新組織論の提案

昨日は遂にエントリーが更新できませんでした。原則として診療がある平日は連日更新していたのですが、こんな事は2度目です。言い訳だけしておくと、朝に書くのが習慣なんですが、昨日はいつも以上に話がまとまらなくて診察に突入。診察も連休の谷間だったので4時間お休み無しで大忙し、それでも午後はお休みなので腰を落ち着けて書こうと思ったら、突然親戚のご不幸の電話。バタバタと用意してとりあえず通夜へ・・・結局書く暇がなくなってしまいました。せめて今日書こうかと思って、昨日書き始めていたバックアップを見ると綺麗に消えていました。バックアップはシンデレラシステムなのを初めて知りました。

今日はうちにも来ていたコメント。長いので全文は再掲しませんが、良ければ道標主人様のエントリーをご参照ください。道標主人様のところでもご意見を頂きましたが、どう評価しようかなってところです。具体的な活動目標の部分をピックアップします。

  1. ネット上で、臨床医が連帯する
  2. 頭として、武見太郎のようなカリスマを押し立てる
  3. 全国の病院の待遇、勤務実態に関する情報を共有する
  4. 医療経済学者、官僚との議論、話し合いの場をもつ
  5. 医療崩壊の情報を、国民に、真摯な態度で提供する
この目標の達成の為により具体的な提案をしております。
  1. ここ数ヶ月で、とくに10月以来急速に進んでいると思います。
  2. 本田宏先生に期待いたします。
  3. m3上に、情報を集積するスレッドを立ち上げましょう。m3が、行政の圧力に屈しないことを信じて。
  4. ぜひ、本田先生に交渉をお願いしたい。本田先生の「医療制度研究会」がその機能をはたされるかな。
このコメントを書きこまれた方は、ある程度本気であると仮定して考えてみます。医者とくに勤務医の新組織論は何度かやったので、それに従って分析してみます。私が考えている新組織結成のための必要条件をまず挙げてみます。
  1. 表看板たる顔が必要。これは信用と同義語となり、その人物の指導で医者の足並みがそろうぐらいのカリスマ性が欲しい。
  2. ネットだけのバーチャルな組織では駄目で、実体化した組織が核として必要。
  3. 核となる組織は専従のメンバーが必要であり、診療の片手間では出来ない。
  4. 組織を支える豊富な資金源が必要。
他にもあるでしょうが、最低限この程度は必要です。今回の提案では本田宏先生を表看板とし、核になる組織として医療制度研究会を考えているようです。本田先生も良く存じ上げませんし、医療制度研究会も初めて聞く組織ですが、とりあえず条件は整っています。資金源として会費を考えているようで、2000万とか1億円ぐらいを目標にしていますが、正直なところ「少ないな」という感想です。その程度の資金ではたいした運動は難しいでしょうが、これも運動が広がればもっと増えていくと考えているのでしょう。

この提案が実を結ぶには、一にも二にも本田先生がどれほどの支持を集められるかにかかっている考えます。この新組織結成の目的はなかよしグループを作る事ではありません。医療制度の改革を国と正面切って争う戦闘的な組織です。そういう組織では指導力が非常に重視されます。言ってしまえば本田先生の一言で、組織に属する医者が一糸乱れず行動できるほどのカリスマ性が要求されます。

つまりこの新組織では考えるのは長たる本田先生一人であり、他の組織員はその命令を無条件に聞き入れる独裁的な性格が必要という事になります。それぐらいの強権性がないと国とは到底戦えません。もちろん長たる者は組織がそう動くように巧妙にコントロールする能力に卓越していなければなりません。考えるのは本田先生一人と言いましたが、一人では無理があるのでそこに有能な側近グループが必要です。つまり本田先生及び一部側近グループに組織員は全権を委任する必要があります。全権を委任するに相応しいカリスマ性と卓越した指導力、巧妙な計画力を求められます。

それがあるのか無いのか判断する材料が私にはありません。この辺はまた情報を収集してみたいと思います。

新組織論でいつも問題になるのは日医との関係です。こういう新組織論は現在有力な組織が無いに等しい、勤務医の組織として想定されます。開業医には日医があるとの前提からだと考えています。仮に新組織結成がある程度軌道に乗ったとして、その先の展開はどうなるでしょうか。二つの進路が考えられます。

  1. 対立しながら並立する。
  2. どちらかに吸収され一本化する。
a.になる事を懸念する識者が多くおられます。勤務医 vs 開業医の対立構図は国にとって利するところが多すぎるという考えです。権力とは政治力であり、政治力とはどれほどの票を選挙で動員できるかであるという事です。医者の総数は25万人程度ですから、これが二つの組織に分裂すれば政治力は弱体化するうえに、二つの集団の利害対立を巧妙に利用されるだけではないかという懸念です。

b,になり、なおかつ新組織優位で一本化するのであれば、長年の課題である日医改革が断行され、新組織も日医の豊富な資金源を手にする事が出来ます、ただし日医がそう簡単に新組織の軍門に下るとは思えません。一本化するまでに相当な闘争が続く事が予想されます。この闘争期間中も激しい利害対立が起こるわけですから、国にとっては好ましい状況です。一本化闘争の勝者になるために、どちらかが国に擦り寄る事は容易に考えられます。

勇ましい新組織論は嫌いではありません。私自身も新組織構想を机上ではありますが何度か練ったことがあります。ただ国と真剣に争うのであれば、医者の組織は一本化している方が望ましいと最近考えています。勤務医の皆様が嫌いな日医結集論です。折角の組織をスクラップにするよりも再生する方が可能性があるんじゃないだろうかと言う事です。

今の日医は開業医ですら人気が急落しています。とても頼れる組織でなさそうと感じるからです。それに日医には医者からも世間からも様々なレッテルを貼り付けられています。レッテルの中には烙印としか見えないものもあります。それでも堂々たる大組織である事だけは間違いありません。

日医改革の最大の鍵は会長直接選挙であると考えています。これがもし実現すれば、勤務医が大挙して日医に入会し、それこそ本田先生を会長に据える事も夢ではないのです。別に日医に勤務医が入会したからといって、普段の活動に参加する必要も無いですし、投票権だけを確保していれば誰でも会長に選出できるからです。

日医は勤務医に冷淡であるとの声は多いです。確かにそんな面は歴史的経緯からもあります。それは日医にとって勤務医を冷遇しても痛くも痒くもなかったからです。しかし会長直接選挙となれば、勤務医の票の動向が選挙結果を大きく左右します。動向を左右する勢力となれば、冷遇なんてしておれません。

ただし直接選挙の導入は、代議員制による代表が導入を決議する必要があります。そうしない限り制度が変わりません。そこを考えると見通しがあっと言う間に暗くなります。代議員の考えが変わるには、日医の求心力の低下を深刻に受け止め、回復の切り札として清水の舞台から飛び降りる決心が必要です。それこそ間接選挙で選ばれている会長にカリスマが現れ、その会長の主導で直接選挙への道が開かれないと無理かもしれません。

それにしてもなんですが、新組織を結成するにしても、日医を改革するにしても、年単位の時間がどちらも必要な気がします。一方で医療崩壊の速度はますます早くなっていますので、私の感じではどちらも間に合わ無いような気がします。間に合わないは誤解を招く表現ですが、崩壊が誰の目にも明らかになるぐらいの段階にならないと結局進まないと考えてしまいます。

杞憂であれば良いのですが・・・