実話の裏付け

m's blogを主催されている管理人様から首都圏の周産期医療の危機を象徴するコメントを頂いた事があります。再掲させて頂きます。

私が知っている医者から直接聞いた話です。

昨年の今頃、緊急帝王切開の妊婦さんが群馬か栃木 (どちらだったかは残念ながら記憶にありません) からヘリで山梨の県立中央病院に搬送されるということがありました。たしか平日の午後のことだったと思いますが、胎児がNICU管理する必要がある帝王切開で、その県の施設が満床で対応できずに搬送先を探したそうです。関東地方の他の都県、埼玉・千葉・東京・神奈川などの施設をあちこちコンタクトをとったものの全て断られ、甲府まで長距離ヘリで搬送されることとなりました。

休日とか時間外ならともかく、平日の昼間に都内や神奈川の施設を全部断られるとは、とびっくりしたのを覚えています。

あの時はいくつか厳しい実例を頂いていたのですが、このコメントだけが完全に伝聞でしたので、話の内容の凄さを裏付けるものがあればより有効な情報になるのにと残念に思っていましたが、m's blog様は独自に調査された上、ソース元になる記事を見つけ出されました。ご努力に頭が下がりましたので、当ブログでも掲載させて頂きます。記事は2006年4月22日付の毎日新聞です。

超低出生体重児:双子の女児、群馬の両親と再会 「あかふじ」が命のリレー /山梨

 県立中央病院(甲府市富士見1)で昨年11月に誕生した超低出生体重児の双子の女児が21日、県の消防防災ヘリ「あかふじ」で両親の住む群馬県へ搬送された。出生時に設備の整った病院の空きがなく、母親がヘリで甲府市まで搬送され誕生。すくすくと育ち、5カ月ぶりに両親が待つ故郷に帰った。県消防防災課によると「あかふじ」は重篤患者や臓器移植患者を搬送したことはあるが、新生児の搬送は初めてだといい、「命のリレー」の最後を飾る出番に関係者も誇らしげだった。

 昨年11月18日、帝王切開の必要な母親が群馬県からヘリで甲府市に搬送された。十分に胎内で成長していない超低出生体重児を治療できるNICU(新生児集中治療室)の空きが同県内の病院になかったためで、搬送先の県立中央病院で生まれた時の体重はそれぞれ756グラムと554グラムだった。

 約5カ月が経過しそれぞれ1500グラムほどまで増え、両親のいる群馬県への搬送が決まった。救急車は揺れもある上に4時間ほどかかるため、ヘリでの搬送が決まった。

 双子は同病院の医師と看護師に付き添われ病院屋上のヘリポートを午前10時に出発、約35分後に群馬県渋川市に到着し、同11時半ごろに両親と無事再会を果たした。

コメント内容をほぼ裏付けています。事件は群馬県でまず発生しています。細かい事情は書いてありませんが、双胎の産婦がおそらく切迫早産になったのではないかと思います。切迫早産ではなく胎児仮死の徴候が出てきたのかもしれません。いずれにせよ超未熟児の緊急帝王切開が突然必要になった事だけは分かります。

記事では群馬県内の病院で受け入れられるNICUが無かったためとなっていますが、受け入れ施設の探す順番が群馬の次が山梨とは思えません。当然近隣の栃木や埼玉、その次には東京や神奈川を探すのが普通かと思います。そうであったとのコメントは地理的事情から妥当性があります。それと平日であるとの裏付けも昨年の11月18日が金曜日ですから間違いありません。時間が記事には明記されていませんが、コメントにあった午後をとくに疑う必要性は低いかと思います。深夜を昼間と話を膨らます必然に乏しいと考えるからです。

それにしてもこの毎日新聞の記事は肝腎の事をすべてスルーしている事に驚かされます。記事の本旨は山梨から群馬に新生児が帰還するのもヘリだった事に力点が置かれています。帰りもヘリだった事は少々驚きましたが、この事件の問題点はそんなところではありません。しつこいようですが敢えて列挙します。

  1. 平日の午後であるにも関わらず関東でNICUに二人受け入れる余力がなかった。
  2. 結果として群馬から山梨までの長距離ヘリによる母体搬送を余儀なくされた。
奈良事件で搬送先を探すのに2時間かかった事に猛烈な批判が寄せられていますが、この事件ではどれぐらい必要だったのでしょうか、どう考えても同等の時間を要したと考えます。奈良事件では大淀町から国循までの60kmを救急車で1時間でぶっ飛ばしていますが、産婦の長距離ヘリ輸送がそれと較べて安全性はどうかという問題もあります。

奈良事件との相違は奈良では産婦が不幸にも子癇から脳出血を合併しており不幸な転帰をたどったことであり、群馬の事件では結果オーライであったことです。結果オーライであったから長距離ヘリ輸送を成功として讃えるのではなく、非常な危険を冒して産婦の長距離ヘリ輸送を行なわざるを得なくなった事を問題視するのが正論のような気がします。

そこを問題視してこそ施設整備の追い風になりますし、そうする事が長距離搬送を防ぐ事になり、出産の安全性が少しでも高くなります。首都圏の周産期医療の整備にキッカケとなる重要な事件を矮小化してしまったことを残念に思いますし、首都圏で整備の大号令がかかれば自然に地方に波及しますし、引いては奈良の悲劇をもう少し違う様相にできた可能性を考えると本当に惜しいように思います。