救急医療の基礎知識

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ところで救急医療の負担が医療危機の側面であるという意見は根強くあります。私もそう思います。この救急医療を巡る基礎知識を少し調べてみたいと思います。救急医療と言えば救急病院となるのですが、この救急病院の根拠となる法律をほじってみます。大元は救急病院等を定める省令(昭和三十九年二月二十日厚生省令第八号)から発せられています。さらにその法律の冒頭にはこう記されています。

消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第二条第九項 の規定に基づき、救急病院等を定める省令を次のように定める。

そうなれば消防法第二条第九項が何かという事になります。どうもここに救急業務の定義が書いてあるようです。

救急業務とは、災害により生じた事故若しくは屋外若しくは公衆の出入する場所において生じた事故(以下この項において「災害による事故等」という。)又は政令で定める場合における災害による事故等に準ずる事故その他の事由で政令で定めるものによる傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急隊によつて、医療機関厚生労働省令で定める医療機関をいう。)その他の場所に搬送すること(傷病者が医師の管理下に置かれるまでの間において、緊急やむを得ないものとして、応急の手当を行うことを含む。)をいう。

この第二条第九項は結構具体的に書いてありまして、対象者も明記してあります。読めばそのままなんですが「災害による事故」が対象となっています。消防署の救急隊が出来た時の出動目的は「災害による事故」のためであり、決して急病時のためでなかったことがわかります。この法令自体の解釈の変化はあるかもしれませんが、元の消防法第二条第九項自体に改正が無いとすれば、現在でも「災害による事故」以外の救急隊出動は法令に必ずしも基づかない出動という事になります。

一方で救急病院は第二条第九項での救急隊の搬送先に関しての整備を書いてあると解釈できます。1964年に救急病院等を定める省令が出来ていますが、時代背景を考えると「災害による事故」のうち交通事故が急増した時代であり、急増する事故に対して受け入れ病院が十分でなく整備の必要に迫られてのものではなかったかと考えます。

でもって救急病院になるための設備条件というのが書いてありまして、

  1. 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること。
  2. エツクス線装置、心電計、輸血及び輸液のための設備その他救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること。
  3. 救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有すること。
  4. 救急医療を要する傷病者のための専用病床又は当該傷病者のために優先的に使用される病床を有すること。
この条件を満たしておれば、救急病院であるとして都道府県知事に届け出る事が出来るとなっています。どうもこの救急病院の整備条項も1964年から変わってないらしく、5年ほど前に勤務病院が救急病院になると運動したときにも同じ文面を見た気がします。「その他救急医療を行うために必要な施設及び設備」と言う文面に含みがありますが、具体的に書かれている救急医療のための必要設備は「エツクス線装置、心電計、輸血及び輸液のための設備」となっており、1964年当時ではこれぐらいでも先進装備であったのかもしれません。

つまり救急業務とは本来「災害による事故」による傷病者のみが対象であり、救急病院とはそういう傷病者を受け入れるための機関である事が分かります。これは基本的には法令上変わっていないと読めます。現在の実際の運用はともかく、救急業務とは非常に限定された傷病者のために整備されたものであることが分かります。

限定された対象を想定した救急業務であるためか、救急病院の設備条件にもあまりうるさい事は書いてありません。救急病院等を定める省令は1964年施行の法令ですから、当時としては「エツクス線装置、心電計、輸血及び輸液のための設備」はそれなりの先進設備であったかも知れませんが、当時であってもこの程度の設備は入院病棟を抱える医療機関なら通常は整備されていたんじゃないかと思いますし、比較的容易に整備する事も出来たと考えます。

どうにも法令が出来た時には救急医療は稀に起こるものであり、稀に起こる時のみに対処できる用にのみ整備されたんじゃないかと考えられます。稀は言い過ぎとしても頻度が低い医療のための整備ですから、法令に人員要項を加えていないとも考えられますし、当時は現在と違い本当に物理的に医師が少ない時代だったので、人員要項でハードルを高くすれば参加できる医療機関がほとんどなくなる危惧もあったかと考えます。

救急病院等を定める省令が出来た頃の時代背景が本当はどうであったとか、救急病院をめぐる論議が当時あったかどうかも私にはわかりませんが、今でもそうである救急病院の根拠となる法令を読むとさほどの仕事量を想定していると思えません。そして現在ですらこの法令に基づく程度の設備の救急病院は数多くあります。ここに現在の救急医療の問題点が内包されているような気がします。

基礎知識を軽くおさらいして出来れば明日に続きます。