強化 5.7億円


      小児救急電話相談事業(#8000)の拡充や小児初期救急センターの整備を行い、軽症患者の不安解消を図るとともに、患者の症状に応じた適切な医療提供を推進する。

  3. 地域の拠点となる病院づくりとネットワーク化 68億円


    1. 小児科・産科をはじめ急性期の医療をチームで担う拠点病院づくり(新規) 5.8億円


        多くの病院で小児科医・産科医が少数で勤務している結果、勤務環境が厳しくなっている状況などを踏まえ、限られた医療資源の重点的かつ効率的な配置による地域の医療提供体制の構築を図る中で、小児科・産科医療体制の集約化・重点化を行うため、他科病床への医療機能の変更等に係る整備などを行う場合に、支援を行う。


    2. 小児救急病院lこおける医師等の休日夜間配置の充実 24億円


        小児の二次救急医療を担う小児救急支援事業及び小児救急拠点病院の休日夜間における診療体制の充実を図る。


    3. 臨床研修において医師不足地域や小児科・産婦人科を重点的に支緩(新規)22億円


        へき地・離島の診療所における地域保健・医療の研修、小児科・産婦人科医師不足地域の病院における宿日直研修に対する支援の実施等により、地域の医療提供体制の確保を図る.


    4. 出産・育児等に対応した女性医師等の多様な就業の支援 14億円


        病院内保育所について、女性医師等に対する子育てと診療の両立のための支援が推進されるよう基準を緩和する.また、女性医師バンクを設立し、女性のライフステージに応じた就労を支援するとともに、離職医師の再就業を支援するために研修を実施する。


    5. 助産師の活用 1.6億円


        地域において安心・安全な出産ができる体刺を確保する上で、産科医師との適切な役割分担・連携の下、正常産を扱うことのできる助産師や助産所を活用する体制の整備を進めるため、潜在助産師等の産科診療所での就業を促進する。また、産科診療所等で働く看護師が、助産師資格を取得しやすくするため、助産師養成所の開校を促進し助産師の養成を図る。


    6. 患者のアクセスの支援(新規)0.9億円


        複数の離島が点在する地域等において、ヘリコプターを活用し、巡回診療を実施するために必要な支援を行う。


  4. 医療紛争の早期解決 1.4億円


    1. 産科無過失補償制度への支援(新規)0.1億円


        安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として、分娩に係る医療事故により障害等が生じた患者に対して救済し、紛争の早期解決を図るとともに、事故原因の分析を通して産科医療の質の向上を図る仕組み(いわゆる無過失補償制度)の創設に伴い、普及啓発のための支援を行う。


    2. 医療事故に係る死因究明制度の検討等 1.3億円


        診療行為に関連した死亡事例についての調査分析を実施し、再発防止策を検討するモデル事業の充実を図るとともに、これまでのモデル事業の実施状況も踏まえ、医療事故の死因究明制度、裁判外紛争処理制度等の構築に向けて具体的検討を行う。
※平成18年度補正予算案において、小児初期救急センターの整備等の助成及び産科無過失補償親度の創設に向け、調査・制度設計等のための支援を行う。(8億円)

だそうです。これについては後日機会があればツッコミます。