救急医療の基礎知識 その3

救急医療の問題は書き出した頃からゴールをおおよそ決めてあるのですが、通行人さまからの貴重な情報提供があり、基礎知識で今日も足踏みしています。ただこの足踏みは不快な足踏みではなく、むしろ救急問題の一番の根っ子をほじくっている印象なんです。それとこういうスノブ的なムックは大好きでして、読めれている方には興味がもう一つかもしれませんが、個人的には嬉々として書いています。

まず昨日までのサマリです。

  1. 救急隊の始まりは火事や自然災害などに消防隊が出動した時に、そこで発生している傷病者を搬送するために生まれたらしい。
  2. 救急隊は相当早期から災害による事故以外での急病人の搬送も行なっていたらしい。
  3. 1960年代になり交通事故が激増し「交通戦争」として社会問題化し、救急隊の必要性、需要は非常に高まったようです。
  4. 当時の法律では救急隊の定義に明確なものは無く、現状を追認し、整備拡張を行うために法令の整備が行われたのが1963年です。具体的には、


    • 消防法第2条9項


        救急業務とは、災害により生じた事故若しくは屋外若しくは公衆の出入する場所において生じた事故(以下この項において「災害による事故等」という。)又は政令で定める場合における災害による事故等に準ずる事故その他の事由で政令で定めるものによる傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急隊によつて、医療機関厚生労働省令で定める医療機関をいう。)その他の場所に搬送すること(傷病者が医師の管理下に置かれるまでの間において、緊急やむを得ないものとして、応急の手当を行うことを含む。)をいう。


    • 消防施行令第42条


        法第二条第九項の災害による事故等に準ずる事故その他の事由で政令で定めるものは、屋内において生じた事故又は生命に危険を及ぼし、若しくは著しく悪化するおそれがあると認められる症状を示す疾病とし、同項の政令で定める場合は、当該事故その他の事由による傷病者を医療機関その他の場所に迅速に搬送するための適当な手段がない場合とする。


  5. 1964年には救急隊が搬送する病院の整備が必要として厚生省令第八号が発せられています、


    • 救急病院等を定める省令


        消防法 (昭和二十三年法律第百八十六号)第二条第九項 の規定に基づき、救急病院等を定める省令を次のように定める。

        医療機関

        第一条  消防法 (昭和二十三年法律第百八十六号)第二条第九項 に規定する救急隊により搬送される傷病者に関する医療を担当する医療機関は、次の基準に該当する病院又は診療所であつて、その開設者から都道府県知事に対して救急業務に関し協力する旨の申出のあつたもののうち、都道府県知事が、医療法 (昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の三第一項 に規定する医療計画の内容(以下「医療計画の内容」という。)、当該病院又は診療所の所在する地域における救急業務の対象となる傷病者の発生状況等を勘案して必要と認定したもの(以下「救急病院」又は「救急診療所」という。)とする。ただし、疾病又は負傷の程度が軽易であると診断された傷病者及び直ちに応急的な診療を受ける必要があると認められた傷病者に関する医療を担当する医療機関は、病院又は診療所とする。

        1. 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること。
        2. エツクス線装置、心電計、輸血及び輸液のための設備その他救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること。
        3. 救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有すること。
        4. 救急医療を要する傷病者のための専用病床又は当該傷病者のために優先的に使用される病床を有すること。


        2  前項の認定は、当該認定の日から起算して三年を経過した日に、その効力を失う。

        (告示)

        第二条  都道府県知事は、前条第一項の申出のあつた病院又は診療所であつて、同項各号に該当し、かつ、医療計画の内容、当該病院又は診療所の所在する地域における救急業務の対象となる傷病者の発生状況等を勘案して必要と認定したものについて、救急病院又は救急診療所である旨、その名称及び所在地並びに当該認定が効力を有する期限を告示するものとする。



        2  都道府県知事は、救急病院又は救急診療所が前条第一項各号に該当しなくなつたとき又は同項の申出が撤回されたときは、その旨並びにその名称及び所在地を告示するものとする。

救急病院を定める省令は1964年4月10日から施行されています。今日取り上げるのは、施行後約3ヶ月経った1964年7月31日に行なわれた第40回国会、衆議院社会労働委員会会議録第60号からのものです。ここで行なわれた審議の内、救急病院に関するところを通行人様が要約してコメントしてくださいました。要約しても相当の長文なんですが、読み直す価値のある内容です。読みようによっては今に至る救急問題の出発点がほとんど語られているような気がします。また取り様によっては40年後の現在でも通じる問題点が多々あると思います。頑張って解説してみますのでお付き合いください。

質問に立っているのは河野(正)委員。この人物がどこの政党の所属かは残念ながら分かりません。答弁しているのが尾崎解説員と神田国務大臣、尾崎解説員が厚生省の官僚で、神田国務大臣厚生大臣であろう事は推測はつきます。またほとんど答弁しているのは尾崎解説員なので厚生省の考えをかなり反映していると考えます。

まず質問が始まります。

河野(正)委員

 御承知のように、第四十三国会におきまして消防法の一部改正が行なわれたわけであります。そういたしまして、救急病院等を定める省令ができて、それが本年の四月十日より実施されるという経緯に相なったのでございます。ところが、この六月末までに知事の告示によります救急病院が誕生いたしましたのは、全国におきまして、岩手、石川、富山、滋賀、大分、こういうような数県というきわめてわずかな実情でございます。

 せっかく法改正が行なわれて、人命救助に一役を買おうということでこの消防法の一部改正というものが行なわれたように考えますけれども、実際にはいま申し上げますように、国内におきます数県が救急病院の指定を受けるというふうなていたらくであって、私はまことに遺憾な状態であろうというふうに考えております。

 それから同時に、もう一つ重大な点は、各県の医師会あるいはまた病院からいろいろと批判の声が出てまいりまして、そうして佐賀県医師会のごときは、救急病院設置への協力お断わりを申し上げる、こういうような決議をするというような、きわめて強硬な批判の声が出てまいった県等もございます。このことは事人命救助の問題であり、人道上の問題であるだけに、私はきわめて重大な問題であろうかと考えております。これにつきましては、後ほどいろいろと具体的にはお尋ねしてまいりたいと思いますけれども、やはり政府のとりました処置に対します一つの大きな批判と申しますか、そういう点が非常に大きな要素となったように私ども仄聞をし、また理解をいたしております。そこでこのそっぽを向かれた救急病院、この問題について政府はどのようにお考えになっておるのか、その辺の事情をひとつあらかじめお聞かせいただきたい。

河野委員の批判は救急病院等を定める省令ができたのにその整備のスピードが遅すぎるのではないかと言うものです。4月に施行されて6月段階で岩手、石川、富山、滋賀、大分の5県にしか救急病院が無いのは問題であるという事です。さらに付け加えて救急病院が増えない原因として、指名を受ける病院側が難色を示してるからだと指摘しています。

尾崎説明員

 お話のとおり、消防法の一部改正に伴いまして、厚生省令で救急病院、救急診療所を県知事が告示することになっておりますが、その告示が現在十六県、五百十五病院、このほかに二県ばかりが近く告示の予定になっております。こういうふうな状況でございまして、全国の府県の半分も指定ができていない、はなはだこの点責任を感ずるものでございます。

 ただ、この救急医療のしかけは、消防署の関係の救急車が運んでいきます場合に、そのファースト・エイドをすべてもよりの医療機関でやることになっておりまして、それに対して特にある程度の救急医療の設備等を設けておって、そこに車で持っていきますれば十分な救急処置ができるというふうな病院を確保したいという立場で、一般病院のほかにこういうふうな病院を、病院側との合意の上で都道府県知事が告示をするというしかけになっておるのでございますが、この告示の話し合いの際に、条件といたしまして、救急医療に関しましての相当な知識と経験を持っております医者が常時診療に従事している、また手術室とか麻酔器、エックス線装置等の必要な設備を有すること、救急隊員によって患者の運び込みが便利であるというようなところ、また救急患者のために優先的に使用せられる病床を有すること、こういうような条件を考えたのでありますが、その条件の話し合いが少し厳格に伝わった。

 たとえば絶えず一定数のベッドをいつもあけておかなければならぬというふうにとられたようなところもあったようでありまして、もちろんそうしておったほうが望ましいのは望ましいのでありますが、まず何よりもやはりそういうような協力していただきます施設を確保していただきますことが大切ではないか、こういうふうに思うものでありまして、少しそういう理想的な条件を強調し過ぎた点につきましては、訂正をして御協力を願うようにいま手を打っております。しかしそれと同時に、できるだけやはり御協力をいただき、さらに理想的な形に持っていきたいと思いまして、来年度におきましては、そういうような施設に対しまして経費の補償をするというようなことを考えていきたいというような計画も、いま練っておるところであります。

答弁は6月末には5県しかなかったが、この審議が行われた7月末の段階では「現在十六県、五百十五病院」と増えていると反論しています。しかしさすがに救急病院の普及状況の遅さは認めざるを得ないとしています。増えない理由として、

  1. 救急患者は救急病院以外の医療機関でも対応できるから現状はさほど急迫した状況ではない。
  2. 救急病院の認定条件が厳しすぎたようだ。
この2点を主張し、認定条件を運用上緩和して救急病院数を増やしているところだと答弁しています。また経費の補償も「考えている」としています。

河野(正)委員

 この消防法が改正をせられました最も大きな理由というものは、御案内のように、最近都会におきましては、交通事故その他の事故発生というものが非常に激甚をきわめつつある現況にございます。そのような点から、これまでは消防署のサービスであった救急業務というものが、人口十万以上の都市におきましては法的に義務づける、こういうような経緯のもとに法改正が行なわれましたことは、これはもう御承知であろうかと考えております。

 そこで、いま局長が御答弁になりましたような、要するに事故があった場合にはもよりの一般病院に入れればよいのだ、特別の治療をする場合に限って、設備の整った救急病院に入れるのが筋であるので、そこで何か救急病院の指定というものが、全国的にはかばかしくいっておらぬのでございますけれども、そういう責任を痛感するというよりも、いまの答弁を承っておりますと、むしろ何か法改正あるいはまた省令の策定について、受けるほうの施設側に非常に問題がある。そういう問題をほうかぶりをして責任を回避しようというふうな意味に、私どもは実はいまの答弁を受け取ったわけであります。

 ところが、実際法改正をしようというのは、最近の都市における交通事故その他の事故現象が非常に多くなった。そこで、これはやはりサービス的な救急体制では所期の目的を達成することができぬという意味で、むしろこの法改正によって救急対策というものが強化さるべきだ、そういう意味でこの法改正がなされたものというふうに私は理解をいたしております。ところが、どうもいまの答弁を聞いておりますと、とにかく救急指定病院というものが全国の府県の中で半分以下にとどまっておるけれども、しかしもよりの病院に入れればよいのだからということで非常に安易に考えておる。このことは、少なくとも法改正が行なわれた精神というものがはなはだしくゆがめられておる、こういうふうに考えますが、この辺は大臣いかがお考えでありますか。

河野委員の主張は追々明らかになっていくのですが、ここでは尾崎解説員の答弁に反駁を行なっています。ポイントは、

  1. 交通戦争に対応して、消防法第2条9項、消防施行令第42条、救急病院等を定める省令が作られたにも関わらず、厚生省の救急病院整備には熱意が足りない。
  2. 救急病院の整備の遅れは病院側の対応にのみ問題があるとしているのはおかしい。
次に答弁に立ったのは大臣ですが冗談の様な発言が残されています。

神田国務大臣

 実は就任早々で、御満足いく答弁ができるような段階でないことをおわびいたしますが、いまお聞きいたしておりまして、またこの省令等を見ておりますと、いままた局長からの答弁によりましても、所期とどうも違って効果があがっておらぬで、はなはだ残念だということを言っておられるようでございます。私はやはり、いまお述べになりましたように、交通激甚化に備えて、この種のことはもっと意欲的に親切にやっていく必要があるのではなかろうか、こう思っております。十分検討いたしまして、将来御満足のいくようにいたしたい、こう思っております。

新人大臣だからよく分からないのでゴメンナサイとでも要約すれば良いのでしょうか。厚生大臣の資質なんて、この時代からこんなもので十分だった様です。

河野(正)委員

 先ほど局長のお答えを承っておりますると、この省令の骨子の中に若干問題がある、その点については、ひとつ今後もう少しその骨格の線というものをゆるめていきたい、こういうふうなお話があったわけですけれども、私はむしろ、この三つの柱というものは非常に正しいと思うのです。

 ですけれども、要はその裏づけがないから問題があるわけなんです。救急病院でいまの三つの柱が整っておらぬことは、私は緊急の事態の中では非常に欠陥があると思うのです。ところが、その裏づけがないから病院からそっぽを向かれるということになっておるわけですから、病院がそっぽを向いたからこの三つの柱をゆるめていこうということは、私は、法の精神からも非常にかけ離れた御見解ではなかろうかと思うわけです。

 むしろこの三つの柱をせっかく立てられたわけですから、その三つの柱に応ずるだけの裏づけをお考えになれば、それぞれの病院というものは、あるのは人道上の問題で、人命救助に一役買うわけでございますから、私は喜んで参加すると思うのです。ところが、自分のところで裏づけを出すことが困難である、なかなかむずかしいということで、せっかく自分のとこで理想的な三つの柱を立てたが、その三つの柱をくずそうというわけですから、私はこれはまことに残念と言わなければならぬし、そういうことで、はたして、特に法が改正されました精神というものを厚生省のほうは尊重していこう、実行していこうという熱意を持って考えておられるかどうかということについて、私は非常に疑問を持たざるを得ぬと思うのです。この点いかがですか。

厚生大臣に質問しても時間の無駄である事がよく分かったようで、この後は河野委員と尾崎解説員の論戦になります。河野委員の主張する三つの柱とは

  1. 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること。
  2. エツクス線装置、心電計、輸血及び輸液のための設備その他救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること。
  3. 救急医療を要する傷病者のための専用病床又は当該傷病者のために優先的に使用される病床を有すること。
であるようです。救急病院の数が増えないのは「認定条件が厳しすぎるのが原因であるから緩めて増やす」という厚生省の方針に真っ向から異議を唱えています。救急病院に求めた三つの柱は絶対必要なものであり、敬遠されるから緩めるのではなく、それが実行できるように厚生省が環境を整えるのが筋であるとの主張です。

尾崎説明員

 私の御答弁が少しまずかったのか誤解があるように思いますが、医師は診療の義務がある、そういうところで、現在すべての医療機関に救急患者を持っていきました場合に、診療をやってもらえる、ファースト、エイドをやってもらえるわけでございますが、しかし特に適正な救急医療をやる、また消防庁が運んできました場合に、すぐにそこへ受け入れてもらえるようにということで、こういうような救急用施設を話し合いによって告示をしていく、こういうような組織になっているということを申し上げたのであります。

 従来は、そういうような組織が必ずしも法的にも明確でなく行なわれておった。それで・・・自動車事故等の災害によりまして、救急医療の必要性が高まってまいりましたのに対しまして、消防庁と一緒になりまして、こういうふうな組織をまずつくり始めておる、さらにこれを強化しなければいかぬということをわれわれは感じておるものであります。

 ところが、まず現在の時点におきまして、われわれの立場といたしましては、協力してもらう病院を十分各県で、すべてのところで確保するということに主眼をまず置きたい。同時に、それをいまから高めていくように、・・・裏づけをしていくようにいまからつとめていきたい。こういうふうに一つの発展形態としていろいろ施策を考えておるわけでございます。もちろん、・・・初めから裏づけをちゃんとやっておけばよかったわけですが、その点が現在十分にいっておりませんので、来年度予算におきまして努力していきたい、こういうように思っておるわけでございます。

厚生省の考えが段々はっきりしてくるのですが、どうも当時の厚生省は救急病院を設置する事に熱心で無かった様な気がしています。この辺は憶測になりますが、救急隊が所属する消防庁は厚生省管轄でなく、消防法改正に引きずられるように救急病院の設置を呑まされた事に不満があったような気がします。ここで2回目になりますが「ファーストエイドは救急病院でなくともいつでもやれる」の主張を行なっている点からも推察できます。もう一つ付け加えれば今とは比べ物にならないぐらい影響力のあった日医との折衝も気が乗らなかった原因の一つであったかもしれません。

ただ交通戦争への対策という世論の風を受けた可能性のある救急病院設置ですから、作らないわけにはいかないし、役人らしく最初は条文に杓子定規で運用したら救急病院は増えないわですから、批判をかわすために頭数だけそろえる方針にしていたと考えられます。

河野(正)委員

 省令の骨子は、先ほど局長が説明されましたように、第一が、救急病院には事故に備えて医師が常時待機すること、この点はきわめて私は望ましいと思うのです。これをやらないことには救急病院の意義がないので、これが今日までいろいろ悲劇の対象になっておるわけです。特に日曜、祭日に事故があって、かつぎ込んだら医師がおらぬということで、とうとい生命を絶たなければならぬというような悲劇の対象になった場合が非常に多かったと思うのです。そういう意味からも、救急病院には事故に備えて医師が常時待機するということ、これは一つの理想像だと思うのです。

 それから第二の手術室、麻酔装置、それから、エックス線装置を完備すること、これも適切な治療を行なうためには手術室があったり、あるいは手術するためには麻酔装置があったり、あるいは骨折その他があるからエックス線装置がある、これは当然望ましいと思うのです。そういう施設がないと、いろいろと後遺症が残る、あるいはまた、そのために治癒の方針を誤るというようなこともありますので、この第二点も一非常に私は正しいと思うのです。

 それから第三点の、救急事故患者を優先収容する専用ベッドを備えておくということ、これも都市におきます交通事故等によります場合は、入院しなければならぬというようなケースが非常に多いわけです。ところがこの病院にはベッドがない、そこで受け付けるわけにはいかぬということで、これまた患者がたらい回しになってとうとい生命を断った、こういう不幸な現象もございます。

 ですから私は、この省令の骨子そのものについては、これは非常に当を得たものと考えております。また少なくともとの法律に基づいて救急病院に指定なさるわけですから、法律に基づいて救急病院の指定をなさる以上は、それくらいの三つの柱というものは当然立てなければならない、こう考えるわけですけれども、それがじゃまになって救急病院の指定を申請する病院が少なくなった、あるいはそういう柱が問題で、救急病院がそっぽを向いてしまう。

 そこで先ほどの答弁を伺っておりますと、そういうことだからこの三つの柱についてはある程度方針というものはゆるめてまいりたい、こういうような御答弁がございました。それならば、せっかく法改正というものが、今日都市に激増いたします交通事故に対処するための方策と遠ざかるのではないかというようなことで、実は私は御指摘を申し上げたのでございます。それで私は、法に基づいて今日激甚化する都市交通に対処するためには、やはりこの三つの柱というものが理想像であるならば、その理想像を柱として、それぞれ指定を行なうということが望ましいと思うのです。それらの点についてはどのようにお考えでございますか。

河野委員はもう一度三つの柱の厳正な運用を求めています。三つの柱は理想が高すぎるかもしれないが、救急医療の整備のためには理想像であると言ってもこれを具現化していく方針が望ましいと主張しています。実に正論であると私は感じました。

これは余談になりますが、河野委員の質問の中に「患者がたらい回しになってとうとい生命を断った、こういう不幸な現象もございます。」の一節があり、当時から「たらい回し」は社会問題になっていた事がわかりますし、救急病院の設置が「たらい回し」防止の切り札になるとの期待も大きかった事をうかがわせます。

尾崎説明員

 私たちも、この要件ができるだけ完全に満たされるように努力をしていきたい、こういうふうに思っております。ただ現在、この条件につきまして、たとえばベッドの問題、優先的に救急患者に使用するベッドというふうなことがえらく厳重に考えられまして、救急患者が来た、三ベッドある、それがふさがってしまった、すぐまた追い返しても三ベッド置かなければならぬのか、こういうふうにまで厳重に考えられたわけでございます。

 またお医者さんにいたしましても、外科の主任のような人が絶えず三交代でそこにずっと待っていなければならぬのか。自分がすぐ近くの自宅におって、ちょっと電話で呼び出してくれるのではいかぬのか。いまのような状態が望ましいことは事実でございますが、そこまで理想像ばかり追って現在御協力が得られないような状態では、かえって計画の過渡期においてまずいのではないかという意味から、たとえばお医者さんは近くて済む、必要のときには診療できるというふうな状態になればよろしいというふうに、この条文の考え方を趣旨に沿いまして考えていきたい。

 だからベッドにおきましても、三ベッドなら三ベッド用意しておったのが救急患者で詰まったら、その旨を消防庁のほうへ連絡する。毎日定時連絡をして、あいておる状態をよく知っておって、消防庁のほうから患者を運びますときに、あいているところがはっきりわかって運べるようにして、いま先生のおっしゃいましたように、ぐるぐる回しをするようなことがないようにするのが趣旨だと考えまして、考え方の行き過ぎを訂正しておるという状態でございます。

 それでいまの状態でいいのか、満足なのか、こういうお話になりますと、われわれは必ずしもそうは思っていない。できるだけ、先生お話しのようにベッドもあけて、医者を待機さしておるように、またいろいろな設備も、ここに書いてありますものだけでなくその設備を十分にしていく、また医者の技術も向上していくように講習会もやるというふうにしてレベル・アップにつとめていきたい、こういうふうにしてことしも講習会をいま始めておりますが、来年度予算におきましてもできるだけこの方面の措置を講じていきたい、このように考えておるのでございます。

厚生省は現実論で緩和案の妥当性を主張していると見れます。また緩和案はあくまでも過渡期のものであると答弁しています。現在と較べると当直であるにせよ病院に医師は常駐するところまでは「改善」されたと言えるのかもしれません。ただ答弁にある目標である三交代が実現している病院は日本にどれだけあるのでしょうか。

ベッドを常に救急患者のために確保するという件も、これが実現できている病院は果たしてあるのでしょうか。理想的には何人入院しても必ず一定数の空きベッドが確保されていなければならないそうです。物理的に考えても実現は不可能なような気がするのですが、目標はそこにあるようです。そうなれば日常的に良く耳にする、救急病院の当直に赴くといきなり「今日はベッドはありません」は本来救急病院ではあってはならないものです。

そうなれば厚生省が40年前に救急病院を整備するに当たって答弁した「過渡期」は現在もなお十分当てはまる状態だといえます。

河野(正)委員

 要は、いま私が申し上げましたし、また省令の中にうたわれております三つの骨子というものは正しいわけでございますけれども、それらの骨子を実行するためには、いろいろ病院なりの事情が出てくる。特に経済的な事情が出てまいります。ところが、そういう経済的な事情についてなるたけ責任を持ちたくない。そういうことから、どうもいまの三つの骨子というものがだんだんゆるめられる、こういうふうな印象をわれわれは受けるわけです。

 たとえば、いま骨子の第一項にございます救急病院には事故に備えて医師が常時待機すること、待機することは何も病院でなくても自宅でもいいじゃないか。しかしながら現実にはやはり自宅で拘束されるわけですから、それぞれ拘束するについては手当を支給しなければならぬ。ところが自宅におれば経費の負担等はそのままでいいんだ、こういうふうな安易な考え方でおられるから、施設側では救急病院お断わり、こういうことになってくると思うのです。

 ですから常勤させてもらう。自宅でもけっこうだけれども、しかしいつでも待機しろとなる。ところがそれらについては経費的な手だてをするのだ、こういうことであればいいのですけれども、それらについては全然触れられていない。あるいはまた、夜中に事故が起こるということになりますと深夜勤務になるわけでございますけれども、それらの点については何らかの財政的な処置が行なわれるのかどうか。施設側は、それがために夜中に出てこなければならぬ、夜勤手当も出さなければならぬ、深夜手当も出さなければならぬということでございますけれども、それらの点については厚生省のほうでは何らお考えにならない。

 あるいはまたベッドの確保にいたしましても、三名収容したあとは結局全然確保しないということになりますと、もうその救急病院の機能の限度というものがきまってしまう。そうなると、四人目の事故者はどうするのだという問題があると思う。ですから、救急病院である以上、一定のベッドというものは優先確保してもらわなければならぬ。たとえば同じ地域に二つも三つも救急病院があればいいです。一つしかない。ところがその一つは三つだけ確保しておるから、あとは優先ベッドは確保せぬでもよろしいということになると、結局次の病院に行っても断わられる、その次の病院に行っても断わられる。

 これが二つ、三つありますれば、Aの病院で満床であればBの指定病院ということになるわけですけれども、地域的にそれぞれ指定病院というものは申請によって指定を受けるわけでございますから、従来はこの地域はこの程度の指定病院がなければならぬというようなことで、一種の適正配置というような点についても考慮されたわけでございますけれども、今日では必ずしも適正配置ということを考慮するわけにいかぬ。各個人が申請しなければ指定を受けぬわけですから、今度の省令によりますと、必ずしも指定病院というものを適正配置という形で配置するわけにいかぬ。こういう事情もあるわけですから、優先的に収容するベッドというものが確保されなければならぬ。

 そうだとするならば、やはりいまこのベッドの回転というものは、特に医療費問題で問題になっておりますように、物件費が高まって非常にいまの医業の経営というものは困難な状態でございます。そういう困難な状態の中でわざわざベッドをあけることについては、病院経営にも非常に大きな影響をもたらすわけでございますから、そのような事情であるならば、その収容のために優先するベッドについては何らかの手だてというものを考えなければならぬ、こう思うわけですけれども、それらについては何ら処置がされておらぬ。

 そういう事情が重なっておりますから、それぞれの機関というものは救急病院お断わりです。それはそれでいいとしても、結果的には、救急病院の指定というものが人命救助ということに非常に大きな役割りを果たすわけでございますので、そのためにとうとい人命を断つということになりますと、その責任というものは全部厚生省、政府側が背負わなければならぬ、こういうことになるわけですけれども、とにかく救急病院はつくらなければならぬ、金は出したくない、これは厚生省のけちな考え方です。そういうことで、せっかく法律が改正されても、立法の精神を生かすことはできぬと私は思う。この点は・・・いまの局長のような考え方では困ると思う。ですから、いま申し上げましたような諸問題を解決されぬ限りは、この問題を全国的に解決することは困難だというふうに考えます。

長いのですが、河野委員は救急病院を運営するには金がかかるという事をはっきり主張しています。河野委員の主張する救急病院は、おそらく本当の意味の救急病院で、溢れるぐらいの病床数と豊富なスタッフを抱えたものを念頭に置いている気配があります。そういう救急病院ができれば「たらい回し」の悲劇は根絶しますし、患者の救命に大きな役割を果たすに違い無いと言う事です。河野委員の理想はそこにあって、さすがに一度には無理だがそこに出来るだけ近づけた救急病院を整備したいとの考えと思います。

ただしそんな救急病院を作るにはお金がかかる。既存の病院を転用するにしても救急指定を引き受けただけで、三つの柱を整備するのだけにもお金がかかる。それを法令一つで形だけ整えようとしている厚生省への峻烈な批判と解釈します。今に通じる批判が質問の中にあります。

    「とにかく救急病院はつくらなければならぬ、金は出したくない、これは厚生省のけちな考え方です。」
この言葉は今でも少し字句を入れ替えればいくらでも使えそうです。さらに質疑は続きます。

河野(正)委員
 大体厚生省の救急病院そのものに対する考え方が間違っておるのです。その点、私は具体的にひとつ指摘をいたします。

 それは、この省令をつくりまして、その第一条の第一号に、救急病院及び救急診療所における医師に関しての規定がございます。これを拝見しますと、「事故による傷病者に関する医療について相当の知識及び経験を有する医師」、そういう医師とは、救急医療に関し必要な知識及び経験を修得するのに適した医療機関において、免許取得後相当期間外科診療に従事した経歴を有する者またはこれと同程度以上の知識及び経験を有する者とする、こういう規定になっておるわけです。

 ところが、救急病院に収容する患者には単に外科だけの技能を習得しておけばいいのかどうかという問題ですよ。私は、救急医療というものに対する厚生省医務局の根本的な考え方が間違っていると思うのです。それは都市の中で交通事故にあう人もあるでしょう。あるいは脳溢血でひっくり返る人もあるかもしれぬ。あるいは心臓が悪くてひっくり返る人がおるかもしれぬ。これは都市における救急患者というものが、単なる外科的な患者だけではないということですね。

 ところが、医師の選定については、外科に関する技術を習得すればよろしいのだ、ここに私は問題があると思うのです。それならば、内科の医者は、非常に技術のすぐれた医者というものが救急病院の指定を受けられるのかどうか。それは私は、救急患者に対する認識というものが誤っていると思うのです。・・・救急患者というものは、必ずしもけがした者ばかりではない。脳溢血でひっくり返る者もおる。あるいは心臓が悪くてひっくり返る者もおる。てんかんでひっくり返る者もおる。いろいろひっくり返る者がおるのですよ。・・・それを単に、救急患者というものはあたかも外科ばかりの患者だ、こういう認識のしかたをしているところに私は問題があると思うのです。この辺に、私どもが今日取り上げておる根本的な問題点があると思うのです。そういう認識でこの救急病院の問題が出発しておるわけですから、第一正しい方向になんて行くはずがないのです。・・・そういうところに、私は非常に大きな問題があると思うのです。ですから、やはり私は、救急病院についてはもう少し考え方を根本的に改めてもらわなければいかぬ、こういうふうに考えます。この点についてひとつ率直な御意見を承りたい。

この質問を見て初めて知ったのですが、現在の救急病院等を定める省令にある「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師」と言うのは1964年に法律が出来た段階では「事故による傷病者に関する医療について相当の知識及び経験を有する医師」であったようです。さらにその条件は具体的には「救急医療に関し必要な知識及び経験を修得するのに適した医療機関において、免許取得後相当期間外科診療に従事した経歴を有する者またはこれと同程度以上の知識及び経験を有する者」ともなっているようです。

少し驚いて調べなおしたのですが、現在では1987年に救急病院等を定める省令の一部を改正する省令の施行があり、奈良救急事件でも話題になりましたが、 現行法が出てきましたので記載します。

  1. 救急病院等を定める省令(昭和三十九年厚生省令第八号、以下「省令」という。)第一条の申出は、救急業務に協力する旨及び同条各号に 該当することを明らかにした書面に当該病院又は診療所に関する必要 な事項を記載した書類を添付して行うものとするが、当該申出は、当 該病院又は診療所の所在地を所管する保健所長を経由して行うこと。

    保険所長は、申出があった場合、消防機関、医師会等の意見を聴いて、都道府県知事に進達すること。

  2. 省令第一条の各号に該当することを認めるための審査に当たっては、次の事項に留意すること。


    1. 省令第一条第一号は、救急医療を要する傷病者に対して迅速に適切な医療を行いうるよう、救急病院及び救急診療所における医師に関して規定したものであること。

      救急医療について相当の知識及び経験を有する医師とは、救急蘇生法、呼吸循環管理、意識障害の鑑別、緊急手術要否の判断、緊急検査データの評価、救急医薬品の使用等についての相当の知識及び経験を有する医師をいうものであること。

      また、常時診療に従事するとは、医師が病院又は診療所において常時待機の状態にあることを原則とするが、搬入された傷病者の診療を速やかに行いうるよう、施設構内又は近接した自宅等において待機の状態にあることもこれに含まれるものであること。

    2. 第一条第二号は、救急患者の多様な傷病に即応して、適切な診療が行われるよう救急病院及び救急診療所の施設設備について規定したものであること。

      エックス線装置とは、透視及び直接撮影の用に供しうる装置とし、輸血及び輸液のための設備とは、輸血のための血液検査に必要な機械器具を含むものとすること。

      その他前号の医療を行うために必要な施設及び設備とは、除細動器、酸素吸入装置、人工呼吸器等であること。

      なお、外科等を標榜する病院については、医療法上手術室が必要であること。

    3. 省令第一条第三号は、救急隊によって搬送される傷病者を迅速かつ円滑に救急病院又は救急診療所に搬入しうるよう、その所在地の状況、建物の構造等について定めたものであること。

      傷病者の搬送に容易な場所に所在するとは、救急車が通行可能な道路に面している等救急車による搬送が容易な場所に所在することであり、また、傷病者の搬入に適した構造設備とは、病院又は診療所内において傷病者を担架等により容易に運ぶことのできる構造設備を意味するものであること。

    4. 省令第一条第四号は、救急隊によつて搬入された傷病者等が優先的に収容されうるよう、救急病院又は救急診療所の収容能力について規定したものであること。

      専用病床とはいわゆる救急病室の病床等、専ら救急患者のために使用される病床であり、優先的に使用される病床を有するとは、専用病床は有していないが、救急患者のために一定数の病床が確保されている状態を意味するものであること。

      この規定は、通常、救急隊により搬入された傷病者を実際に収容しうることを期待する趣旨であるから、たまたま直ちに収容して診療する必要がある他の患者がいるため、救急隊の搬入した傷病者を収容しえない場合があつても、同号の規定に該当するものと考えられること。なお、このような場合においては、あらかじめ、救急医療情報センター又は消防機関に傷病者を収容し得ない状態にある旨を連絡するよう指導すること。


  3. 省令第一条本文の都道府県知事が勘案する事項は次の内容であり、これらの事項を勘案し認定すること。


    1. 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の三第1項に規定する医療計画の内容とは、休日診療、夜間診療等の救急医療の確保に関する事項について、医療計画に記載されたものであること。また、この事項として、救急隊による傷病者の搬送先とする医療機関名が記載されている場合は、記載があった病院又は診療所を認定すること。
    2. 当該病院又は診療所の所在する地域における救急業務の対象となる傷病者の発生状況等とは、当該地域の救急隊による搬送件数、夜間・休日における診療件数の実績、当該地域の救急病院・救急診療所の状況等のことであること。

  4. 2及び3による審査に当たっては、消防機関、警察本部、医師会、救急病院等の関係者、学識経験者等の意見を聴くよう配慮すること。なお、そのための方法として、救急医療対策協議会を活用する方法や消防機関、警察本部、医師会、救急病院等の関係者、学識経験者等から成る認定審査会を設けることも考えられること。ただし、医療計画に救急隊による傷病者の搬送先として記載された医療機関を認定するときは、この限りでないこと。


  5. 申出について審査の結果、救急病院又は救急診療所に認定した医療機関については、省令第二条により、速やかに告示するとともに、当該医療機関、警察本部、関係市町村(消防機関を含む。)等にその旨を通知すること。

    なお、救急病院又は救急診療所の認定は三年ごとの更新制とされたので、三年経過後も救急病院又は救急診療所として継続する場合は、更新の申出が行われるよう指導すること。

  6. 救急病院及び救急診療所が第一条各号に該当しなくなったとき又は同条の申出が撤回されたときには、第二条の規定により、その旨告示することとなるので、救急病院及び救急診療所の省令第一条各号の適合状況の把握に努めること。

  7. 救急病院等を定める省令の一部を改正する省令(平成十年三月二十七日厚生省令第三十六号)の施行の時点で、既に救急病院又は救急診  療所として告示されている医療機関については、改正前の省令に基づ  いて認定された日から起算して三年間は、引き続き救急病院又は救急診療所としてみなされること。

  8. 医療計画に救急隊による傷病者の搬送先として記載された病院又は診療所については、省令第一条による申出を行うよう指導すること。

えらい長い引用でしたが、河野委員の指摘した救急病院の救急担当医が外科医だけで事足りるかの指摘は、23年後になってようやく改正されたという事です。そうなると1987年以前に内科系の医師がもし救急担当医であればそれだけで法令違反だったわけですが、実際の運用ははたしてどうだったのでしょうか。

少し寄り道をしてしまいましたが、

尾崎説明員

 救急医療につきましては、将来の問題といたしまして、お話のような全般の救急医療にしていきたいということは私たちも思っておるものでございます。ただ、先ほどから申しておりますように、救急医療の発展経過といたしまして、お恥ずかしいことでございますが、厚生省がいままでほとんど手をつけていなかった。それを今度、消防法の改正によりまして、消防法のうちの医療関係をわれわれが担当するように一本入ったわけであります。

 それで、消防法におきまして、第二条に、消防法によります救急業務というのは、災害による事故とか、屋外もしくは公衆の出入りする場所において生じた事故、こういうような一応外科的な事故に考えてあるわけでございます。そういうような規制が消防法及びそれに伴います今回の措置に一貫して流れておるわけでございまして、そういうところから外科系統がおもになった考え方がせられております。これで第一歩を踏み出しておりますが、確かに、お話のような偏向と申しますか、片寄りができてくる可能性があるように思います。

 われわれといたしましては、いまお話しの裏づけの問題と一緒に、一般の内科的の医療事故に対してどうするか、その他、夜間とか日曜とかの事故、病気に対しての対処というような問題に将来これを発展さしていくように努力していきたい、こういうように思っておるものでございまして、いまは経過的の片寄りだういう点を御了解願えれば幸いだと思います。

厚生省も救急病院ができたときには外科救急しか念頭に置いていなかったことがわかります。また外科救急以外については

    「一般の内科的の医療事故に対してどうするか、その他、夜間とか日曜とかの事故、病気に対しての対処というような問題に将来これを発展さしていくように努力していきたい」
となっており省令の改善経過から考えると1987年までは基本的に触れていなかったとも解釈出来ます。

河野(正)委員

 そういうことを言われるから了解できぬわけですよ。というのは、いままで消防法の中で処理されておったから、厚生省がこの問題にタッチできなかったということ自身に非常に問題があるわけですね。むしろ私は、いままで厚生省が積極的に、消防であったなら厚生省の所管として取り上げるというくらいの積極性がなければならぬと思うのです、これは人道上きわめて重大な問題ですから。

 それからもう一つ、たとえば消防法の中で、災害とか屋外、公衆の出入りの激しいところということをいっても、何もそれは外科的疾患ばかりが出るわけではないのです。やはり災害の場合でも脳貧血を起こす人もおるし、あるいは脳出血を起こす人もおるし、あるいはまた狭心症を起こす人もおる。屋外、公衆のたくさん出入りするところでも、脳貧血を起こす人もおるでしょうし、脳出血を起こす人もおるでしょうし、あるいはてんかんを起こす人もおるでしょう。外界の刺激が激しいですから、そういういろいろな病気が出てくるわけです。

 ですから、そういう考え方だったのでいままで外科的疾患ということに重点が向けられた、そういうお答えですけれども、そういうお答えが間違っていると私は言うのですよ。私は過去のことは問いません。問いませんが、その辺に問題の根本の相違があったわけですから、やはりこの際十分反省するものは反省するというかっこうで、今後、いま私が指摘したような諸点については、厚生省も一姿勢を正して対策を確立される必要があろうと思うのです。この点はひとつ大臣から率直にお答えを願いたい。

例の新人だから良く分からないの発言をした大臣の答弁が最後を締めくくります。

神田国務大臣

 河野委員のいまのお考えは、私は全く同感でございます。そういう趣旨に沿って措置を進めてまいりたいと思います。

屋上屋を重ねるようですが、この質疑応答をサマリしますと、

  1. 厚生省が1964年に救急病院の業務として想定したのは外科救急であり、とくに交通事故をかなり意識したものである。内科系救急はまったく考慮していない。内科系にまで救急の定義が拡がったのは1987年以降と考えるのが法令的には妥当である。
  2. 1964年時点では救急担当医の資格条件はもとより、設備要件、空床条件は極めてハードルが高く、救急病院指定に難色を示す病院が多かった。
  3. 救急病院数が増えないため厚生省は数合わせのために救急病院の条件を大幅に緩めた。
  4. 1964年時点でも制度を厳格に適用した救急病院、内科系も充実した救急病院をを求める声があり、国会質疑までなされているが、厚生省は頭数路線をひたすら推進した形跡がうかがえる。
長いお話にお付き合いくださりありがとうございます。これを全部読む人間なんているのかな〜。