東京事情

東京も首都圏の事も良く知らない私が東京の事を書くのは大任過ぎたような気がします。それでも書き始めたからにはそれなりに進まないと行けませんので、スタンスはあくまでも外部(内部から見るのは不可能なもんで・・・)から見た印象とします。

東京を知らない辛さはchaimd様から頂いた情報分析が十分に出来ない事です。コメントを再掲します。

×都立母子保健院 - 世田谷区
 閉院

×東京臨海病院 - 江戸川区
 小児科救急診療体制 完全休止のお知らせ
 http://www.tokyorinkai.jp/gairai/f_1.html#12

×国立東京災害医療センター
 平成18年11月1日より小児科常勤医が不在になります。
 http://www.hosp.go.jp/~tdmc/sin_syouni.htm

×佐々総合病院
 小児科当直終了のお知らせ
 http://www.sassa-hospital.com/newpage/oshirase.html

×多摩南部地域病院 - 多摩市
 救急医療(小児科:当番日のみ)
 http://www.tamanan-hp.com/contents/top/syokai/kyukyu/kyukyu.htm
 ※現在入院は休止しております。
 http://www.tamanan-hp.com/contents/top/kasyokai/09_syoni_ka/syoni_ka.htm

▲町田市民病院
 夜間に深刻、小児科医不足(町田市)
 http://blog.l-care.net/?eid=483016
 風の噂では北里大学の応援を受け、医師会の診療所が深夜帯まで一次をカバーするようになったとの事です。

▲都立八王子小児病院 - 八王子市
 平成21年度をもって閉院予定。既に撤退開始の噂も。

▲都立清瀬小児病院 - 清瀬市
 平成21年度をもって閉院予定。既に撤退開始の噂も。

▲公立昭和病院 - 小平市
 ◆医師募集◆ !!小児科医師・医長募集!!
 http://www.kouritu-showa.jp/cgi-bin/pageedit/page_detail.cgi?id=10047
 だそうです。実際、そんな噂も耳に入ってきます。

青梅市立総合病院 - 青梅市
 頑張っていますが、相当きついらしいです。「西多摩で唯一の小児休日全夜間診療病院として、24時間365日対応している。1次救急から3次救急まで受け入れ可能だが、あくまで救急対応であって、“24時間オープンのコンビニ診療所”という訳ではない。」
 http://www.mghp.ome.tokyo.jp/syouni.htm

◎多摩北部医療センター - 東村山市
 平成17年より、小児二次救急開始。

◎国立成育医療センター - 世田谷区
 太子堂にあった国立小児病院が、国立大蔵病院と合併移転してできたナショナルセンター
 溢れるマンパワーで一次から三次まで受けるも、既に飽和か。

番外:東京西徳洲会病院 - 昭島市
   別棟の小児専用病棟を大々的に謳ったが、目論見通りに実働常勤医が集まらず、まったく機能せず。救急とれやごるらぁ!とも言えないラインナップ。

番外:日野市立病院 - 日野市
   < 小児科医、小児科専門医 (常勤・非常勤 募集 >
   http://www.city.hino.tokyo.jp/hospital/soumu/saiyou.html
   慶應から総引揚げをくらい崩壊。その後、紆余曲折あり足腰弱し。

正直なところこの中で聞いたことがある病院と言えばお恥ずかしいことですが、清瀬の小児病院ぐらいで、ここが平成21年閉鎖と聞いて驚いているぐらいです。あくまでも病院の名前の印象だけですが、国立東京災害医療センターなんて凄い名前の病院から小児科常勤医がいなくなって、災害医療が本当に起こった時に一体どうするんだろうと心配したぐらいです。後は東京の地理と医療事情に昏すぎるため、きっとどの病院も地域の中核を担う基幹病院だろうなぐらいしかわかりません。

ただコメントを頂いておぼろげながらに理解した事は、東京の救急崩壊の構図は地方とはかなり違うようだと言う事です。地方の崩壊の構図は物理的に医者の不足です。医者が立ち去り、寄り付かなくなり病院機能自体が成り立たなくなり崩壊状態になっています。そのためなんとか医者を呼び戻す方策が至上課題となっています。

東京は地方を立ち去った医者の受け皿的な位置にいますから、医者の数は十分いそうです。コメントを読んだ印象でも地方のように切実に「医者がいない」の悲鳴は読み取れません。医者はいるんだが小児も含めた救急に寄り付かないため危機に陥っていると考えられます。言ってみれば都内の医者の偏在現象と言えば良いのでしょうか。

救急から医者が逃げ出した構図は単純そうです。救急医療の構図は一次、二次、三次と階層分けして構築されています。次数が上がるほど重症患者に対応できる設備と人員を備えていると考えて頂ければ良いかと思います。ただし階層分けされているとは言え、患者の受診は原則としてフリーアクセスです。小児で言えば「鼻水がひどくて苦しそう」は当然一次対応なのですが、患者の意志によりいきなり三次を受診する事は可能なのです。高次の医療機関は重症患者に対応できるだけの設備とスタッフがありますが、あくまでも高次の医療機関で治療が必要な患者はそれなりに限定されるという条件の下でです。三次救急の能力を持つと言っても、一次、二次の患者が押し寄せてきたらパンクします。

一方で患者サイドの意識として高次救急のほうが「しっかりした治療をしてくれて安心」という意識が濃厚です。医者側から見れば軽症患者は一次で治療しようが、三次で治療しようが同じです。むしろ重症患者を対象にしている三次病院では、軽症なら「こんなものは病気のうちに入らない、ほっといても治る」と雑な扱いをされるほうを心配します。それでも患者はできるだけ高次救急を選びたがる傾向が強いようで、東京ではこれが一段と強い傾向があるようです。

もともと高次需要を想定して作られている病院に一次患者まで殺到されると、働いている医者はトンデモナイ激務と化します。そりゃそうで、本来の業務である重症患者の治療だけでも相当な仕事量であるのに、その上に夜間救急で一次から三次まで殺到されたら燃え尽きて不思議ありません。燃え尽きて医者が去ると、そこに医者の間で悪評が立ちます、「あそこに行ったら半殺しの目に遭う」と。そうなれば立ち去った後の補充に難航し、残されたスタッフにさらに重圧がかかります。結果として消滅してしまうという構図と理解できそうです。

地方でも似たようなものですが、地方は医者が都市部に逃散するのに対し、東京では都内の救急の無い病院に逃散する現象になっていると考えられます。また地方から東京に逃散してくる医者は多いでしょうが、地方からの逃散組は東京だからといって、泥沼の救急医療に再び従事しようと思う者は少数派ではないかと思います。心境は都内の救急からの逃散組と基本的に同じですから、いくら東京に地方から逃散してきた医者が流入しても、救急を始めとする東京の弱点とされる医療部分の補強には役に立たないという事になります。

結果として統計上医者の数がいるにもかかわらず、救急医療の状態は医者不足の地方と似た構図に陥りつつあると考えます。医者は基本的にいるだけに在京の心ある医師は憂えています。ni-ni様とそれを受けての非小児科医様の提案にその危機感が濃厚に表れています。ここでは非小児科医様の提言を記します。

  1. 紹介とトリアージされた救急車患者以外の二次(三次)の禁止(つまり、患者側希望による直接の受診に対しては、病院側に明確な拒否権をもたせ、その後の転記について一切の民事・刑事責任を問わない。また、トリアージの結果についても同様)
  2. 時間外・夜間救急受診の有料化(支払いのない人に対しては、受診拒否を正当化できる)
本音として良く分かるのですが、現実問題としては現時点としては非常に実現が難しい提案です。

最後にmik様から頂いた首都圏の「たらい回し」の実例報告です。ソース元はYOMIURI ONLINEです。主要部分だけ抜粋します。

4月下旬の夕刻。越谷市の山中義一(66)(仮名)は、電話をかけ続ける救急隊員の声を聞きながら、横たわる母(94)の顔を見ているしかなかった。

母が突然、心筋梗塞(こうそく)でベッドに突っ伏したのは、午後4時半ごろ。以前受診した病院に電話すると、「救急車を呼んで下さい」。別の病院も同じ返事だった。

 119番通報から3〜4分で救急車は到着。2人の隊員が交代で受け入れ病院を求めて電話をかけたが、「空きベッドがない」「医師がいない」「手術中」……。幾つもの病院に断られた。「30か所ぐらいかけた」と山中は記憶している。

 東京都足立区内の病院が決まったのは約1時間半後。母は助からなかった

奈良事件は子癇からの脳出血という特殊なケースでしたが、この事件は心筋梗塞心筋梗塞が重症であるのは間違いありませんし、患者が94歳であるのもハイリスクですが、奈良事件より対応可能な病院は多いと考えられます。越谷市がどの程度の街か分かりませんが、大淀町と条件的には同等かマシなところではないかと想像します。それでも30ヶ所以上、1時間半の時間が搬送先を探すのにかかっています。

奈良事件が東京で起こっても不思議はないと思います。