思いつきですが・・・

医療危機の問題の中に医療訴訟があります。危機は医療訴訟だけが問題なのではありませんが、医療訴訟も大きな問題の一つである事は間違いありません。医師の頭上に垂れ込める暗雲のように広がり、ヒシヒシと重圧をかけています。医療訴訟対策はモトケンさんのところで熱心に論じられています。私もROMして流れについていくのがやっとですが、論議の質は知る限りもっとも高いと思います。ここで話されている内容は正論として非常に重要なものだと考えています。

私が後追いしてこのブログで2番煎じをするのは、パワーの分散になるので出来るだけ避け様としているのはご存知の通りです。とは言え医療訴訟問題のすべてをパスしては、うちのブログもネタに困りますから、微妙にスタンスを変えながら話を紡いでいるところです。

医療訴訟で医者が何が困るかと言えば、

  1. 訴訟を起されただけで精神的ショックが多大である。
  2. 業務を中断して訴訟に関わらないといけない。
  3. マスコミ報道になれば、訴訟が起されただけで実質的な社会的制裁が行なわれる。
  4. 勝訴しても人間に不信感が募り、敗訴すれば医師生命自体が危ぶまれる。
ざっとこれぐらいかと思います。他にもあるでしょうが、今朝書きながら思いついたのがこれぐらいです。簡単に言えば訴訟なんかには絶対関わりたくないのが一番の本音です。そうは言っても訴訟は誰でも自由に起こせるのが民主国家の権利です。これは手厚く保障されています。医療はその高度の専門性から少し枠外におくべきだの議論は貴重ですが、それが実現される日はまだまだのようです。

誰でも不満を感じれば自由に訴訟を起せるのが揺るがせないルールであるなら、訴訟に関わりたくない人間はどうしたらよいか。訴訟に関わる可能性がある行為を極力避ける事です。そのためネットの医師の間にEBMならぬJBMなる言葉が流布しています。うちのブログでも何回か使いましたが、改めて説明しておきます。

    EBMとはEvidence-based Medicineの略で、Evidence即ち医学的根拠に基づいた医療の意味です。医療の基本的な考えで、カンや根拠のない経験に基づく医療を行なうのではなく、出来る限り証明された医学的根拠に基づいて医療をすると言うぐらいに考えてもらえれば良いかと思います。
    JBMとはJudgement based Medicineの略で、Judgement即ち判例に基づいた医療の意味です。訴訟対策から生まれた隠語で、医学的根拠はともかく、ある診療行為が訴訟で違反と判決されたなら、その医療行為は避ける医療をすると言うぐらいに考えてもらえれば良いかと思います。それは医学的に正しくないかどうかの議論を超越したものになります。

ネットの医者ではもう隠語の段階を越えた常用語に近いものです。常用語なんですが、少しググッてみましたがこれをある程度まとめたサイトが見つからないのです。できればこれをまとめたものを作りたいと考えています。

作る目的なんですが、こんな事まで訴訟沙汰になり、なおかつ医療側が敗訴になっている事を医者も知っておき、医療訴訟から身を守る術の一つとする事があります。非常に後ろ向きの対応ですが、医療訴訟は医師にとって対岸の火事どころか、近所の火事状態で、いつ自分のところへ延焼してくるかわからない現況なので、悲しいですが必要な知識かと思います。

もう一つはJBMの元になる判決を行なう司法への対抗策です。TOM様から頂いたコメントにこんな一説がありました。

    やっぱり裁判官もマスコミも、「誤審」「誤報」に対してペナルティ負わせないとダメなんでしょうね。Yosyan先生始め、多くの医師が必死で検証作業を続けていても、向こうは言いっぱなし、垂れ流しっぱなしであとからあとから沸いて出るのではキリがない。
そもそもこれを読みながら思いついたのですが、「向こうは言いっぱなし、垂れ流しっぱなし」であるのが問題なんです。もちろん司法では裁判官の判断は原則不可侵であり、判決に不満があれば上級審で争う権利はあっても、その判決を下した裁判官を直接どうこうする事はできません。直接は無理でも間接的には可能でないかと考えます。

うちに頂いた法曹関係者のコメントにもありましたし、モトケンさんのところの論議にもあったかと思いますが、とくに民事訴訟では法廷にいる当事者の利害関係の調節が第一の主眼に置かれるそうです。もちろん判決による社会的影響を無視するわけではありませんが、これはどちらかというと二義的な扱いになる事が多いそうです。

二義的といわれても判決がでると医者は縮み上がります。影響は多大です。ただしその影響を裁判官も患者も知りません。判決の影響が患者の治療に直接影響を及ぼしている事、医療崩壊に拍車をかけている事を知りません。そうならばJBMになる医療訴訟判決が出れば、裁判官の名前入りの判決文のコピーを手にして、即座にJBM該当の治療行為を拒否する行動を起したらどうだろうかと思います。

判決文は公開される物でしょうし、司法によって公式に裁定された行動を行なうのですから、公序良俗に反するわけではありません。むしろ判決内容に反する行為を行う方が反社会的行為と言えます。全国である一定の規模で同時期に行なわれれば、嫌でも混乱は起こるでしょうし、混乱が起こればマスコミネタになります。

医者叩きが身上であるマスコミも、そう簡単には医者が叩ける根拠が見出せないと考えます。回りまわってですが、JBMのタネになる判決を下した裁判官の耳にもはいる事になり、自分の行なった判決がどれほどの社会的影響があった事を知る事になると考えます。当該裁判官だけではなく、他の裁判官にも心情的に影響を及ぼす事は十分考えられます。

このやり方で残念なのは患者に影響が出ることです。戦術的なものを考慮に入れると、患者に極力影響が少ないものを選択するのが望ましいと考えます。見た目の混乱は大きくとも患者への影響が少ないJBMが入手できれば、医療訴訟への医師側の対抗策のひとつになるんじゃないかと思います。

もっともこれは単なる思いつきですし、私がここで笛を吹いたぐらいで誰も踊るわけでもなしです。一つの与太話とお笑いください。