今日は軽めの話題で・・・

どうしても奈良事件関係の話題の呪縛から逃げ切れないので、関連する軽めの話題でお茶を濁します。

コメント下さった方の意見で、瞬時に搬送先を見つけるシステムの構築の必要性を訴えられているものがありました。電話で一軒ずつ確認するよりネット利用で一目瞭然に見つけられるシステムがあれば、今回の事件でも19軒も断られる無駄な時間が省かれ、短時間で最終受け入れ先になった国立循環器センターを見つけられたのではないかと言うご意見です。

誠にごもっともな意見で、むしろ今までなんでそれを作っていなかったと言われそうです。ところが作っていなかったわけではなく、全国にどれぐらいあるかは知りませんが、知っている限り90年代からあります。ありますがあんまり有効に機能はしていなかったと記憶しています。

軽く考えるといかにも手軽に出来そうなシステムです。その時々の空床情報を登録し、センターがこれを把握し、問合せに対して即座に一覧を提供するだけですから。90年代は電話でやっていましたが、今ならIT技術を駆使できますから、それこそ一目瞭然のものが出来そうに思います。ところが有効に機能しにくいのです。

原因は不確定要素の多さです。まずいくら空床があったとしても、その数だけ無条件に入院を受け入れられない事があります。ICUNICUは重症患者の治療場所です。ICUNICUというだけで基本的に重症なんですが、その重症さもかなり濃淡があります。近日中に一般病床に移れそうな比較的症状が安定し、治療に手がかからない患者から、生死の境を攻防中の患者までいます。ICUNICUとはいえそこに従事する人員は限定されます。生死の境の患者を必ずしも見た目上の空床数だけ受けきれないのが実情です。

生死の境の重症患者がずらっと並んでいて超多忙な時に、それでも空床があるから受け入れる時には、ICUNICUの入院の必要性があっても、残りのマンパワーでなんとか賄えそうな患者をある程度選別しなければなりません。パンク状態で治療に当たっている時にメガトン級の重症患者がさらに加われば、治療に疎漏が生じる危険性が高くなるからです。そういうギリギリの選択は数値化して表現するのは非常に難しいのです。また奈良事件のように複数の診療科で、さらに高度な技量を要するスタッフが必要な時には、それらの診療科の受け入れ能力や体制の情報もリアルタイムで常に必要です。とくに夜間とか休日のような時間外の時にはマンパワーがさらに低下するので条件は複雑化します。当直に当たっている医師の能力、その時間に呼び出せる医師の数と質、診療科が複数になればその条件は数倍の難しさになります。

たとえば2床の物理的空床があっても、通常は1床としか表現しない事が多いのです。なぜなら次の患者がどれほどの重症度であるか予想もつかないからです。ICUNICUで治療開始したほうが安全確実レベルの患者から、着いた瞬間から修羅場になる患者まで要請を受け入れ治療を開始するまで分かりません。どうしてもまず一人受け入れて、ある程度状態が安定してからもう一人受け入れる事が出来るかを判断しなおす必要があります。

ICUNICUが必要な患者はいつ何時発生するかわかりません。外部からの救急搬送だけではなく、救急外来で突然発生するときもありますし、入院患者の症状が急変する時もあります。とくに入院患者が急変した時に、自分の病院の患者を受け入れないわけにもいかないです。そのためには入院患者の要注意患者の情報もエッセンスとして必要です。

思いつくままに書いたので雑然としていますが、要するにシステムを作るには数値化が容易でなく、さらに急激に変動する諸条件をリアルタイムで把握する必要があるということです。私のような乏しい能力では、システム設定のための前提条件を作るだけでも途方に暮れます。

もっとも今のIT技術は急速に進歩していますから、私が難しいと感じた諸条件をクリアする能力があるのかもしれません。ひょっとするとこれを克服したシステムがあるのかもしれません。ただ私の狭い見聞ではまだ無かったと思うのですが・・・。